ホテル・旅館の人手不足の原因は、採用の難しさよりも、採用した人が辞めてしまうことにあります。厚生労働省の調査では、2025年の宿泊業・飲食サービス業の離職率は23.7%で、産業別に見て最も高く、全産業の13.7%のおよそ1.7倍に達しました。
統計を並べると、所定労働時間の長さ、休みの取りにくさ、賃金の低さが目立ちます。一方で、宿泊業を辞めた人に理由を聞いた観光庁の調査では、最も多かった答えは給料ではありませんでした。1位は「自分のしたい業務ができなかった」です。この記事では最新の統計で現状を確かめ、離職の理由を整理したうえで、支配人や人事担当者が手を付けられる5つの対策を紹介します。
宿泊業・飲食サービス業の離職率は23.7%で、産業別に最も高い
最初に断っておくと、国の統計は「宿泊業」と「飲食サービス業」を合わせた数字で公表されており、宿泊業だけの離職率は公表されていません。ホテル・旅館だけを切り出した値ではない点に注意してください。その前提で、厚生労働省「雇用動向調査」(2026年公表)の2025年の結果を見ます。
| 指標(2025年) | 宿泊業・飲食サービス業 | 全産業 |
|---|---|---|
| 離職率 | 23.7%(産業別で最も高い) | 13.7% |
| 入職率 | 27.8%(産業別で最も高い) | 14.7% |
| 離職率(一般労働者=パートタイム以外) | 21.5%(産業別で最も高い) | 11.4% |
| 離職率(パートタイム労働者) | 25.0% | 19.9% |
出典:厚生労働省.“令和7年雇用動向調査結果の概況「産業別の入職と離職」表4-2 産業、就業形態別入職率・離職率・入職超過率”.厚生労働省公式サイト.2026年8月.https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/26-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf,(参照:2026年10月5日).
入職率も最も高く、採用は進んでいます。それでも1年のうちに、4人に1人近くが職場を離れる計算です。入っては辞める。その繰り返しです。
働く条件はどうでしょうか。
| 指標 | 宿泊業・飲食サービス業 | 全産業 |
|---|---|---|
| 週所定労働時間(1企業平均) | 40時間02分(産業別で最も長い) | 39時間24分 |
| 年次有給休暇の取得率(2024年) | 50.7%(産業別で最も低い) | 66.9% |
| 所定内給与額(一般労働者・2025年6月分) | 27万7,200円(産業別で最も低い) | 34万600円 |
出典:厚生労働省.“令和7年就労条件総合調査の概況「労働時間制度」第1表 1日及び週所定労働時間、第5表 労働者1人平均年次有給休暇の取得状況”.厚生労働省公式サイト.2025年12月.https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/25/dl/gaikyou.pdf,(参照:2026年10月5日).
出典:厚生労働省.“令和7年賃金構造基本統計調査の概況 第1表 性別賃金、対前年増減率及び男女間賃金格差の推移、第5-1表 産業、年齢階級別賃金及び対前年増減率”.厚生労働省公式サイト.2026年3月.https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2025/dl/14.pdf,(参照:2026年10月5日).
離職率の推移や他業種との比較は、統計データで見るホテル業界の離職率で詳しく扱っています。

ホテル業界の離職率が高い理由
まず、統計に表れる労働条件から見ます。辞めた本人が挙げた理由は次の章です。
労働時間が長く、休みが取りにくい
ホテルは年中無休です。早番・遅番・夜勤を組み合わせたシフトが前提になり、朝食と夕食の間に長い休憩を挟む「中抜けシフト」を組む旅館もあります。拘束時間は長くなります。週末と平日、繁忙期と閑散期の差が大きいことも響きます。閑散期の人件費を抑えようとすると、少ない人数で繁忙期を乗り切る運営になるからです。
休みの取りにくさは統計にも出ています。2024年の1年間に付与された有給休暇は1人平均15.9日で、取得したのは8.0日でした。半分です。人手に余裕がない職場では、「自分が休むと誰かが困る」という遠慮が働きます。そこへ1人が辞めると、残った人の負担が増え、次の退職者が出ます。
ホテルの給料が低いのはなぜ?
