ホテル業界分析

第1章|ホテル経営の本質|顧客価値・収益価値・資産価値の全構造を解説

ホテル事業は「顧客価値 × 収益価値 × 資産価値」の三層構造で成り立ちます。本記事では、価値の積み上げ方と因果関係を体系的に解説し、ホテル経営の核心を分かりやすくまとめます。
CoCoRo編集部

ホテルは「顧客価値 × 収益価値 × 資産価値」で成立する事業である

ホテルは「宿泊」という分かりやすいサービスを提供している一方で、事業構造そのものは非常に複雑です。
表面上は客室の清掃や接客が中心に見えますが、実際には次の三つの価値が同時に成立して初めて事業が成立します。

  • 顧客価値(Customer Value)
  • 収益価値(Revenue Value)
  • 資産価値(Asset Value)

この三つはいずれも独立しているように見えて、互いに強く連動しています。ここではまず、それぞれの価値の意味と、ホテルという業態に特有の“価値の連動構造”について整理します。

顧客価値とは何か

顧客価値とは、宿泊者がホテルを利用した際に感じる「満足・安心・快適さ・利便性」などの総合評価を指します。
客室の清潔さ、ベッドの質、ロビーの雰囲気、スタッフの接遇、館内動線、朝食の体験、温泉の質、館内アクティビティ──これら全てが顧客価値の構成要素です。

顧客価値が高いホテルは、口コミ評価が安定し、リピート率が向上し、顧客が自ら「また泊まりたい」「人に紹介したい」と感じます。
つまり顧客価値は、売上と評判の“源泉”となる価値です。

収益価値とは何か

収益価値とは、ホテルがどれだけ安定的にお金を生み出せるかという指標です。一般的には以下の指標で読み解きます。

  • ADR(平均客室単価)
  • 稼働率
  • RevPAR(販売可能客室1室あたりの収益)
  • 客室売上以外の収益(F&B、館内販売、スパ、アクティビティなど)

収益価値は単なる「月次売上」ではなく、いかに安定して収益を出せるかが重要です。
季節・曜日・天候・マーケットの需給など複数要因が絡むため、ホテルの収益管理は高度かつ動的な判断が求められます。

資産価値とは何か

資産価値とは、ホテルという建物・土地・設備・ブランド・運営体制を含む“事業の塊”が市場からどれだけ価値を認められるかを示す概念です。

資産価値は主に、

  • NOI(営業純利益)
  • Cap Rate(要求利回り)

によって算定されます。

ホテルは「宿泊サービス」でありながら、投資対象としての側面を持っています。そのため、運営状況が良ければ資産価値が上がり、逆に運営が悪化すれば資産価値は下がります。

三つの価値が連動する理由

三つの価値は、以下の因果関係でつながっています。

  • 顧客価値が高い → 単価が上がる・稼働が安定する → 収益が向上する
  • 収益が安定する → NOI が増える → 資産価値が上がる

つまり、資産価値は“結果”であり、起点は必ず顧客価値です。
この三層構造を理解しなければ、ホテル経営はどこを改善すべきか見誤ります。

ホテル事業の特殊構造

ホテルは、製造業や小売業のように「作って売る」シンプルなモデルではありません。
売上は立地・市場・ブランド・季節性に依存し、運営は人材・設備・オペレーションを高度に管理する必要があります。さらに、運営の成果が資産価値に直接反映されるという点で、ホテルはサービス業と不動産事業が一体化した特殊なビジネスです。


顧客価値:ホテル体験を構成する三つの階層

顧客価値は大きく分けて三つの階層で構成されます。

  • ベースライン価値
  • 体験価値
  • ブランド価値

この三つは段階的に積み上がる構造で、どれか一つが欠けると顧客価値は安定しません。

ベースライン価値

ベースライン価値とは、ホテル利用者が「最低限、できていて当然」と感じる基礎的価値です。

  • 清潔
  • 安全
  • 眠れる
  • 不快要因の除去
  • 表示の分かりやすさ
  • トラブルの少なさ

これらは“加点”ではなく“減点を防ぐ価値”です。
ベースライン価値が崩れると、どれだけ他が優れていても顧客満足は低下します。

体験価値

体験価値とは、ホテル滞在中に「良かった」「楽しかった」「また来たい」と感じる“加点の価値”です。

  • 朝食体験
  • 露天風呂・大浴場の魅力
  • スタッフの接遇
  • 部屋の世界観・デザイン
  • 館内アクティビティ
  • 旅先ならではの体験

体験価値はベースライン価値の上に積み上がり、口コミ・再訪意向に大きく影響します。

ブランド価値

ブランド価値は「このホテルだから選ばれる」という指名理由につながる価値です。

  • 運営の一貫性
  • 価格に対する納得感
  • SNSでの評判
  • 期待値の高さ
  • 過去の滞在経験

ブランド価値が高いほど、顧客は“価格ではなくホテルそのもの”を基準に選びます。

三階層の因果構造

顧客価値は「ベースライン → 体験 → ブランド」の順で積み重なり、この順序は変更できません。
ベースができていないホテルは、どれだけ体験価値を強化しても伸び悩みます。

顧客価値が収益価値に影響する理由

顧客価値が高いホテルは、次の三つが安定します。

  • 単価(ADR)が取れる
  • 稼働率が安定する
  • 口コミ評価が継続的に高まる

その結果、RevPAR が上昇し、収益が安定して積み上がっていきます。


収益価値:顧客価値がどのように数字へ変換されるのか

顧客価値が高まったとしても、それを収益に変換するには運営の知識と技術が必要です。ここではホテル収益の基本構造を整理します。

ADR・稼働率・RevPARの本質

ホテル収益を決める三大指標は以下です。

  • ADR(Average Daily Rate:平均客室単価)
  • 稼働率(Occupancy:稼働した客室比率)
  • RevPAR(Revenue Per Available Room:販売可能客室あたり収益)

