氷のホテルという冬季限定の宿泊コンテンツをどのように設計すれば、自社の宿泊体験も高付加価値化できるのかを考えるのが本記事のテーマです。北海道・トマムで発表された氷のホテルの取り組みを整理しながら、ホテル・旅館の経営者や企画担当者が自館のプランづくりや冬の集客にどう応用できるかを読み解いていきます。
本記事のポイント
- 氷のホテルは、「極寒」「期間限定」「1日1組」といった条件を組み合わせた典型的な体験型・高付加価値コンテンツであり、冬の稼働・単価アップのヒントになります。
- 氷のホテルと氷の露天風呂、アイスヴィレッジ全体の世界観をつなぐ設計から、「滞在そのものをコンテンツ化する」発想や、館内外回遊づくりの考え方を学べます。
- すべてを真似するのではなく、氷のホテルのコンセプトを参考に「自館なら何を“極端に深堀り”できるか」を考えることで、地方の小規模宿でも実現可能な冬の体験型プランづくりのヒントが得られます。
ニュースの概要

北海道のリゾートエリア・トマムに位置する星野リゾート トマムは、2026年1月20日から2月20日までの約1カ月間、客室から露天風呂、家具まで、すべてが氷で造られた「氷のホテル」の宿泊体験を提供すると発表しています。期間限定で現れる冬だけのホテルで、ドーム状の天井・壁からベッドまでが継ぎ目のない一枚氷で構成されている点が特徴です。
氷のホテルが建つのは、氷と雪でできた街「アイスヴィレッジ」の一角です。トマムがある占冠村は、1〜2月の最低気温がマイナス30度に達することもある地域で、この厳しい寒さを前提条件とした氷の体験コンテンツを継続的に展開してきたと説明しています。氷のホテルでの宿泊は1日1組限定で、宿泊しないゲストも夜の時間帯に内部を見学できる設定です。
氷のホテルには、白樺に囲まれた「氷の露天風呂」や、ワインやノンアルコールドリンクを楽しめる氷のミニバーが併設されています。氷点下にも対応できるシュラフ(寝袋)やルームウェアを備えることで、氷に囲まれた環境でも快適に過ごせるよう配慮しているとしています。
料金は1泊1名あたり28,000円(税・サービス料込)で、トマム ザ・タワーまたはリゾナーレトマムに宿泊している7歳以上のゲストのみが予約できる仕組みです。チェックインは21:40、チェックアウトは翌朝8:00とし、既存の宿泊と組み合わせる「プラスアルファ体験」としての位置づけがうかがえます。
宿泊業にとってのポイント
氷のホテルが示す「極端な気候」を価値化する発想

