宿泊・旅行業界ニュース

旅館大沼の家族湯治が示す産前産後の滞在設計

写真:旅館大沼
CoCoRo編集部

旅館大沼で始まる「」は、産前産後の家族が“湯・食・眠”を軸に整える滞在づくりを、宿泊業の実務に落とし込むヒントになります。観光を詰め込むより「休む」価値を前面に出す発想は、家族連れだけでなく、育休中・共働き・介護など“生活の負荷が高い層”にも広げやすいテーマです。現場運用の観点から、商品設計・安全配慮・スタッフ体制の要点を整理します。

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本記事のポイント

  • 旅館大沼の取り組みを題材に、家族湯治を「宿の運用」に落とす視点をつかめます
  • 産前産後ケアと温泉滞在をつなぐ際の、線引き(できること/できないこと)を整理できます
  • 旅館大沼の家族湯治を参考に、現場負荷と満足度の両立に向けた設計の手順が見えます

発表内容の整理

株式会社WiRootsが運営する家族向けメディア「TOCHANTO」は、宮城県の鳴子温泉郷にある湯治宿・旅館大沼で、産前産後の家族を主対象にした滞在プラン「家族湯治」を開始します。開始日に合わせて、モニター参加家族の募集も始めます。

滞在は「2泊3日以上」を基本とし、モニター枠は「5組程度」を想定しています。費用は「1泊2食付きで大人1名13,000円前後」を目安にし、人数や日程などで変動します。

運営体制として、医師・看護師の監修を受けながら、産前産後の家族が安心して滞在できる設計を進める方針です。あわせて、全国の天然温泉宿を対象に参画宿の募集も行います。

出典:PR TIMES『産前産後のご家族が“湯・食・眠”で整う滞在『家族湯治』を開始——旅館大沼でモニター募集、全国の参画宿も募集へ』 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000138567.html

宿泊業にとってのポイント|旅館大沼

旅館大沼の家族湯治が示す「休む価値」の商品化

旅館大沼の家族湯治は、体験を“足す”より、休養の質を“上げる”設計です。宿が提供しやすい価値は、滞在導線・音環境・食事時間・入浴の安心感など、運用でつくる体験にあります。派手な演出が不要な分、標準化もしやすく、参画宿募集のように横展開にも向きます。

産前産後の家族に効くのは「設計の細部」

産前産後の家族は、滞在満足の判断軸が「観光できたか」から「休めたか」に寄りやすくなります。客室までの移動距離、段差、授乳やおむつ替えの場所、食事の温度感など、細部が体験を左右します。旅館大沼のように、貸切風呂や食事導線の自由度が高い宿は、この領域と相性が良いはずです。

スタッフの納得感が、従業員エンゲージメントを支える

産前産後の家族を受け入れると、現場は「どこまで踏み込むべきか」で迷いやすくなります。線引きを明文化し、困ったときの相談先を一本化すると、接客の不安が減ります。結果として、従業員エンゲージメントの維持にもつながりやすい運用になります。

背景と理由の整理|旅館大沼の家族湯治

観光庁データが示す「国内旅行は戻り、宿泊の比重も大きい」

・観光消費動向調査 2024年 年間値(確報)」では、2024年の日本人国内旅行消費額は25兆1,536億円、うち宿泊旅行消費額は20兆3,325億円でした(いずれも年間の確報)。宿泊の市場規模が大きいからこそ、「休むための宿泊」を細分化して提案する余地も広がります。

産前産後ケアは「公的支援の対象」になっている

こども家庭庁の通知に付随する産後ケア事業の整理では、出産後1年以内の母子を対象に、心身のケアや育児サポートを行う枠組みを市町村が整える位置づけが示されています。宿は医療機関ではない一方、休養環境の提供は“支援の空白”を埋める発想として接続しやすい領域です。

