本記事のポイント
- 全国的な食材不漁の状況下でも、産地の利を活かした調達力で競合優位性を確保する視点
- 「ミシュラン」や「日本秘湯を守る会」など第三者評価を巧みに組み合わせたブランディング手法
- 食と温泉を単体で売らず、「ととのう滞在」としてストーリー化する商品設計のヒント
ニュースの概要
広島県江田島市に位置する「江田島荘」は、2025年11月25日より、冬の特別滞在プランの提供を開始しました。
今季は全国的に牡蠣の水揚げ量が少なく、多くの飲食店で確保が困難な状況が続いていますが、同施設は日本有数の産地という立地を活かし、江田島産牡蠣を使用した限定メニューを用意しています。
また、同施設は2025年6月に広島県で初めて「日本秘湯を守る会」への加盟が認められました。この希少な「海の秘湯」と、ミシュランガイドにも選出された滞在品質、そして新料理長によるイタリアンを掛け合わせ、「美食・温泉・睡眠」をトータルで楽しむ「冬の”ととのう滞在”」を提案しています。
地域の「独自資源」と「権威性」を掛け合わせ、選ばれる理由を創る
逆境をプロモーションの好機に変える
宿泊業界において、食材の調達難は頭の痛い課題ですが、見方を変えれば「自社だけが提供できる」という強力な差別化要因になり得ます。
今回の事例で注目すべきは、全国的な「牡蠣の不漁」というネガティブな市場環境を、産地ならではの「調達力」というポジティブな要素に転換している点です。
多くの施設が提供を断念せざるを得ない状況下で、「ここでは食べられる」という事実は、それだけで強力な誘引力となります。地元の生産者との強固なネットワークや、産地ならではの地の利を改めて棚卸しし、市場の欠乏感に合わせて発信することで、施設の希少価値を高めることができるのではないでしょうか。
第三者認証による「品質の可視化」
自社の魅力を伝える際、自画自賛にならずに説得力を持たせるためには、第三者機関による評価が有効です。
江田島荘の事例では、以下の2つの権威性を効果的に活用しています。
- ミシュランガイド ホテルセレクション: 総合的な滞在品質の証明
- 日本秘湯を守る会: 温泉泉質と環境保全への取り組みの証明
特に「日本秘湯を守る会」は、加盟基準が厳格であることで知られており、広島県初の加盟という実績は、温泉ファンに対する強い訴求力を持っています。こうした認証取得は一朝一夕にはいきませんが、長期的なブランディング戦略として、自施設の強みに合致した認証制度への挑戦を検討するのも一つの選択肢といえます。
「食×温泉」をストーリーとして提案する
単に「美味しい料理」と「良い温泉」がある、という訴求にとどまらず、それらを組み合わせた「滞在体験(ストーリー)」として提案している点も参考になります。
江田島荘では、新料理長による「山と海の恵みが溶け合う」イタリアンと、血流促進が期待できる「温冷交互浴」可能な温泉をリンクさせ、「ととのう冬旅」というコンセプトに昇華させています。
機能的な価値(スペック)だけでなく、「この宿に泊まることで、どのような心身の変化が得られるか」という情緒的な価値(ベネフィット)を言語化することが、顧客の記憶に残る滞在提案につながるでしょう。
独自の強みを再定義し、発信する
地域の特産品や温泉資源、そして第三者からの評価。これらを個別の要素として捉えるのではなく、一貫したストーリーの中で組み合わせることで、高付加価値な商品が生まれます。
江田島荘の取り組みは、不漁という外部環境の変化すら味方につけ、地域のポテンシャルを最大限に引き出した好事例と言えるでしょう。
自施設においても、当たり前すぎて見落としている「地域との繋がり」や「泉質の特性」がないか、改めて見直してみる価値はあるかもしれません。
まとめ
- 調達力の見直し: 市場環境が悪化した時こそ、安定供給できるルートが強みになります。
- 権威付けの活用: ミシュランや専門団体の認証は、品質保証の強力なアンカーとなります。
- ストーリー化: 食と温泉をバラバラに売らず、滞在全体を通したテーマを設定しましょう。
出典
出典:PR TIMES『旬牡蠣×美人湯×多島美。江田島荘で“ととのう冬旅”が始まる』(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000137526.html)


