本記事のポイント
- 東京都が宿泊税を「定額制」から「定率3%」へ変更し、課税免除基準を1.3万円へ引き上げる素案を発表。
- 業界団体(日本ホテル協会東京支部)が要望していた「民泊の課税対象化」は反映されたものの、反対していた「定率制」は採用される形となった。
- 今後の条例改正に向けた議論では、宿泊事業者の実務負担に対する「徴収事務手数料(特別徴収交付金)」の料率設定やシステム改修支援が最大の焦点となる。
ニュースの概要
東京都は2025年11月26日、宿泊税制度の見直しに関する素案を公表しました。主な変更点は、現行の「定額制(100円・200円)」を撤廃し、宿泊料金に対して一律3%を課す「定率制」への移行です。また、課税免除の基準額を現行の「1万円未満」から「1万3000円未満」へ引き上げるほか、これまで対象外だった「民泊」や「簡易宿所」も新たに課税対象とすることが示されました。
都はこの見直しにより、宿泊税収が現在の年間約69億円から約190億円規模へ増加すると試算しており、増収分は観光スポットの混雑緩和や環境美化など、持続可能な観光振興の財源に充てるとしています。今後、パブリックコメントを経て2026年2月に条例改正案を提出し、2027年度中の施行を目指すスケジュールとなっています。
業界の要望と素案の対比
今回の素案公表に先立ち、日本ホテル協会東京支部などの業界団体からは、宿泊税の見直しに関する意見書が提出されていました。提出された意見書(2025年9月2日付)の内容と、今回発表された東京都の素案を対比すると、業界側の主張が通った点と、方針が異なった点が明確になります。
1. 課税対象の拡大(民泊・簡易宿所)
- 業界の要望:「東京都以外導入済みの自治体は全て民泊等も対象としている」として、公平性の観点から全宿泊者への拡大を要望。
- 都の素案:要望通り、民泊(新法・特区)および簡易宿所を新たに課税対象に追加。
- 解説:ホテル・旅館業界が長年懸念していた「イコールフッティング(競争条件の公平性)」の課題は解消される方向です。
2. 課税方式(定額制 vs 定率制)
- 業界の要望:「取りやすいところから取る不公平な性格を強める」として、定率制導入に反対し、定額制の維持を要望。
- 都の素案:宿泊料金(担税力)に応じた公平な負担という観点から、定率制(3%)への移行を採用。
- 解説:都は「1.5万円の宿泊も3万円の宿泊も税負担率が乖離している現状」を是正する方針を選びました。高価格帯ホテルにとっては、業界の懸念通り大幅な税額増となります。
3. 税額水準と徴収手数料
- 業界の要望:税額の拡大自体を控えるべきと主張。もし拡大する場合、徴収事務を行う宿泊施設に対し、カード手数料等を考慮して「3.0%(上限なし)」の手数料(特別徴収交付金)を支払うよう要望。
- 都の素案:特別徴収交付金について「適切な見直しを図る」との記載にとどまり、具体的な料率は未定。
- 解説:ここが今後の最大の交渉ポイントとなります。京都市の改正例(5年間は3.5%など)を引き合いに出している業界に対し、都がどこまで歩み寄れるかが注目されます。
宿泊業にとってのポイントと課題
実務負担と「徴収手数料」の行方
定率制への移行に伴い、現場では1円単位の計算や端数処理など、システム改修を含めた実務負担が発生します。素案では「申告納入手続の簡素化」や「DX推進支援」が謳われていますが、ホテル経営の視点では、実費負担をカバーできるだけの特別徴収交付金(事務手数料)が確保できるかが極めて重要です。 素案にある「適切な見直し」が、単なる微増にとどまるのか、業界が求める「決済手数料分(数%)」まで考慮されるのか、引き続き注視する必要があります。
顧客への説明責任と納得感
税率3%となると、例えば1泊5万円の宿泊で1,500円、10万円なら3,000円の税金が発生します。現行の200円と比較して負担増が顕著であるため、チェックイン時のトラブルを避けるための丁寧な案内が必要です。 同時に、集めた税金が「本当に観光振興(=顧客の快適性向上)に使われているか」という点について、業界側から都に対して使途の透明性と成果を厳しく求めていく姿勢も、顧客への説明責任を果たす上で重要になります。
自社への活かし方のヒント
施行予定の2027年度に向けて、今から準備・検討できるアクションがあります。
- パブリックコメントへの参加
2025年11月27日から12月26日まで実施されるパブリックコメントに対し、現場の実情(システム改修の負担感、決済手数料の重さなど)を具体的な数値とともに意見として届けることが、交付金の料率決定などに影響を与える可能性があります。 - システム改修費用の見積もり
定率計算への対応に加え、インボイス制度対応なども含めたレジシステム(PMS)の改修が必要になるか、ベンダーへ早めに相談し、概算費用を把握しておきましょう。これを根拠に、都や業界団体へ支援要請を行うことも考えられます。 - 従業員エンゲージメントの視点
現場スタッフが「なぜ税金が上がるのか」を理解していないと、顧客からのクレーム対応で疲弊してしまいます。「東京の観光を持続可能にするための財源」という大義名分に加え、「その分、私たちの事務負担に見合う手数料交渉を会社(業界)として行っている」という姿勢を共有し、スタッフの心理的負担を和らげる配慮も大切です。
まとめ
- 東京都の宿泊税見直し素案は、民泊の追加など業界要望を一部反映しつつも、定率3%への移行という大きな転換を提示しました。
- 業界団体は定率制による負担の偏りを懸念しており、今後は実務を担う宿泊施設への「特別徴収交付金(手数料)」の料率設定が焦点となります。
- 2027年度の施行に向け、パブリックコメントでの意見発信や、システム改修の準備を計画的に進めることが推奨されます。
お問い合わせ
| 項目 | 内容 |
| 担当 | 東京都 主税局 税制部 税制課 |
| 電話番号 | 03-5388-2949(直通) |
※本記事は東京都の発表資料をもとに作成しています。
出典: 東京都『「宿泊税の見直し(素案)」の公表及びパブリックコメントの実施について』(https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/information/press/r7/11/2025112601)
参考:


