和多屋別荘が掲げる「旅館の再定義」は、宿泊業の経営と人材の両面でヒントになります。地域と共創しながら宿泊以外の接点を増やす発想は、稼働の波をなだらかにし、採用・定着にも効く可能性があるのかもしれません。本記事では、和多屋別荘の発表内容を整理したうえで、観光庁の統計と厚生労働省の雇用指標を手がかりに、現場に落とし込む論点をまとめます。
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本記事のポイント
- 和多屋別荘の「通う旅館」発想は、稼働の平準化と客単価設計を同時に考える材料になります
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」の最新値から、需要の質(国内・訪日)を分けて見る重要性が見えてきます
- 和多屋別荘型の共創は、人材確保が難しい局面で「学び・関係人口・働く場」を束ねる選択肢にもなります
発表内容の整理
和多屋別荘は、創業75周年(2025年11月)を節目に、旅館を「宿泊施設」にとどめず、地域と価値を共創する「社会インフラの拠点」へ進化させる構想を示しました。2021年からの「泊まる旅館から、通う旅館へ」という取り組みを土台に、次の段階へ進める位置づけです。
第一章では、嬉野温泉・うれしの茶・肥前吉田焼などの地域資源を軸に、飲食や物販、文化体験の誘致を進めたほか、ワーケーションやサテライトオフィスを通じて異業種連携の場をつくった点が挙げられています。宿泊の有無を超えて人が集う「開かれた旅館」を段階的に整えた流れです。
第二章として2026年からは、約2万坪の敷地全体を実証実験の場と位置づけ、サテライトオフィスやインキュベーション拠点に集う企業との連携を強め、新たなビジネスモデルを順次展開する構想が示されています。



出典:PR TIMES『創業75年の節目に「旅館」の再定義:宿泊を超え、地域と共創する「社会インフラの拠点」へ進化』 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000126.000086101.html
和多屋別荘の取り組み宿泊業にとってのポイント
和多屋別荘の話題を地域共創の美談で終わらせないためには、運用の論点に分解するのが近道です。特に宿泊業では、収益源の分散と現場負荷の設計がセットになります。
効きやすい目標設計・モニタリング指標
- 需要の波:平日昼の館内稼働、閑散期の来館頻度
- 収益の柱:宿泊以外(飲食・物販・体験・スペース利用・法人利用)の粗利
- 人材:採用だけでなく、学び・異業種交流を通じた定着
和多屋別荘型の共創を自社に移すときの見取り図
| 施策の型 | 宿の中の提供物 | 伸ばしやすい指標 | 現場の注意点 |
|---|---|---|---|
| 通う理由をつくる | 体験・物販・飲食の“目的来館” | 来館回数、館内消費 | イベント運営が属人化しやすい |
| 働く理由をつくる | ワーケーション、サテライト | 平日稼働、法人比率 | 通信・会議導線の品質担保が要 |
| 関わる理由をつくる | 共創プロジェクト、実証の場 | PR/採用、継続パートナー数 | 役割分担(RACI)を曖昧にしない |
和多屋別荘の取り組みの背景と理由を考察
和多屋別荘が「泊まる」から先へ踏み込む背景には、宿泊需要の構造変化と、人材制約の強まりもあるのかもしれません。
観光庁データで見る「宿泊需要の中身」
観光庁「宿泊旅行統計調査」では、延べ宿泊者数や客室稼働率を毎月把握できます。2025年11月の延べ宿泊者数は5,772万人泊で、日本人は前年同月比マイナス、外国人はプラスという動きでした。客室稼働率(全体)は同月65.9%です。
また、この調査は「延べ宿泊者数・実宿泊者数、客室稼働率」などを対象にしており、KPIの定義を揃えるのに使いやすい設計になっています。
ここから読み取れるのは、「宿泊者数が増えた/減った」だけでは打ち手が決まらない点です。国内と訪日で伸び方が違うなら、販売・体験・言語対応の優先順位も変わります。
厚労省データが示す「人手の制約」