氷のホテルは、「冬の極端な寒さ」をあえて前面に出し、マイナス30度に達する気候をコンテンツ化している事例です。日本各地の宿泊施設でも、「暑さ」「雪」「風」「霧」「潮」など、気候や自然条件がネックになりがちな要素があるかもしれません。
氷のホテルのように、それを短期間・限定条件で体験価値に変えてしまうと、「不便さ」や「厳しさ」が「ここでしか体験できないテーマ」になります。自館の立地や気候を改めて眺め直し、氷のホテルのように「極端さ」を強みに変えられる余地がないかを考えてみると良さそうです。
氷のホテルの「1日1組・期間限定」という高付加価値設計
氷のホテルは、営業期間が約1カ月で、定員も1日1組・最大2名という非常に限定的な設定です。供給量をあえて絞り込むことで、「予約がとれたこと自体が特別な体験」という価値が生まれます。
宿泊業界では、通年で同じ客室を販売し続ける発想になりがちですが、氷のホテルのように「期間限定」「人数限定」「年ごとに少し仕様変更」といった組み合わせを行うと、毎年話題にしやすくなります。既存客室の一部を、冬季だけ氷のホテル的なコンセプトルームに切り替えるといった応用も考えられそうです。
氷のホテルと本館客室を組み合わせた「二段階宿泊体験」
氷のホテルの宿泊対象は、トマム ザ・タワーかリゾナーレトマムに泊まっているゲストに限定されています。つまり、氷のホテル単体ではなく、本館との「二段階宿泊体験」として設計されている点がポイントです。
これは、氷のホテルそのものの稼働だけでなく、本館への集客強化・ブランド価値向上を同時に狙った構造と見ることもできそうです。氷のホテルのようなサテライト的な体験をつくり、本館客室とセットで販売する構造は、多くの旅館やリゾート施設でも応用できる考え方ではないでしょうか。
背景と理由の整理
冬の閑散期を「旅の目的」に変える氷のホテル
多くの地域で、冬は宿泊需要の波が大きく、平日の稼働に悩む施設も少なくありません。氷のホテルは、あえて「冬の最も冷え込む時期だけ現れるホテル」と位置づけることで、冬そのものを旅の目的に変えています。
氷のホテルのコンセプトは、「寒いから行きたくない」ではなく、「寒い時期だからこそ行ってみたい」に変換する仕掛けと言えそうです。自館でも、氷のホテルのように「冬にしか味わえない世界観」を1つ決め、それを軸にプランや販促を整理すると、季節のメリハリをつけやすくなります。
トマムの氷点下30度という立地条件を活かす理由
氷のホテルの建設には、マイナス10〜20度の低い気温で、雪の降らない夜を数日連続で確保する必要があると説明されています。バルーンに水と雪をかけて一枚氷のドームを形成するには、トマムのような極寒の内陸気候が不可欠です。
このように、「どこにでもあるコンテンツ」ではなく、「この場所でしか成り立たない構造」にしたことが、氷のホテルの説得力を高めています。宿泊業にとっても、「なぜこの土地でやるのか」を説明できるコンセプトづくりは、価格設定やプロモーションの根拠を強くする要素になりそうです。
体験価値とSNS拡散の相性
氷のホテルは、ビジュアルのインパクトが非常に強く、ドーム状のアイスブルーの空間、氷の露天風呂、氷のミニバーなど、思わず写真や動画に残したくなる要素にあふれています。こうした要素はSNSとの相性がよく、「一度見たら忘れない」コンテンツとして拡散しやすいと考えられます。
宿泊施設にとって、広告予算を大きくかけなくても、写真映えする体験コンテンツを一つ用意できれば、氷のホテルのようにオウンドメディアやSNSで継続的に話題をつくるきっかけになります。氷のホテルを参考に、自館の中で「撮影したくなる瞬間」がどこにあるかを棚卸ししてみると、打ち出し方が変わってくるかもしれません。
具体的な取り組み・ニュース内容の解説
氷のホテルの客室設計と滞在フロー
氷のホテルの客室は、天井・壁・ベッド・家具までが一枚氷で構成されたドーム型空間です。一見すると非常に寒そうですが、氷が熱を通しにくい性質を活かし、室内は平均マイナス5〜7度程度に保たれることが多いと説明しています。
宿泊者には、氷点下30度まで対応可能なシュラフとルームウェアが用意されていて、氷のベッドの上でも朝まで快適に眠れるように設計されています。チェックイン時間が夜遅めに設定されているのも、氷のホテルで過ごす時間を「特別な夜の数時間」として濃く体験してもらう意図が感じられます。
このような滞在フローは、通常の客室と比べると非常に短時間ですが、「到着→説明→撮影・滞在→就寝→早朝の退室」という一連の流れが、氷のホテルという非日常を際立たせる構造になっていると言えそうです。
氷の露天風呂とミニバーが生む非日常
氷のホテルには、占冠村「湯の沢温泉」からくみ上げた温泉を楽しめる氷の露天風呂が併設されています。湯船の周囲は氷で囲われ、湯面の湯気と氷のきらめき、頭上の星空や白樺の木々が組み合わさることで、他にはない入浴体験になると紹介されています。

客室内に設けられた氷のミニバーでは、ワインやノンアルコールドリンク、おつまみをいつでも楽しめるようにしており、「氷」というテーマを飲食シーンにまで徹底している点が特徴です。氷のホテルというコンセプトが、単なる客室デザインにとどまらず、入浴・飲食・写真撮影など宿泊体験のあらゆる行動に貫かれていることがうかがえます。

