2025年11月、令和7年度補正予算について、概算閣議決定がされました。
この補正予算案は、総額225億円を投じてオーバーツーリズム対策や違法民泊対策、ユニバーサルツーリズム、省力化投資などを一体的に進める内容となっています。
本記事では、ホテル・旅館など宿泊業に携わる経営者やマネージャー向けに、この補正予算が「どんなメニューで」「誰が応募できて」「自社にはどこが関係しそうか」を整理して解説します。
本記事のポイント(観光庁の補正予算2025)
- 観光庁の補正予算2025・225億円は、オーバーツーリズム対策、観光交通、安全・安心、コンテンツ造成、省力化・省人化、ユニバーサルツーリズムといった複数の柱で構成されている。
- 宿泊業に直結するのは、バリアフリー化や自動チェックイン機、共同設備などの補助メニューに加え、違法民泊の排除やインバウンド安全対策など、経営環境そのものを改善する施策群。
- 自社だけでなく、自治体・DMOとの連携前提の事業も多く、観光庁の補正予算2025を最大限活かすには「地域の公募情報を取りに行く体制づくり」が重要になってきそうです。
ニュースの概要(観光庁の補正予算2025の全体像)
観光庁が公表した令和7年度観光庁関係補正予算(案)は、総額225億円で、目的は大きく分けて次の2点です。
- オーバーツーリズムなどの課題に総合的に対応し、地域住民の安全・安心と観光との共生を実現すること
- 地方誘客や高付加価値化を進め、観光立国としての競争力を高めること
主な事業と規模(要求ベース)は、以下の通りです。
- オーバーツーリズム対策等観光交通確保事業:67.7億円(観光交通・ライドシェア・大きな荷物対応・キャッシュレス化など)
- 地方誘客促進に向けたインバウンド安全・安心対策推進事業:8.8億円(クマ出没情報の多言語発信、非常時対応、医療機関のキャッシュレス対応など)
- 違法な民泊サービスの解消に向けた調査:0.4億円(民泊制度運営システムの改修、特区民泊・簡易宿所も含めた情報一元管理)
- 観光需要分散のための地域観光資源のコンテンツ化促進事業:49億円(高単価コンテンツやガストロノミーツーリズム支援など)
- ユニバーサルツーリズムの促進に向けた環境整備:40億円(宿泊施設・観光施設のバリアフリー化・研修など)
- 観光地・観光産業における省力化・省人化等推進事業:25.5億円(自動チェックイン機、セントラルキッチン、従業員寮整備、人材確保・定着・待遇改善の調査など)
さらに、観光DX推進やインバウンド消費動向調査の高度化、「第2のふるさとづくり」、高付加価値インバウンド観光地づくり、医療インバウンドの調査・実証なども含まれており、観光地全体の高度化を狙った構成になっています。
観光庁の補正予算2025は、単発の補助金というより「観光地の質と生産性を底上げするパッケージ」と捉えると分かりやすいかもしれません。
宿泊業にとってのポイント(観光庁の補正予算2025)
観光庁の補正予算2025のうち、宿泊業にとって特に関係が深いポイントを3つに整理します。
1. 違法民泊の排除とルール遵守の強化
違法民泊については、「民泊制度運営システム」に旅館業法の簡易宿所や特区民泊も含めて情報を一元管理し、仲介サイトとAPI連携して無届物件を自動的に検知・排除する方向性が示されています。
これにより、以下の変化が見込まれます。
- 無届民泊が仲介サイト上に掲載されにくくなり、適法な宿泊施設との価格競争が是正されていく
- 登録情報(住所や届出番号)とサイト上の掲載情報の整合性がチェックされるため、自施設の情報管理の重要性が増す
- 自治体による監視・指導が効率化され、悪質な事業者にはより迅速に対応が入りやすくなる
適法に運営しているホテル・旅館にとっては追い風ですが、届出情報と現場運用がズレている施設は、早めの見直しが安心と言えそうです。
2. 省力化・省人化と従業員エンゲージメント
観光地・観光産業における省力化・省人化等推進事業では、共同設備(セントラルキッチン、温泉引湯管、従業員寮)や自動チェックイン機などの設備投資が支援対象になります。
観光庁が公表している「宿泊事業者における経営改善マニュアル」でも、生産性向上の観点として「施設の生産性」「業務の生産性」「顧客価値」の3軸での改善が提案されています。
省力化投資は単なる人件費削減ではなく、次のような狙いで考えると、自社の高付加価値化とつながりやすくなります。
- 単純作業を機械化し、スタッフは接客や提案など「顧客価値の高い仕事」に集中する
- 従業員寮整備などを通じて、採用や定着を強化し、人材不足リスクを低減する
- 共同設備で地域の複数旅館が効率化しつつ、それぞれの「おもてなし」に時間を割ける体制をつくる