編集部メモ:いちばんの落とし穴は「医療っぽさ」の演出

産前産後向けを掲げた瞬間、利用者は安全性や専門性を強く期待します。宿側が医療行為を担うような表現を出すと、現場も判断に迷います。役割を「休養を支える滞在設計」に限定し、緊急時の導線だけは具体的に整えておくと安心です。

ニュース内容の解説|家族湯治の運用設計

旅館大沼の家族湯治は「2泊3日以上」が運用の肝

家族湯治は2泊3日以上を基本に置き、短期の慌ただしさを避ける設計です。宿にとっても、1泊勝負の体験価値ではなく、滞在のリズムで評価を取りにいけます。長期滞在は清掃・食事・風呂の回転設計が変わるため、受け入れ可能組数を絞る運用が現実的です。

観光庁「宿泊旅行統計調査」に照らすと、需要期の読みが重要

観光庁「(2025年9月・第2次速報、2025年10月・第1次速報)」では、2025年10月の延べ宿泊者数(全国)は6,025万人泊で、そのうち日本人は4,302万人泊でした(10月は第1次速報)。全国ベースでも需要の波があるため、家族湯治のような“手当てが必要な商品”は、繁忙期の無理な販売より、肩の季節に丁寧に回すほうが安定しやすい運用になります。

公的な産後ケアの考え方を「宿のチェック項目」に翻訳する

こども家庭庁の産後ケア事業ガイドラインは、母親の身体的回復や心理的安定、育児の相談支援などを枠組みとして整理しています。宿が同じ機能を担う必要はありませんが、「睡眠を途切れにくくする」「食事の相談窓口を置く」「話しかけ方の配慮を揃える」といった運用項目に落とすと、滞在品質が整います。

自社への活かし方のヒント|旅館大沼を手がかりに

旅館大沼の家族湯治を自社商品に置き換える3ステップ

  1. 対象を定義します:「産前産後」だけでなく、育休中・乳幼児期・介護など“休養ニーズ”で括る方法もあります。
  2. 価値を一文にします:「湯・食・眠で整う」など、提供価値を短く固定すると現場が迷いません。
  3. 受け入れ条件を決めます:健診で入浴の許可を得ていることなど、主催側が提示する前提を参考にしつつ、宿の守備範囲で線引きを作ります。

家族湯治のオペレーションを支えるチェックリスト例

  • 客室:段差、夜間導線、室温、加湿、遮光の確認
  • 食事:提供時間の柔軟性、アレルギー・体調相談の受付導線
  • 入浴:貸切枠の確保、滑りやすい床の注意喚起、長湯を促さない案内
  • コミュニケーション:声かけの統一、過度な干渉を避ける合言葉
  • 緊急時:夜間の連絡手段、近隣医療機関の案内(情報は最新化)

参画型で広げるなら「基準の共有」が先に立つ

旅館大沼のように参画宿を募る動きは、ネットワーク型での拡張に向きます。先に必要なのは、設備の豪華さではなく運用基準です。たとえば「家族湯治は体験を詰め込まない」「健康不安には医療へつなぐ」など、判断の軸を揃えると、参画後の品質ブレが減ります。

まとめ

  • 旅館大沼の家族湯治は、休養価値を“湯・食・眠”で商品化する発想として参考になります
  • 観光庁の統計が示す宿泊市場の大きさを踏まえると、休むための滞在を細分化する余地があります
  • 産前産後ケアはこども家庭庁の枠組みがあるため、宿の役割を「休養設計」に限定しておくと安心です
  • まずは閑散期に少数組で試し、運用基準を固めていくという選択肢もあります

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参考資料

  • 観光庁『 2024年 年間値(確報)』:PDF
  • 観光庁『宿泊旅行統計調査(2025年9月・第2次速報、2025年10月・第1次速報)』:PDF
  • こども家庭庁『産前・産後サポート事業ガイドライン/産後ケア事業ガイドライン(通知)』:PDF
  • こども家庭庁『産後ケア事業実施要綱(通知)』:PDF
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