神戸ベイシェラトンホテル グランドリニューアルに学ぶ高付加価値な滞在づくり
CoCoRo編集部
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READING VOYAGEは、沖縄6軒のヒルトンのホテルに合計69冊の本を配した新しいホテル内コンテンツです。本記事では、このREADING VOYAGEの取り組みを整理しながら、ホテル・旅館など宿泊業の皆さまが「本棚」を使って滞在価値や従業員エンゲージメントを高めていくためのヒントをまとめます。
この記事の目次
本記事のポイント：READING VOYAGEから学べること
- READING VOYAGEは、沖縄6軒のヒルトンで館内に本棚を設置し、「旅は読むと、深くなる」というコンセプトで滞在の余白時間を価値ある体験に変える試みです。
- 観光庁の調査でも、自然やウェルネス、文化体験など「コンテンツ型」の観光への需要が高まっており、読書コンテンツはそうしたトレンドに丁寧に寄り添う取り組みと見ることができそうです。
- 自社でもミニマムな「READING VOYAGE」をつくることで、ロビーやラウンジの滞在価値向上、スタッフとお客様のコミュニケーション促進、サステナブルな観光への貢献といった効果が期待できるかもしれません。
ニュースの概要：READING VOYAGEとは
沖縄にある6軒のヒルトンのホテルでは、2025年11月以降、ロビーやエグゼクティブラウンジの本棚を活用した「READING VOYAGE」という館内コンテンツの展開を順次開始したとしています。
コンセプトは「旅は読むと、深くなる」。各ホテルごとにテーマを設定し、写真集・アートブック・文学作品・エッセイ・沖縄の民話や文化に触れられる書籍など、多彩なジャンルの本を選定。滞在ゲストは、ロビーやラウンジで自由に手に取って読書を楽しめると説明しています。
書籍の選書は、ラジオ番組ナビゲーターでありコピーライター、音楽プロデューサー、小説家として活動するタカノシンヤ氏が担当。ホテルごとの個性やロケーションに合わせて本とテーマを組み合わせている点が特徴とされています。
沖縄エリアのヒルトンではこれまでも、ショートムービー「Beneath the Surface – Discover Okinawa with Hilton」など、沖縄の景色や音、時間の流れを表現するコンテンツを制作してきており、READING VOYAGEはそれに続く新たな試みとして、本というメディアを通して沖縄滞在をより深める狙いがあると述べています。
宿泊業にとってのポイント：READING VOYAGE型コンテンツの価値
滞在の「余白時間」を体験価値に変える
多くのホテル・旅館では、チェックイン後や悪天候の日、夕食後など「何をして過ごすか決めていない時間」が生まれがちです。READING VOYAGEのような本棚コンテンツは、その余白時間を「土地や文化に触れる静かな体験」に変える役割を果たしていそうです。
- ロビーでの待ち時間が「ただの待機」から「地域や旅にまつわる読書時間」に変わる
- 一人旅やワーケーション利用など、静かな過ごし方を好むゲストの満足度向上につながる
- 雨天・オフシーズンなど、アクティビティが制限されるタイミングの代替体験になる
こうした効果は、直接的な売上ではなくても、口コミ評価やリピーター化、ブランドロイヤルティの向上に寄与していく可能性があります。
「テーマ設定」と「キュレーション」がブランド体験になる
READING VOYAGEでは、ホテルごとに異なるテーマを掲げ、それに沿って本を集めている点が特徴です。例えば、「想像力の交差点」「日常と非日常のあわい」「自分を見つめる」といったテーマを掲げ、本のラインナップと空間の雰囲気を結びつけていると読み取れます。
単に本を並べるだけではなく、
- そのホテルならではのコンセプトを言語化したテーマ
- テーマに合った選書
- 本棚の設置場所（ロビー、ラウンジなど）の文脈
が一体となることで、館内での過ごし方そのものがブランド体験として記憶に残りやすくなると考えられます。
従業員エンゲージメントとおもてなしの会話づくりにも
本棚は、従業員側にとってもお客様との会話のきっかけになりやすいツールです。
- 「この本がお好きでしたら、近くにこんなスポットもあります」
- 「この作家の作品、スタッフの間でも人気なんです」
といった一言が生まれやすくなり、無理なく地域情報や館内サービスの案内につなげやすくなります。従業員側が選書やPOPづくりに関わることで、「自分たちのホテルの物語を一緒につくる」感覚が生まれ、エンゲージメント向上にもつながるかもしれません。
背景と理由の整理：読書コンテンツと観光トレンド
ウェルネス志向・自然体験との相性