アイスヴィレッジ全体での回遊設計

氷のホテルは、氷と雪が織りなす街「アイスヴィレッジ」の一部として位置づけられています。アイスヴィレッジには、氷のバーや氷のレストランなど、氷と雪でできた11棟のドームが立ち並び、冬の夜にだけ現れる街として長年展開されてきたと紹介されています。
氷のホテルに宿泊するゲストは、この街全体を回遊しながら滞在することが想定されており、単体の客室体験だけでなく、「氷のホテルに泊まることでアイスヴィレッジを深く楽しむ」という構造になっています。これは、自館の敷地や周辺エリアに複数のコンテンツがある場合、それらを束ねて「一つのテーマパーク」のように見せる発想として参考になるのではないでしょうか。
自社への活かし方のヒント
氷のホテルのような「テーマ性のある1室」をつくる
氷のホテルそのものを真似ることは難しくても、「館内に一つだけ、氷のホテルのようにテーマを極端に振った部屋をつくる」ことは多くの施設で検討可能です。たとえば、雪見を徹底的に楽しむ部屋、星空観賞をテーマにした部屋、地域の工芸品で統一した部屋などが考えられます。
重要なのは、氷のホテルのように「名前と写真だけで、どんな体験か一瞬で伝わること」です。キーワードとビジュアルがセットになっていると、予約サイトや自社サイトでの訴求力が高まり、価格差もつけやすくなります。氷のホテルの事例を参考に、自館版の“○○のホテル”を企画してみるのも一手です。
安全性・寒さ対策・オペレーションのチェックポイント
氷のホテルは、極寒環境を扱うコンテンツであるため、安全性や体調管理への配慮が欠かせません。マイナス30度まで対応可能なシュラフの提供や、ルームウェアの用意などは、その象徴的な例だと言えます。
自館で、氷のホテル的な冬の体験コンテンツを導入する場合も、次のような点を事前に整理しておくと安心です。
- 気温や天候による中止基準・代替案
- 体調不良時の避難経路や暖かい待機場所
- 必要な防寒具・レンタル品の標準化
- スタッフが寒さや雪道に慣れていない場合の教育計画
氷のホテルは、「厳しい条件だからこそ、準備を徹底して安心して楽しめるようにする」という考え方の好例とも言えます。
販売方法とプロモーションの工夫
氷のホテルは、本館宿泊者限定・1日1組という設計により、販売チャネルを絞り込みつつブランド価値を高めています。自館で類似のコンテンツをつくる場合も、以下のような販売戦略が考えられます。
- 既存の上位客・会員向けに先行販売する
- 連泊プランの2泊目限定で利用できるようにする
- 氷のホテルのようにチェックイン・アウト時間をあえて変えて、体験を際立たせる
- 写真映えする体験を意識し、SNS投稿を促す仕掛けを用意する
氷のホテルの事例をきっかけに、「誰に・どのタイミングで・どのチャネルで売るか」を逆算して設計してみると、自館の高付加価値プランづくりも進めやすくなりそうです。
まとめ
- 氷のホテルは、極寒という条件を逆手に取った体験型コンテンツであり、冬の閑散期を「わざわざ行きたい時期」に変えるヒントになります。
- 期間限定・1日1組・本館宿泊者限定といった設計から、「供給を絞りつつブランド価値を高める」高付加価値プランの考え方を学べます。
- 自館でも、氷のホテルのような「テーマを極端に絞り込んだ1室」や1日限定体験を用意することで、小さな投資でも印象的なコンテンツをつくることができるかもしれません。
- 冬の特別プランを検討する際は、安全性やオペレーション、販売方法まで含めて事前に整理しておくと安心です。
企業情報
- 会社名:星野リゾート
- 施設名:星野リゾート トマム
- 所在地:北海道勇払郡占冠村字中トマム 079-2204
- 事業内容:リゾートホテル運営、宿泊・アクティビティなどの観光サービス提供
- 公式サイト:星野リゾート トマム 公式サイト
本リリースに関するお問い合わせ
- 会社名:星野リゾート
- 部署名・担当者名:記載なし
- 電話番号:記載なし
- メールアドレス:記載なし
- お問い合わせ方法:詳細な問い合わせ窓口については、星野リゾート トマム公式サイト内のお問い合わせフォームなど、公式チャネルの案内を確認する必要があります。
参考資料
本文中で公的資料を直接参照していないため省略します。
出典:PR TIMES『【トマム】客室から露天風呂まですべてが氷!静寂な空間で宿泊体験ができる「氷のホテル」オープン』https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001891.000033064.html