宿泊業・飲食サービス業の所定内給与額は月27万7,200円で、全産業の34万600円を6万3,400円下回ります。産業別で最も低い水準です。
背景として考えられるのが、業界の収益構造です。ホテルの売上は、客室数で上限が決まります。満室になれば、それ以上は売れません。しかも接客・清掃・調理は人の手に頼る部分が大きく、売上に占める人件費の割合が下がりにくい仕事です。売上を伸ばす手段が実質的に客室単価の引き上げに限られるため、賃上げの原資を生みにくい構造になっています。
教育と評価の仕組みが追いついていない
新人教育を先輩のOJT(実際の業務を通じて教えるやり方)だけに頼る職場では、誰が教えるかで新人の育ち方が変わります。忙しい日は教える時間が取れません。十分に教わらないまま現場に出た新人は、自信をなくして辞めていきます。
評価も同じです。接客の良し悪しを測る基準がなく、上司の印象で決まる職場があります。お客様に喜ばれる仕事をしても本人に伝わらなければ、手応えは得られません。現場から管理職へのポストも限られるため、「このまま働き続けて5年後に何ができるのか」が見えにくくなります。教育と評価の見直し方は、ホテルの教育・評価制度を再設計する方法にまとめています。

宿泊業を辞めた人の退職理由、1位は「したい業務ができなかった」
観光庁は2024年度、宿泊業での勤務経験があり、現在は宿泊業を離れている300人にモニター調査で退職理由を聞いています(複数回答)。上位は次のとおりです。
| 宿泊業を辞めた理由 | 割合 |
|---|---|
| 自分のしたい業務ができなかったから | 20.0% |
| 立ち仕事や重労働が多く体力的に厳しかったから | 16.7% |
| クレーム対応が多く精神的にストレスだったから | 14.0% |
| 人手不足等により、1人当たりの業務量が多すぎたから | 14.0% |
| 給料に不満があったから | 11.3% |
| スキルアップや自身のスキルを活用する機会が不十分だったから | 10.0% |
| 家庭の事情 | 10.0% |
| 新型コロナウイルスの流行等の外的要因 | 10.0% |
出典:国土交通省観光庁.“令和6年度「宿泊業の人材確保・育成の状況に関する実態調査事業」報告書”図Q32 宿泊業離職理由.国土交通省公式サイト.2025年3月.https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001891438.pdf,(参照:2026年10月5日).
給料への不満は5番目でした。統計では賃金の低さが目立つのに、辞めた本人の答えでは、したい業務ができないこと、体力的なきつさ、クレームのストレス、業務量の多さのほうが上位に来ています。1位でも20.0%なので理由は一つに絞れませんが、上位の4つはどれも、給料を上げるだけでは解消しない理由です。
客室清掃は重いリネンを運ぶ立ち仕事で、フロントは笑顔を保ちながらクレームや急な問い合わせに応じます。人手が足りない施設ほど一人が複数の持ち場を掛け持ちし、負担が偏ります。報告書も、従業員の希望を踏まえて配置する工夫や、機械化・デジタル化で心身の負荷を下げる工夫が重要だとまとめています。
施設側はどうでしょうか。同じ調査では、施設にも人手不足対策として力を入れたい取り組みを聞いています。報告書によると、「業務内容、配属・異動に関する従業員の希望の実現」を選んだ施設の割合は、すべての施設種別で低い結果でした。辞める側と施設側で、見ている方向が違います。このずれを埋める配置の見直しは、大きな費用をかけずに始められる対策です。
労働環境の課題を働く側の目線で整理した記事として、ホテル業界が「やめとけ」と言われる理由もあります。

離職率を下げる5つの対策
1〜4は大きな費用をかけずに始められます。5は設備への投資を伴いますが、国の補助を使える場合があります。
1. 休日とシフトの組み方を見直す
シフトの組み方は、費用をかけずに見直せます。たとえば、月ごとに希望休を出してもらう、連勤の後には連休を入れる、夜勤明けの翌日は遅番にする、といった工夫です。有給休暇は労働基準法で義務づけられた年5日を最低ラインと考え、閑散期に会社が日を決めて取らせる「計画年休」を設けると、取得が進みます。