RevPARは ADR と稼働率の掛け算であり、ホテルの収益性を端的に表す指標です。

料金戦略と価値の関係

料金は「市場価格」ではなく「提供できる価値 × 市場の需給」で決まります。
顧客価値が高ければ、同じエリア・同じ立地でも単価は上がります。

価値が不安定なホテルは、価格競争に巻き込まれ、割引でしか稼働を埋められません。
そこには明確な因果があります。

顧客価値 → 単価・稼働の因果

顧客価値が高いと、

  • 高単価帯で予約が入る
  • オフシーズンでも稼働しやすい
  • リピート率・紹介率が高まる

という形で、もはや戦略ではなく“自然な結果”として数字に反映されます。

コスト構造の理解

ホテル運営は、変動費と固定費のバランスが特徴的です。

  • 変動費:アメニティ、朝食原価、人件費の一部など
  • 固定費:建物維持費、光熱費、借入返済、人件費の大部分など

固定費が重いため、稼働率が低いと途端に利益が出にくくなります。
そのため、レベニューマネジメントはホテル経営の根幹となります。

レベニューマネジメントの基礎

レベニューマネジメントは「正しい客に、正しい価格で、正しい部屋を、正しいタイミングで売る」ための技術です。

分析対象は以下の通りです。

  • 需要予測
  • イールド管理
  • 価格の最適化
  • 予約経路のミックス調整
  • キャンセル率・早期割引の管理

顧客価値が高いホテルほど、この最適化が効果を発揮し、安定した収益構造に変わります。


資産価値:ホテルを“資産”として評価する視点

ホテルの価値は収益だけでなく、資産としての価値にも直結します。

NOIと資産価値の関係

NOI(営業純利益)は、資産価値を算定するうえで最も重要な指標です。
ホテルは運営成績によって資産価値が上下するため、NOIが上がれば資産価値も上昇します。

Cap Rate(要求利回り)とは

資産価値は以下で求められます。

資産価値 = NOI ÷ Cap Rate

Cap Rate は投資家が求める利回りで、
市場環境・立地・ブランド力・運営安定性によって変動します。

運営会社と不動産オーナーの役割

ホテルは「運営会社」と「不動産オーナー」が分かれているケースが多い業態です。

  • 運営:売上・サービス・人材・運営KPI
  • オーナー:建物・設備・投資判断・資産価値管理

両者が噛み合わないと、価値は分断されます。

設備投資と資産価値の維持

ホテルの資産価値を維持するには、計画的な設備投資が欠かせません。

  • 客室リノベーション
  • 空調・給排水設備の更新
  • ベッド・寝具の更新
  • 公共エリアの刷新
  • デジタル設備の導入

投資を先送りすると顧客価値が低下し、それが収益低下 → NOI悪化 → 資産価値低下につながります。

収益価値が資産価値を押し上げる構造

資産価値は運営収益の“結果”として決まるため、
運営改善がそのまま資産価値の上昇につながるという特徴があります。


価値の積み上げ構造:ホテル経営の因果関係

ホテル経営の三つの価値は、次の順番でしか積み上がりません。

  1. ベースライン → 体験 → ブランド
  2. ブランド → 収益 → 資産

この構造は入れ替え不可能です。

なぜこの順番でしか積み上がらないのか

理由は単純で、基礎が弱い状態では「期待」をつくれないからです。

  • ベースラインが弱いホテル
     → 清潔・安全が不十分
     → クレーム率増加
     → 価格が上げられない
     → 利益が出ない
  • 体験価値が弱いホテル
     → 満足度が伸びない
     → 口コミが安定しない
     → リピートが増えない
  • ブランド価値が弱いホテル
     → 価格で比較される
     → 同質化競争に陥る

ホテルは“順番”が成果を分ける事業です。
どこか一つだけを強化しても成功しません。

この構造を理解しないと改善戦略は破綻する

よくある失敗例は次の通りです。

  • 体験価値を強化しているのに、ベースラインが崩れている
  • ブランド戦略に力を入れているのに、レビューが安定していない
  • 単価を上げようとしているのに、顧客価値が伴っていない
  • 資産価値だけを追い、運営の質が低下する

“どの価値を改善しているのか”が曖昧なまま施策を打つと、かえって現場の負荷とコストだけが増加します。

三つの価値を同時に扱う際の注意点

三つの価値は連動するため、次の点に注意が必要です。

  • 価値の優先順位を明確にする
  • 現場・本部・オーナー間の情報共有を徹底する
  • 施策の効果がどの価値に影響するか整理する
  • ベースライン軽視の施策は避ける
  • 価格戦略は顧客価値の“結果として”決める

ホテル経営は、価値の積層構造を理解して初めて最適化できます。


まとめ|ホテルの本質は「価値の積層構造」である

ホテルという事業の本質は、三つの価値が積み重なる構造です。

  • 起点は顧客価値
  • 収益価値が事業の実態を形づくり
  • 資産価値が持続可能性を支える

ホテルは「どれか一つが優れていれば成功する」単純な事業ではありません。
三つの価値が連動し、積み上がり、循環することで継続的な成長が実現します。

次章では、この価値構造が実際のホテル運営や現場改善にどうつながるのかを、より具体的な視点から掘り下げていきます。

CoCoRo編集部
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