観光庁が実施した観光コンテンツの調査では、日本の観光資源として「温暖で多様な自然環境」や「ネイチャーアクティビティ」「ウェルネス」といったキーワードが強みとして挙げられています。特に、自然景観やハイキング・トレッキングなどのカテゴリーは世界的にも予約成長率が高いと分析されています。
READING VOYAGEのように、海や風、土地の文化を本という静かなメディアで味わう仕掛けは、アクティブなアクティビティだけでなく、心身を整える「ウェルネス滞在」を求めるゲストとの親和性が高いと考えられます。
サステナブルな観光と「無形の体験価値」
また、観光庁の「宿泊施設向け 国際基準に対応した持続可能な観光にかかる取組事例集」では、持続可能な観光が「環境保護だけでなく、ビジネス成長の機会であり、地域社会の持続可能な発展を促進するもの」と定義されています。
この中では、地域文化の共有や旅行者とコミュニティの関係構築も重要な要素とされており、宿泊施設における取り組みの可視化・記録の必要性も指摘されています。
本棚を通じて地域の歴史や文化、民話を紹介するREADING VOYAGEのような取り組みは、
- 大きな設備投資を伴わない
- 地元文化を伝える「無形の体験価値」を提供できる
- サステナブルな観光の一要素として位置づけやすい
という点で、多くの宿泊施設が参考にしやすい事例と言えそうです。
「コンテンツ型」滞在へのシフト
上記の調査報告書では、自然・文化・食・建築などの資源を「継続的で有用なコンテンツ」に磨き上げることの重要性も繰り返し言及されています。
館内の静かなスペースに置かれた本も、その土地ならではの視点で選ばれていれば立派な観光コンテンツです。READING VOYAGEは、沖縄というデスティネーションの魅力を、ハード整備ではなく「読書体験」というソフトで深掘りする一例と見ることができるでしょう。
具体的な取り組み・ニュース内容の解説：READING VOYAGEの設計
6ホテル・69冊のテーマ別ブックセレクション
今回のREADING VOYAGEでは、沖縄エリアの6軒のヒルトン・ダブルツリーbyヒルトンに合計69冊の本が配置されています。それぞれのホテルごとにテーマ・冊数・設置場所が整理されている点も、参考になる構成です。
| ホテル名 | テーマの方向性 | 冊数 | 主な設置場所 |
|---|---|---|---|
| ヒルトン沖縄北谷リゾート | 想像力の交差点 | 16冊 | ロビー |
| ヒルトン沖縄瀬底リゾート | 日常と非日常のあわい | 10冊 | エグゼクティブラウンジ |
| ヒルトン沖縄宮古島リゾート | 自分を見つめる | 17冊 | エグゼクティブラウンジ、ロビー |
| ダブルツリーbyヒルトン沖縄北谷リゾート | 好奇心とやさしさ | 10冊 | ロビー |
| ダブルツリーbyヒルトン那覇首里城 | “時”を感じる | 10冊 | ロビー |
| ダブルツリーbyヒルトン那覇 | 旅の入り口 | 6冊 | ロビー |
テーマ名は、ホテルのロケーションや客層、空間の雰囲気に合わせて、「どんな気持ちで本と向き合ってほしいか」を表現しているように見受けられます。
プロのキュレーターを起用した選書
選書を担当したタカノシンヤ氏は、ラジオMC・コピーライター・音楽ユニットでの作詞・作曲、小説執筆など、言葉と表現を軸に幅広く活動している人物です。
コメントでは、
- 「旅は、読むと深くなる」というコンセプト
- 沖縄にあるそれぞれのホテルを「港」であり「章」と捉える発想
- 文庫本片手の旅の体験から得た、読書と旅の親和性
といったアイデアが語られており、本棚そのものを一つの物語として捉えていることがうかがえます。
宿泊業の現場では、必ずしも有名クリエイターを起用する必要はありませんが、
- 地元の書店
- 図書館司書
- 地域の作家やアーティスト
など、地域プレイヤーと協働した「その街ならではの選書」は、他施設との差別化になりやすいポイントです。
既存コンテンツとの世界観の連続性
沖縄エリアのヒルトンでは、先行して「Beneath the Surface – Discover Okinawa with Hilton」というショートムービーを制作し、沖縄本島・宮古島の海や街、文化、自然を多面的に描いてきたとしています。
READING VOYAGEは、こうした映像コンテンツで描かれた世界観に「言葉と本」で奥行きを加える施策と考えられます。すでにあるブランドストーリーやプロモーション資産に、本棚というかたちで「深読みの余白」をつくる発想は、他社でも応用しやすい視点ではないでしょうか。
自社への活かし方のヒント：小さなREADING VOYAGEをつくる
最初は10冊からでも始められるREADING VOYAGE
READING VOYAGEは合計69冊と聞くと規模が大きく感じられますが、自社で同じことをする場合、必ずしも同じ冊数をそろえる必要はありません。
