2025.12.10

長寿楼の酒の旅送迎プランに学ぶ地域連携と宿づくり

CoCoRo編集部

長寿楼の酒の旅送迎プランは、古民家宿が地域の酒づくりの現場と連携して付加価値を高める好例といえそうです。長野県小諸市の旧北国街道近くにオープンした築100年の一棟貸し宿「旅の宿長寿楼 -CHOJURO-」が、ワイナリーや酒蔵、クラフトビール工場などへの無料送迎を組み込んだ宿泊体験を打ち出しました。この記事では、宿泊業の経営者・企画・現場マネージャーの方に向けて、長寿楼の取り組みを整理し、自館で応用するための視点やチェックポイントを解説します。

この記事の目次

本記事のポイント（長寿楼の事例から）
ニュースの概要（古民家宿長寿楼と酒の旅）
宿泊業にとってのポイント｜長寿楼の酒の旅が示す可能性
背景と理由の整理｜千曲川ワインバレーと長寿楼の立地
具体的な取り組み・ニュース内容の解説｜長寿楼の送迎と酒巡り
自社への活かし方のヒント｜長寿楼をヒントにしたプラン設計
- 長寿楼の事例から学ぶプラン設計のチェックポイント
- 小規模宿でも真似しやすい長寿楼型プランづくりと発信
まとめ
企業情報（長寿楼運営企業・施設）
本リリースに関するお問い合わせ
参考資料

本記事のポイント（長寿楼の事例から）

長寿楼の酒の旅送迎プランは、「酒を飲む場」ではなく「酒を巡る旅」まで設計している点が特徴で、地域コンテンツと宿泊を一体で売る発想のヒントになります。
千曲川ワインバレーという立地資源と、無料送迎サービス、古民家ステイを組み合わせることで、長寿楼は小規模宿でも高付加価値な体験を提供しようとしていると読み取れます。
自館で応用する際は、長寿楼のような酒の旅に限らず、「テーマ×移動支援×地域プレーヤー」の設計と、人手不足・インバウンド対応・安全配慮を同時に考えることが重要になってきます。

ニュースの概要（古民家宿長寿楼と酒の旅）

プレスリリースによると、旅の宿長寿楼 -CHOJURO-（以下、長寿楼）は、2025年9月に長野県小諸市の旧北国街道近くで開業した築100年の古民家を改装した一棟貸し宿としています。建物は1925年に建てられた家屋をリノベーションしたもので、3代目家主の「この建物を残したい」という思いと屋号「長寿楼」を引き継ぎ、アンドクラフト株式会社が運営を開始したと説明しています。

長寿楼の周辺は、千曲川ワインバレーとして注目を集めるエリアで、ワイナリーや日本酒の酒蔵、ビール・蒸留酒の工場など、多様な酒づくりの拠点が点在しているとしています。さらに、シニアソムリエ資格を持つ店主が営む「小諸なる小宮山酒店」も徒歩圏内にあり、地元産のワインや日本酒、ウイスキーなどおよそ500点が並ぶ酒のセレクトショップとして位置付けられています。

今回のリリースでは、こうした周辺のワイナリー、ビール工場、日本酒蔵、ミュージアムなどをめぐり、ゲストが車の運転を気にせず心置きなくお酒を楽しめるよう、長寿楼が無料送迎サービス込みの宿泊プランを用意したと発表しています。昼間は酒づくりの現場を訪ね、地元の酒店でお気に入りの一本を購入してからチェックインし、夜は古い町並みの飲食店や歴史ある建物での滞在を通じて、この地域のお酒を楽しむ流れを提案しています。

施設概要としては、長寿楼は長野県小諸市六供の一棟貸し宿で、定員4名、駐車場2台、チェックイン15〜18時／チェックアウト10時、小諸駅から徒歩13分というコンパクトな構成としています。1階にはカフェが入居し、開業日は2025年9月5日、送迎サービスの予約開始は2025年12月からを予定しているとしています。

宿泊業にとってのポイント｜長寿楼の酒の旅が示す可能性

長寿楼の取り組みは、「酒好き向けプラン」を超えて、宿の滞在と地域の酒コンテンツを一体でデザインしている点が特徴的です。単にワイナリーや酒蔵を紹介するだけでなく、「昼は造り手を訪ね、夜は古民家でゆっくり飲む」という一日の流れまで提案しているため、ゲストの体験価値が高まりやすい構成といえそうです。