厚生労働省の「一般職業紹介状況」(ハローワーク統計)を見ると、令和7年10月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍でした。同月の新規求人(原数値)は産業別で「宿泊業,飲食サービス業」が前年同月比で減少しています。
採用が難しい局面では、単に「募集を増やす」よりも、働き続けたくなる設計に寄せたほうが効く場面があります。和多屋別荘のように、学びや異業種連携を館内に持ち込む発想は、その一手になり得ます。
和多屋別荘の発表内容を読み解く
和多屋別荘の第二章を「運営モデル」で読む
- 場の再定義:旅館=滞在の場 → 地域の学び・実証・出会いの場
- 収益の分散:宿泊売上だけでなく、館内消費・法人利用・プロジェクト受託などの組み合わせを狙う
- 人材の循環:外部の企業や学びの要素を呼び込み、従業員の成長機会にもつなげる
観光庁の消費統計とつなぐと見えること
観光庁の「インバウンド消費動向調査」では、2025年暦年の訪日外国人旅行消費額(速報)が9兆4,559億円、1人当たり旅行支出(速報)が22.9万円と整理されています。
訪日市場が伸びる局面では、「宿泊単体」よりも、館内外の消費導線まで含めた設計が効きやすくなります。和多屋別荘が地域資源(茶・焼き物・温泉)と旅館空間を結び直す狙いは、この文脈に置くと理解しやすいでしょう。
和多屋別荘の取り組みを自社への活かすためのヒント
和多屋別荘の方向性をそのまま真似るより、自社サイズに縮尺を合わせるほうが失敗しにくいでかもしれません。小さく始めて、運用に乗るような形にしてみましょう。
和多屋別荘を参考にした「通う理由」のつくり方
- まず“誰が通うか”を1つに絞る:地元住民、法人、週末客のどれか
- 次に“頻度”を設計する:月1イベント、平日昼の定例利用など
- 最後に“収益点”を決める:物販・飲食・体験・スペースのどこで回収するか
注意すべきポイント
共創型の取り組みは、成功すると運営が重くなります。イベント増でフロント・料飲・清掃の負荷が跳ね上がり、通常オペレーションが崩れるケースが出がちです。最初から「担当部署」「対応可能な曜日と時間」「サービス水準」を紙に落としておくと、現場の摩耗を避けやすくなります。
和多屋別荘の実験場発想を小規模に置き換える
- 館内の一角だけを「実証の場」にする(ポップアップ、試食、ミニ展示)
- 協業先は“1社”から始める(地元事業者か法人どちらかに寄せる)
- KPIは3つに固定する(平日稼働、館内消費、従業員の負荷感)
まとめ
- 和多屋別荘の「通う旅館」発想は、稼働の波と館内消費を同時に見直す起点になります
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」で国内・訪日を分けて把握すると、売り方の優先順位が整理できます
- 共創は運営負荷が増えやすいので、役割分担と対応範囲を先に決めておくと安心です
- まずは館内の一角から始める、という選択肢もあります
企業情報
- 会社名:株式会社 和多屋別荘
- 所在地:佐賀県嬉野市嬉野町下宿乙738
- 代表者:小原 嘉元
- 設立:1950年11月3日
- 事業内容:旅館業、飲食事業、リーシング事業
- 公式サイト:https://wataya.co.jp/
参考資料
- 観光庁:宿泊旅行統計調査(2025年10月・第2次速報、2025年11月・第1次速報)https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001974306.pdf
- 観光庁:インバウンド消費動向調査 2025年暦年(速報)の概要 https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001977992.pdf
- 観光庁:観光統計・白書(統計の整理ページ)https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo.html
- 厚生労働省:一般職業紹介状況(令和7年10月分)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_66201.html
- e-Stat:宿泊旅行統計調査(調査の目的・項目)https://www.e-stat.go.jp/statistics/00601020