現場の声を踏まえずに機械だけ導入すると、かえってスタッフのストレスを増やすケースもあります。補助メニューを検討する際は、「どの業務負荷を減らしたいのか」「減った時間で何を増やしたいのか」を一緒に設計しておくと良さそうです。
3. バリアフリー化とユニバーサルツーリズム
ユニバーサルツーリズムの促進に向けた環境整備では、宿泊施設や観光施設のバリアフリー化に必要な施設改修や設備導入、当事者の声を踏まえた専門家によるアドバイス、スタッフ向け研修などが支援されます。
高齢化が進む国内市場だけでなく、海外からの高齢者・障害者の旅行需要を取り込む上でも、宿泊業として次のような視点が重要になってきます。
- 客室や館内動線の段差解消、手すり設置など「物理的バリア」の改善
- 視覚障害・聴覚障害の方への情報提供、コミュニケーション方法など「情報バリア」「心のバリア」への対応
- 受入体制を整えたうえで、それをきちんと情報発信し、選ばれる理由に変えていく
観光庁の補正予算2025を活用したバリアフリー化は、「設備投資+ブランドづくり」を同時に進めるチャンスと捉えると良いかもしれません。
背景と理由の整理(観光庁の補正予算2025が生まれた文脈)
観光庁の補正予算2025の背景には、いくつかの構造的な課題があります。
1. オーバーツーリズムの顕在化と地域との軋轢
訪日客は急回復し、特定エリアや時間帯に観光客が集中することで、渋滞や騒音、ごみ問題などが顕在化しています。観光庁は、先行事例としてオーバーツーリズムの未然防止・抑制事業のモデル地域事例集も取りまとめており、駐車場の有料化やシャトルバス整備、マナー啓発など、地域ごとのきめ細かな対策が紹介されています。
今回の観光庁の補正予算2025でも、観光交通の確保や安全・安心対策、コンテンツ分散など、こうした現場課題を受けた施策が並んでいます。
2. 人手不足と生産性の課題
コロナ禍からの需要回復と同時に、人手不足は深刻化しています。省力化・省人化推進事業の事業目的にも、「観光需要の急増に伴う人手不足は深刻であり、省力化・省人化の推進が不可欠」と明記されています。
宿泊業向けの経営改善マニュアルでも、原価管理、業務の標準化、価格戦略の見直しなど、現場の「頑張り」だけでは解決できない構造的な課題が指摘されています。
3. 高付加価値化と地方誘客の必要性
訪日客の数だけでなく、一人当たり消費額や地方部での宿泊数を増やすことも政策目標として掲げられています。観光需要分散のためのコンテンツ化促進事業や、高付加価値インバウンド観光地づくり事業は、こうした方向性を背景にしたものです。
観光庁の補正予算2025は、「数」ではなく「質」と「分散」を重視した投資に舵を切りつつある、という流れとして捉えておくと、今後の公募情報の読み方にも役立つでしょう。
具体的な取り組み・ニュース内容の解説(観光庁の補正予算2025を分解する)
ここからは、観光庁の補正予算2025の主要メニューを、宿泊業の視点でかみ砕いて整理します。
1. オーバーツーリズム対策等観光交通確保事業(67.7億円)
- 内容:空港から地方観光地までの移動で、観光客と住民双方が快適に移動できるよう、荷物スペース整備、キャッシュレス決済、日本版/公共ライドシェア導入などを支援。
- 想定主体:地方公共団体・DMO・民間事業者など(直接補助・間接補助)
宿泊業から見ると、空港・駅からのアクセス改善や、チェックイン時間帯の交通混雑緩和につながる可能性があります。地域の公共交通・DMOとの連携が鍵になりそうです。
2. 地方誘客促進に向けたインバウンド安全・安心対策(8.8億円)
- 内容:災害やクマ出没情報の多言語発信、非常時の避難誘導体制の検討、医療機関におけるキャッシュレス決済整備などを支援。
- 宿泊業への波及:
- 自施設の非常時マニュアルや多言語案内の見直し
- 最寄り医療機関との連携強化(キャッシュレスでの受診案内など)
- 安全・安心な宿としてのブランディングの一部に活用
3. 違法民泊サービスの解消に向けた調査(0.4億円)
- 内容:民泊制度運営システムに、住宅宿泊事業だけでなく特区民泊や簡易宿所も組み込み、仲介サイトとのデータ連携に向けた要件や都道府県の実態を調査。
これにより、「合法的に運営している宿泊施設が不利になる構造」を是正していく狙いがあります。観光庁の補正予算2025の中でも、短期的には見えにくいですが、中長期的に市場環境を整える重要な一手と言えるでしょう。
4. 観光需要分散のための地域観光資源のコンテンツ化促進(49億円)
- 内容:
- 地域資源を活用した新しい観光コンテンツの造成と情報発信
- 高単価インバウンド向けオプショナルツアーの品質向上