宿泊業の視点で見ると、長寿楼の酒の旅送迎プランには、少なくとも次の3つのポイントがあります。

テーマ性の強い「酒の旅」で集客軸を明確にしている
長寿楼は「ワイン、日本酒、ビールを愉しむ酒の旅」というコンセプトを打ち出し、千曲川ワインバレーのワイナリーや酒蔵を前面に据えています。これにより、「なんとなく長野旅行」ではなく、「酒を目的に旅をしたい」層へ明確に刺さる商品設計になっていると考えられます。観光コンテンツのトレンドとしても、食や飲料、ウェルネス、生活没入型体験へのニーズが高まっているとされており、時流にも合った切り口です。
無料送迎で「安全に飲める」価値を見える形にしている
地方の酒どころでは、車移動が前提になりやすく、「飲む人」と「運転する人」が分かれてしまうことが少なくありません。長寿楼では、送迎サービス込みのプランとすることで、ゲスト全員が安心してお酒を楽しめる環境を整えようとしています。安全面の配慮は顧客満足度だけでなく、事業者のリスクマネジメントの観点からも重要です。
小規模宿でも地域プレーヤーと組めば高付加価値を生み出せる
長寿楼自体は定員4名の小規模な古民家宿ですが、ワイナリー、ビール工場、酒店、レストランなど地域のプレーヤーと連携することで、滞在価値を大きくふくらませています。観光庁が示す高付加価値経営の考え方でも、「自館だけで価値を完結させるのではなく、地域全体のコンテンツと組み合わせて単価向上を図る」方向性が重視されており、その実践例の一つと見ることもできそうです。

酒の旅というテーマはニッチに見えますが、「地域の強み×移動の不便さを解消する送迎」という構造は、果物狩り、サイクリング、温泉めぐりなど別のテーマにも応用しやすい視点ではないでしょうか。

背景と理由の整理｜千曲川ワインバレーと長寿楼の立地

まず、需要側の背景として、インバウンド・国内旅行ともに「モノ消費からコト消費へ」「生活や文化に深く入り込む体験への関心」が高まっているとされています。観光庁の調査でも、ウェルネスやネイチャーアクティビティ、生活没入型の観光コンテンツが中長期的なトレンドとして挙げられており、食やお酒を通じて地域の暮らしに触れる体験は、その一端を担うものと考えられます。

供給側を見ると、千曲川ワインバレーは、冷涼な気候と土壌を活かしたワイン用ブドウの産地として、ここ10年ほどでワイナリーの数が大きく増えたとリリース内で紹介されています。同じエリアには日本酒の酒蔵やクラフトビール工場、蒸留所も点在し、「酒づくり」が地域ブランドの一つになりつつあります。このようなエリアでは、「宿泊」と「酒づくりの現場」をつなぐ企画を考える必然性が高いといえます。

一方で、地方部では公共交通やタクシーが限られ、酒蔵やワイナリーを複数巡ろうとすると、移動手段の確保がネックになりがちです。観光庁のインバウンド対応資料でも、地方観光地では二次交通の不足が課題として繰り返し指摘されており、移動の不便さが滞在時間や消費額の制約要因になりやすいとされています。

また、訪日客を含む多様な旅行者に対しては、「安全にお酒を楽しめる環境」を事業者側がどこまで設計できるかも重要です。飲酒と移動に関わるリスクを減らすことは、宿泊施設にとっても地域にとってもレピュテーションリスクの低減につながります。

こうした背景を踏まえると、長寿楼のように、酒どころという文脈と、無料送迎による移動支援、古民家ステイの滞在価値を組み合わせるアプローチは、「地域資源を活かしつつ、旅行者の不安や不便を解消する企画」として位置づけられそうです。

具体的な取り組み・ニュース内容の解説｜長寿楼の送迎と酒巡り

長寿楼の「酒の旅」送迎付きプランの設計

プレスリリースによれば、長寿楼の酒の旅送迎プランは、日中の酒巡りと夜の滞在体験を一連のストーリーとして提案しています。昼間は千曲川ワインバレーのワイナリーやビール工場、日本酒蔵などを巡り、途中で小諸なる小宮山酒店に立ち寄ってお気に入りの1本を購入し、その後に長寿楼へチェックインするイメージです。

