宿泊・旅行業界ニュース

星のや東京に学ぶ、郷土料理の「再構築」と食の体験価値向上

北海道の「たちかま」を再構築した魚料理
CoCoRo編集部

本記事のポイント

  • 星のや東京が「失われつつある家庭料理」をテーマに、冬限定のコース料理を提供開始。
  • 郷土料理の背景にあるストーリーを掘り起こし、現代的な技法で「美食」へ昇華させる手法に注目。
  • 単なる高級食材の提供にとどまらない、宿泊施設における「食の体験価値」の高め方を解説。

ニュースの概要

星野リゾートが運営する日本旅館「星のや東京」は、2025年12月1日より、メインダイニングにて冬限定メニューの提供を開始します。今回のコンセプトは「もう作られなくなった日本の家庭料理」。ファストフードの台頭やライフスタイルの変化により失われつつある日本各地の家庭の味に焦点を当てています。

提供されるコースでは、愛知県の「ひきずり」や徳島県の「ならえ」、北海道の「たちかま」など、日本全国の郷土料理をピックアップ。それらを単に再現するのではなく、フレンチの技法や独創的な感性を用いて現代的な美食へと再構築しています。

期間は2025年12月1日からとなり、宿泊者限定で提供されます。地域の風土や歴史的背景を持つ料理を、洗練された空間で味わうという、日本旅館ならではの深い食体験を提案する取り組みです。

宿泊業にとってのポイント

今回のニュースにおける最大の注目点は、「高級=高価な食材」という図式だけでなく、「文化的背景=付加価値」という視点でメニュー開発が行われている点ではないでしょうか。

多くの宿泊施設において、夕食は滞在の満足度を左右する重要な要素です。伊勢海老や和牛といった分かりやすい高級食材は確かに喜ばれますが、それだけでは競合他社との差別化が難しくなりつつあります。星のや東京の事例は、「忘れられつつある家庭料理」という、一見すると素朴なテーマをラグジュアリーな体験へと転換させている点が非常に示唆に富んでいます。

背景と理由の整理

「コト消費」から「イミ消費」への変化

昨今の旅行者、特に高単価な層やインバウンド客は、単に美味しいものを食べるだけでなく、「その土地でしか味わえない物語」や「背景にある文化」を消費したいという欲求を強く持っています。いわゆる「イミ消費(意味消費)」の傾向です。

郷土料理の再定義による差別化

一方で、伝統的な郷土料理をそのまま提供するだけでは、現代の旅行者の舌や感性に響きにくい場合もあります。また、家庭料理は「素朴すぎる」と捉えられるリスクもあります。 そこで重要になるのが、今回の事例のような「再構築(Reconstruction)」というアプローチです。地元の食文化という「真正性(Authenticity)」を保ちつつ、プロの技術で現代風にアレンジすることで、驚きと発見のある独自のコンテンツになり得ます。

具体的な取り組み・ニュース内容の解説

星のや東京が提供するメニューは、元となる郷土料理の要素を分解し、全く新しい料理として組み立て直しています。

  • 愛知県「ひきずり」の再構築
    • 元料理: 鶏肉のすき焼き。
    • アレンジ: 鶏胸肉で椎茸や生麩を包む「バロティーヌ」というフレンチの技法を採用。すき焼きの甘辛い風味を残しつつ、見た目も食感も洗練された一皿に仕上げています。
  • 徳島県「ならえ」の再構築
    • 元料理: 7つの食材を三杯酢で和える家庭料理。
    • アレンジ: 豆漬けのタルタルや伊勢海老を組み合わせ、バターと豆乳のコクで奈良漬の酸味を包み込む形に昇華させています。
  • 北海道「たちかま」の再構築
    • 元料理: スケトウダラの白子のかまぼこ。
    • アレンジ: 白子を濃厚なソースに仕立て、旬の焼き魚や焼きリゾットと合わせることで、メインディッシュとしての存在感を持たせています。

このように、単に「郷土料理を出しました」ではなく、「郷土料理の哲学や食材の組み合わせをヒントに、新しい料理を創作した」というプロセス自体が、ゲストへの語りがいのあるコンテンツとなっています。

自社への活かし方のヒント

この事例は、星のや東京のような高級旅館に限らず、多くの宿泊施設で応用できる考え方を含んでいます。

足元の「忘れられた食文化」をリサーチする

地元の古老や郷土史料から、今はあまり作られなくなった家庭料理や保存食を探してみるのはいかがでしょうか。有名な名物料理だけでなく、地元の人しか知らないようなマイナーな料理にこそ、旅行者が求める「未知の体験」が眠っているかもしれません。

「そのまま」ではなく「編集」して提供する

見つけた郷土料理をそのまま出すのも一つですが、現代のゲストが楽しめるようにひと工夫加える視点が重要です。

  • 盛り付けを変える: 伝統的な煮物を、洋皿に美しく盛り付ける。
  • 食材を置換する: 地元の野菜を使いつつ、調理法は洋風にする、あるいはその逆。
  • ストーリーを添える: 「なぜこの料理が生まれたのか」「なぜ今は減ってしまったのか」という背景をメニュー表や口頭で伝える。

こうした「編集」の工程を加えることで、ありふれた食材でも、その宿でしか味わえない特別な料理へと変わる可能性があります。

スタッフの語れる要素を増やす

料理の背景にあるストーリーは、サービススタッフとゲストの会話のきっかけになります。「これは昔、この地域の家庭でよく食べられていたんですが…」という会話は、ゲストの記憶に残る滞在体験を作る助けになるでしょう。

まとめ

  • 星のや東京の事例は、郷土料理の「再構築」が強力な差別化要素になることを示しています。
  • 高級食材に頼るだけでなく、地域の食文化や歴史的背景という「ストーリー」を付加価値として活用する視点が重要です。
  • 自地域の埋もれた食文化を掘り起こし、現代的なアレンジを加えて提供することは、顧客満足度と従業員の地域への誇りを高める一歩になるかもしれません。

まずは自社の厨房スタッフや地元出身のスタッフと、「昔食べていた懐かしい味」について雑談してみることから始めてみてはいかがでしょうか。

企業情報

本リリースに関するお問い合わせ

※本プレスリリースには、個別の問い合わせ担当者名は記載されておりません。詳細は上記公式サイトまたは総合予約窓口へご確認ください。

出典:PR TIMES『【星のや東京】白子や伊勢海老などの冬の味覚と、日本全国の懐かしい郷土の味が響き合う。「もう作られなくなった日本の家庭料理」冬限定メニュー提供開始』(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001934.000033064.html

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