- ガストロノミー(食文化)分野のコンテンツ造成 など
宿泊施設としては、次のような連携が考えられます。
- 宿泊+体験(農業体験、酒蔵見学、職人との交流など)のパッケージ化
- 地元の飲食店・生産者との連携による「地域一体の食体験」造成
- 高単価ツアーの受入れ拠点としてのサービス設計(レイトチェックアウト、専用ラウンジなど)
5. ユニバーサルツーリズムの促進に向けた環境整備(40億円)
- 内容:ユニバーサルツーリズムに関する調査・研修、シンポジウムなどの機運醸成、バリアフリー化改修や設備導入への補助。
宿泊業としては、
- バリアフリールームの整備
- 大浴場やレストランへの動線見直し
- スタッフ研修での接遇スキル向上
など、ハード・ソフト両面での改善に取り組みながら、観光庁の補正予算2025をうまく組み合わせていきたいところです。
6. 観光地・観光産業における省力化・省人化等推進事業(25.5億円)
- 内容:共同設備(セントラルキッチン、温泉引湯管、従業員寮)や自動チェックイン機など、省力化に資する設備投資と、人材確保・定着、待遇改善に関する調査等を支援。
観光庁の「宿泊事業者における経営改善マニュアル」が示すように、こうした投資は「施設」「業務」「顧客価値」の3面から検討することが推奨されています。
自社への活かし方のヒント(観光庁の補正予算2025を前提に
最後に、観光庁の補正予算2025を、ホテル・旅館がどのように自社戦略に落とし込めるかのヒントをまとめます。
1. まずは「どのメニューが自社に関係しそうか」を棚卸し
観光庁の補正予算2025は多岐にわたるため、すべてを追う必要はありません。次のような観点で、自社に関係しそうなものだけを絞り込むと動きやすくなります。
- 3年以内に予定している設備投資(バリアフリー化、自動チェックイン機、従業員寮など)はあるか
- 地域のオーバーツーリズムや交通課題に、自社として関わる余地があるか
- 自社が強みとする体験・食・文化などをコンテンツ化したいニーズがあるか
観光庁の資料は自治体・DMO向けに書かれている部分も多いため、「自社単独で応募できるもの」「地域と組んで応募するもの」を分けて考えると、次の一手が見えやすいでしょう。
2. DMO・自治体と早めに情報交換しておく
多くの事業は、国→事務局→自治体・DMO→事業者というスキームで公募・採択が行われます。
宿泊業としては、
- 地域のDMOや観光協会に「観光庁の補正予算2025で、宿泊施設向けのメニューがあれば一緒に検討したい」と意思表示する
- すでにオーバーツーリズム対策やコンテンツ造成を進めている地域では、「宿泊の役割」を明確に提案する
といった動きが、採択確度を高める一歩になります。
3. 経営改善の長期計画と補正予算を接続する
観光庁の経営改善マニュアルでは、現状把握→優先課題の特定→アクションプランという流れで生産性向上を進めることが推奨されています。
観光庁の補正予算2025を「単年度の補助金」として見るのではなく、
- 5年・10年スパンの改装計画や人材戦略
- 高付加価値化に向けたターゲット顧客像の再設定
- 地域全体でのポジショニング(ラグジュアリー・ウェルネス・ガストロノミーなど)
と接続して考えると、補助事業の選び方や申請内容もブレにくくなるでしょう。
もし「どこから手を付けてよいか分からない」という場合は、まずは自社の課題を書き出し、そのうちどれが観光庁の補正予算2025のメニューと重なりそうかを照らし合わせてみるところから始めてみるのも一つの選択肢です。
まとめ
- 観光庁の補正予算2025は、オーバーツーリズム対策や観光交通の確保、違法民泊対策、コンテンツ造成、省力化・省人化、ユニバーサルツーリズムなどを通じて、観光地と宿泊業の質を底上げする225億円のパッケージと言えるでしょう。
- 宿泊業が直接活用しやすいのは、バリアフリー化や自動チェックイン機、共同設備整備などの補助に加え、違法民泊の排除や安全・安心対策による経営環境の改善などです。観光庁の補正予算2025のうち、自社に関係が深いメニューを早めに見定めておくと安心です。
- 自社だけで応募する事業と、自治体・DMOと連携して取り組む事業が混在しているため、地域の公募情報を継続的にキャッチし、観光庁の補正予算2025を自社の中期経営計画と結びつけて考えることが重要になってきます。
- 補正予算はあくまで「きっかけ」であり、本質は宿泊業の高付加価値化と持続可能な観光地づくりです。補助金に振り回されるのではなく、自社のありたい姿を振り返ってみると、どのメニューを活かすべきかが見えてくるかもしれません。
出典:観光庁『令和7年度 観光庁関係補正予算』