夜は、長寿楼の周辺に点在する和食・イタリアン・フレンチ・カフェ・バーなどの飲食店で食事を楽しみ、古い町並みを散策しながら宿へ戻る流れを想定しているとしています。宿では、歴史ある建物の空気感やレコードの音とともに、昼間に巡ったつくり手の酒を味わえるようにしている点がユニークです。

送迎サービスの詳細（運行ルートや時間、予約方法など）は今後の告知を待つ必要がありますが、「無料送迎サービス込み」という形でパッケージ化している点から、単発の送迎ではなく、宿泊プランとしての組み込みを重視していることがうかがえます。

古民家ステイ長寿楼が提供する場の価値

長寿楼は、大正14年（1925年）築の建物をリノベーションした一棟貸しの古民家宿と紹介されています。小諸市内で古民家再生を手掛けてきた設計・デザイン会社がリノベーションを担い、歴史ある意匠を残しつつ、現代の旅人が使いやすい内装に整えたとしています。

1階にはカフェが入り、2階部分が宿泊スペースという構成のため、「昼はまちのカフェとしても機能し、夜は貸切の宿として酒を楽しむ場になる」という二面性を持たせやすい点も特徴です。こうした「まちとつながる一棟貸し」は、旅行者にとっては地域の日常に溶け込みやすく、事業者にとっては地域住民との関係性づくりにもつながる形態です。

古民家宿は、それ自体が「時間を味わうコンテンツ」になり得ます。酒の旅と組み合わせることで、「この建物の歴史に思いを馳せながら、この土地の酒を味わう」という、一歩踏み込んだ体験設計になっている点は、他の宿でも応用しやすい視点ではないでしょうか。

地域プレーヤーとの連携と役割分担

リリースでは、小諸なる小宮山酒店、マンズワイン小諸ワイナリー、軽井沢ブルワリービール、STARRACE KOMORO、とうみワイン＆ビアミュージアム、ヴィラデストワイナリー、橘倉酒造、シャトー・メルシャン椀子ワイナリーなど、複数の酒関連施設が紹介されています。それぞれが、テイスティング、工場・蔵見学、庭園散策、レストラン、キッズパーク、ドッグラン、イベントなど、異なる魅力や機能を持っている点が特徴的です。

長寿楼は自前で酒を造っているわけではなく、「宿」と「送迎」という役割に徹しながら、地域のプレーヤーと連携している構図です。これは、「酒づくりのプロ」と「宿泊のプロ」がそれぞれの強みを活かしつつ、ゲストにとって一体感のある体験を提供するモデルケースと捉えることができます。

また、小宮山酒店のように、シニアソムリエ資格を持つ店主が商品の選定やワイン会を通じてファンを育てている店舗と組むことで、「ただ酒を売る場」ではなく、「ゲストの好みを聞きながら、その人に合った1本を一緒に探す場」としての価値を取り込める可能性もあります。宿側がこうした専門店とどう協働するかは、地域連携プランを企画する際の重要なポイントになりそうです。