2. やりたい業務を聞き、配置で応える
辞めた理由の1位だった「したい業務ができない」には、配置の段階で手を打てます。
まず、採用面接と入社後3か月の面談で、本人がやりたい業務と、苦手な業務を聞きます。フロントで語学を生かしたい人、調理に回りたい人、裏方で落ち着いて働きたい人では、同じ「ホテルの仕事」でも求めるものが違います。
次に、配置の理由を本人に説明します。希望どおりにできないときは、「いつ、どんな条件がそろえば異動できるか」を伝えます。条件が見えれば、待てます。
そのうえで、年に1回、異動希望を申告する機会を設けます。部署をまたいで仕事を経験するジョブローテーションと組み合わせれば、本人の適性を確かめる機会にもなります。
3. 新人教育を仕組みにする
業務マニュアルとチェックリストを整え、誰が教えても同じ内容が伝わる状態を作ります。最初の1か月は、現場に一人で立たせない。それを決めておくだけでも、新人の不安は減ります。
4. 評価にお客様の声を取り入れる
アンケートや口コミでスタッフの名前が挙がったら、本人に伝え、朝礼で共有し、評価面談の材料にも使います。お客様の「ありがとう」が本人に届けば仕事の手応えにつながるので、清掃や調理など、お客様と顔を合わせにくい裏方のスタッフにも声が届くようにします。
5. 省力化への投資で一人あたりの業務量を減らす
自動チェックイン機、清掃ロボット、多言語に対応したチャットボットを使えば、人が対応しなくてよい業務を減らせます。国も後押ししています。2025年6月に観光庁と厚生労働省がまとめた「省力化投資促進プラン(宿泊業)」は、宿泊業の労働生産性を2029年までに2024年度比で35%上げる目標を掲げました。設備投資の補助や相談体制も用意されています。導入例は宿泊業界のDX成功事例で紹介しています。
休日・賃金・教育・評価・外国人スタッフの定着の進め方は、ホテル業界の離職率改善 5つの対策と進め方で解説しています。

定着率を上げたホテル・旅館の実例は、ホテルの離職率改善事例4選をご覧ください。
まとめ:辞めた理由と、自社の対策がずれていないかを確かめる
労働時間・休日・賃金の改善は欠かせません。ただ、辞めた人が最も多く挙げたのは「自分のしたい業務ができなかった」で、体力面のきつさや業務量の多さも上位に並びます。条件の改善と並べて、配置と業務の設計を見直す価値があります。
自社で最初に確かめたいのは、次の3点です。
- 直近1年に辞めた人の理由を、本人の言葉で記録しているか
- 採用時と入社後に、本人がやりたい業務を聞いているか
- 有給休暇の取得日数を、部署ごとに把握しているか
一つでも答えに詰まるなら、そこが自社の離職対策の出発点です。
参考資料
- 厚生労働省『令和7年雇用動向調査結果の概況』.厚生労働省公式サイト.2026年8月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:「産業別の入職と離職」表4-2 産業、就業形態別入職率・離職率・入職超過率 - 厚生労働省『令和7年就労条件総合調査の概況』.厚生労働省公式サイト.2025年12月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:「労働時間制度」第1表 1日及び週所定労働時間、第5表 労働者1人平均年次有給休暇の取得状況 - 厚生労働省『令和7年賃金構造基本統計調査の概況』.厚生労働省公式サイト.2026年3月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:第1表 性別賃金、対前年増減率及び男女間賃金格差の推移、第5-1表 産業、年齢階級別賃金及び対前年増減率 - 国土交通省観光庁『令和6年度「宿泊業の人材確保・育成の状況に関する実態調査事業」報告書』.国土交通省公式サイト.2025年3月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:図Q32 宿泊業離職理由 - 厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』
- 観光庁・厚生労働省『省力化投資促進プラン―宿泊業―』