例えば、
- ロビーの一角に「地域の物語を知る本」10冊
- ラウンジに「ゆっくり整えるための詩・エッセイ」10冊
といった、ミニマムなREADING VOYAGEから始めることもできます。冊数を絞ることで、むしろ「選び抜かれた感じ」やコンセプトが伝わりやすくなる場合もあります。
テーマ設定は「立地 × ターゲット × 滞在シーン」で考える
READING VOYAGEが参考になるのは、「ホテルごとに異なるテーマ」を掲げている点です。この考え方は、自社の本棚づくりにも応用しやすいです。
テーマを考える際は、以下の3つを掛け合わせてみると整理しやすくなります。
- 立地・地域の特性（海・山・城下町・温泉街など）
- 主なターゲット（カップル・ファミリー・インバウンド・ワーケーションなど）
- 滞在シーン（夜のラウンジでの一杯とともに、朝食後のコーヒータイム、チェックイン前後の待ち時間など）
例えば温泉旅館であれば、「湯上がりに読みたい物語」「この温泉地を深く知るための本」といったテーマが考えられます。
スタッフ参加型のミニREADING VOYAGEでエンゲージメントを高める
観光庁の事例集では、宿泊施設が持続可能な観光に取り組む際、従業員の参画や館内での情報共有が重要であることも示されています。
本棚づくりも、スタッフの参画を促す良い機会になります。
- スタッフ一人ひとりの「推し本」を1冊ずつ持ち寄る
- 手書きの「おすすめコメントカード」を添える
- 本と連動した「スタッフおすすめ散策マップ」をつくる
といった工夫をすることで、従業員エンゲージメントの向上と、お客様との会話のきっかけづくりの両方につながりやすくなります。
インバウンドを見据えた多言語・サステナブルな本棚設計
インバウンド需要が戻りつつある中で、観光庁の各種資料でも国際基準に対応した持続可能な観光の重要性や、地域資源を磨き上げたコンテンツ造成の必要性が指摘されています。
本棚コンテンツをインバウンド対応・サステナブルの視点で設計する場合、例えば次のような工夫が考えられます。
- 英語や他言語のビジュアルブック・写真集・絵本を混在させる
- 地元の文化・祭り・生活を伝える書籍を取り入れ、地域コミュニティと協力して更新する
- サステナブルな紙・印刷の書籍や、環境・地域文化をテーマにした本を選び、館内での取り組みと一緒に紹介する
このようにREADING VOYAGE的な本棚を設計することで、「本を読む体験」を通じて地域や環境への理解を深める機会を提供することができそうです。
まとめ
- READING VOYAGEは、沖縄6軒のヒルトンが行う「本棚を使って旅を深くする」試みであり、他のホテル・旅館でも小さく応用しやすいモデルケースといえそうです。
- 観光トレンドとして、自然・ウェルネス・文化体験などのコンテンツが重視される中、読書コンテンツはサステナブルかつ投資負担の比較的小さい施策として検討しておくと安心です。
- 自社でミニREADING VOYAGEを始める際は、「立地 × ターゲット × 滞在シーン」でテーマを決め、スタッフも巻き込んだ選書・コメントづくりを行うと、従業員エンゲージメントやお客様との会話創出にもつながるという選択肢もあります。
- インバウンドやサステナブル観光を見据え、多言語や地域文化・環境をテーマにした本を組み込むことで、本棚そのものが地域の未来を考える小さなプラットフォームになっていくかもしれません。
企業情報
- 会社名：ヒルトン 沖縄エリア担当マーケティングコミュニケーションズ
- 展開ホテル（沖縄エリア）：
- ヒルトン沖縄北谷リゾート（2014年開業）
- ヒルトン沖縄瀬底リゾート（2020年開業）
- ヒルトン沖縄宮古島リゾート（2023年開業）
- ダブルツリーbyヒルトン那覇（2012年開業）
- ダブルツリーbyヒルトン那覇首里城（2016年開業）
- ダブルツリーbyヒルトン沖縄北谷リゾート（2018年開業）
- 公式サイト（一部）：
- ヒルトン・ホテルズ&リゾーツ ブランドサイト
- ダブルツリーbyヒルトン ブランドサイト
- ヒルトン沖縄北谷リゾート
- ヒルトン沖縄瀬底リゾート
- ヒルトン沖縄宮古島リゾート
- ダブルツリーbyヒルトン那覇
- ダブルツリーbyヒルトン那覇首里城
- ダブルツリーbyヒルトン沖縄北谷リゾート
参考資料
出典：PR TIMES『沖縄6軒のヒルトンのホテルに、滞在の楽しみ方を広げる計69冊の本を設置。「READING VOYAGE」』https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000167426.html
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