自社への活かし方のヒント｜長寿楼をヒントにしたプラン設計

長寿楼の事例から学ぶプラン設計のチェックポイント

長寿楼の酒の旅送迎プランを自館で応用する際のチェックポイントを整理すると、次のようになります。

「何の旅か」を一言で説明できるテーマを決める
長寿楼は「酒の旅」という分かりやすいテーマで打ち出しています。自館では、「地酒」「クラフトビール」に限らず、「和菓子」「ローカルベーカリー」「アート」「温泉はしご」など、自館の立地やファン層に合ったテーマを一つに絞ると、訴求力が高まりやすくなります。
30分圏内の地域プレーヤーを洗い出し、役割を整理する
車で30分圏内にある施設をマッピングし、「テイスティングができる場所」「見学ができる場所」「景観を楽しむ場所」「食事ができる場所」など、機能ごとに整理してみると、長寿楼のような「一日の流れ」を描きやすくなります。地図ベースでの整理は、観光庁のインバウンド対応テキストでも推奨されているアプローチです。
送迎・移動支援は「安全」と「人員配置」の両面から検討する
無料送迎をうたう場合、運転手の確保や運行時間帯、保険・法令遵守など、運営面の調整が不可欠です。人手不足の根本には業務の無駄や非効率性がある可能性が指摘されており、送迎を新たに始める前に、既存業務の棚卸しと役割分担の見直しを行うことが望ましいとされています。
英語・多言語の基本情報を整える
酒の旅はインバウンドとの親和性が高いテーマです。一方で、「英語の公式サイトや滞在の流れの説明がないと不安」という声も多く、最低限の英語ページや多言語の案内資料を用意しておくと安心です。観光庁のインバウンド受入ポイント集でも、英語HPや多言語メニューの整備が「必須に近い」と指摘されています。
飲まない人・飲めない人も楽しめる余白をつくる
グループの中には、宗教や健康上の理由でお酒を飲まない人が含まれる場合もあります。観光庁の「ベジタリアン・ヴィーガン／ムスリム旅行者おもてなしガイド」でも、多様な食習慣への配慮と事前説明の重要性が示されています。酒の旅プランでも、ノンアルコールドリンクやデザート、景観・温泉など、お酒以外の楽しみ方を組み込んでおくと安心です。

小規模宿でも真似しやすい長寿楼型プランづくりと発信

長寿楼のような事例は、「自館は小規模だから大掛かりなことは難しい」と感じている宿にとっても、現実的なヒントが多いと考えられます。

一棟貸し・少人数宿ならではの強みを明確にする
少人数制の宿は、「全員で同じ体験を共有できる」ことが強みです。酒の旅であれば、「4名で貸切、全員が安心して飲める」「グループごとに送迎時間を柔軟に調整できる」といった価値を打ち出しやすくなります。こうした強みを言語化し、料金にきちんと反映させることが、高付加価値経営の第一歩です。
スタッフの多様性を活かしたおもてなしを設計する
酒の旅の相談や好みのヒアリングでは、コミュニケーション力やホスピタリティが問われます。観光分野の女性活躍事例集では、ライフイベントと両立しながら観光業で働く人材が、新しい企画や細やかな接客の担い手になっている事例も紹介されています。自館のスタッフの強みを活かし、「誰がどんな役割で酒の旅を支えるのか」を整理しておくと良さそうです。
SNSとオウンドメディアで「旅の一日の流れ」を可視化する
酒の旅プランは、テキストだけよりも、写真やストーリー形式で「1日の過ごし方」を見せることで魅力が伝わりやすくなります。SNS活用の資料でも、Instagramなどでの「体験の見える化」が販路拡大に有効とされていますし、オウンドメディアの記事では、検索意図に応える情報整理と独自の視点のバランスが重要とされています。自館で記事やSNS投稿を作成する際は、
- 酒の旅のターゲット（例：30〜50代のワイン好きカップル・友人グループ）
- モデルコース（訪問先と所要時間）
- 長寿楼のような宿での滞在シーン（チェックイン後〜就寝まで）
  を1ページでイメージできるようにまとめておくと、予約への転換率向上が期待できます。
オーバーツーリズムを避けながら地域と共生する視点も持つ
酒の旅は人気が出ると、一部の酒蔵やワイナリーに観光客が集中する可能性もあります。オーバーツーリズム対策の先駆事例集では、交通混雑の緩和やマナー啓発、時間・場所の分散など、地域と共生しながら観光需要を受け止める工夫が紹介されています。送迎ルートや立ち寄り先を設計する際には、地域のキャパシティや住民生活への影響も意識しておくと良さそうです。

まとめ

長寿楼の酒の旅送迎プランは、「酒どころ」という地域資源と、無料送迎サービス、古民家ステイを組み合わせることで、小規模宿でも高付加価値な体験を生み出している事例といえそうです。
千曲川ワインバレーのようなエリアでは、長寿楼のように「何の旅か」を明確にし、地域の酒蔵・ワイナリー・飲食店と役割分担をしながら、一日の過ごし方まで提案することで、滞在時間と消費額の両方を伸ばす余地があります。
自館で長寿楼を参考にプランを作る際は、送迎・人員配置・多言語対応・ノンアルコールの選択肢など、安全と多様性に配慮した設計をしておくと安心です。
情報発信では、長寿楼のような酒の旅に限らず、自館ならではの「テーマ×移動支援×地域プレーヤー」のストーリーを、SNSやオウンドメディアで継続的に伝えていく選択肢もあります。