
ホテル業界では離職率の高さが深刻な課題となっています。厚生労働省「雇用動向調査」によれば、宿泊業・飲食サービス業の離職率は全産業中で最も高く、26.6%に達しています。つまり4人に1人以上が毎年職場を去っている計算で、他業界と比べても異常に高い水準です。
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https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf,(参照:2025年7月8日).
現場を預かるご担当者として、頻繁な人材の入れ替わりに頭を抱えてはいないでしょうか。せっかく採用・育成したスタッフが定着せず辞めてしまうと、サービス品質の低下や新たな採用コスト増にもつながります。
では、なぜホテル業界の離職率はここまで高いのか?そして離職率を下げるために担当者の方々が講じるべき具体策とは何か? 本記事では離職率が高い原因をデータから紐解きながら、その改善策を5つ紹介します。
若手社員の早期離職や外国人スタッフの定着といった悩みに対応した施策を盛り込み、職場の働きがいを高めるヒントを徹底解説します。いずれも今日から現場で実践できる具体策ばかりですので、ぜひ離職率改善の参考にしてください。
対策1:労働時間・休日の適正化で働きやすい環境づくり

長時間労働や休日不足といった労働環境の厳しさは、ホテル業界の離職率を押し上げる最大の要因です。実際、厚労省の調査によれば宿泊業・飲食サービス業の平均年間休日はわずか97.1日と、他産業より極端に少ない水準でした。年中無休の営業形態や24時間シフト制により、「休みが取りづらい」「残業が常態化している」という職場も多いでしょう。休息時間の不足や不規則な勤務は心身の負担となり、スタッフが燃え尽きて辞めてしまう原因となります。
まずはシフト管理の見直しです。連続勤務が続かないようシフトを工夫し、週に最低でも2日は休める体制を目指しましょう。繁忙期であってもスタッフが交代で連休を取得できる計画休暇制度を導入することも有効です。人員不足で現場が回らない場合は、繁忙日の一時的な派遣やアルバイト活用も検討してください。
また、所定外労働を減らすために業務の効率化やITツール導入(例:オンラインチェックインや清掃自動化)も進めましょう。スタッフの負荷を軽減し「休める・無理なく働ける職場」を実現することが、離職防止の土台となります。十分な休息とワークライフバランスが確保されれば、従業員の心身の健康が守られ、離職率の低下につながります。
対策2:業界水準を踏まえた賃金・待遇の改善

ホテル業界で働く人々にとって、給与や待遇面の不満も離職を考える大きな動機となります。宿泊業は平均賃金が他業界より低く、厚労省の賃金構造基本統計によれば宿泊・飲食サービス業の平均月収は約26万円と全産業中最も低い水準です。長時間の激務にもかかわらず収入が見合わないと感じれば、より給与の高い業種へ転職を検討するのは自然な流れでしょう。特に若手世代は生活費や将来設計への不安から、給与面にシビアです。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/dl/13.pdf,(参照:2025年7月8日).
即座に大幅な賃上げを行うのは難しくとも、可能な範囲で待遇改善の努力をしましょう。例えば、夜勤手当や宿直手当の増額、語学スキルを持つスタッフへの手当新設など、現場の実態に即した手当てで報いる方法があります。また業績に応じたインセンティブボーナス制度を導入し、頑張りが収入に反映される仕組みを作るのも有効です。
福利厚生面では、社員寮の整備や食事補助、従業員割引の拡充などで生活コストを実質的に支援できます。加えて、公正な人事評価に基づく定期昇給・昇格の仕組みを明確に打ち出し、「努力すれば将来〇〇の役職・給与が目指せる」と社員に示すことも重要です。給与・待遇面の充実は従業員の安心感と満足度を高め、離職の抑止につながります。
対策3:充実した教育研修と明確なキャリアパスの整備

「このまま働き続けても将来の展望が描けない…」――そんな不安から離職に至るケースも多く、特に若手社員の早期離職にはキャリア成長機会の不足が大きく影響します。実際、宿泊業界では新卒入社した社員の半数以上が3年以内に離職しているとのデータもあります。これは「働き始めたものの成長実感が得られない」「他の仕事に魅力を感じ転職する」といった若手の本音の裏返しでしょう。
参考:厚生労働省「新規学卒者の離職状況」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/dl/13.pdf,(参照:2025年7月8日).
平均勤続年数も宿泊業は約9.9年と全産業平均12.4年より短く、腰を据えて働く人が少ない傾向があります。人材育成に力を入れ、将来のキャリア像を示してあげなければ、優秀な人ほど見切りをつけて去ってしまいかねません。
まず教育研修制度の充実が不可欠です。新人研修はもちろん、接遇スキル向上や語学研修、部署間のジョブローテーションなど学びの機会を定期的に提供しましょう。現場配属後もOJT担当を付けたりメンター制度を導入したりして、若手が悩みを相談できる体制を整えます。
次に明確なキャリアパスを描けるようにします。「フロントスタッフ → フロント主任 → 支配人補佐」など具体的な昇進モデルや必要な経験年数・スキルを社内に提示しましょう。併せて昇格試験制度や公募制を取り入れ、自らキャリアアップを目指せる道を開きます。さらに、定期的な面談でキャリア希望をヒアリングし、人事異動や配置転換に反映させることも有効です。
「数年後には〇〇に挑戦できる」「将来は支配人になれる」と社員が未来像を持てれば、現在の仕事にも意欲が湧き定着率向上につながります。人が成長できる職場をアピールすることは採用面でもプラスになり、良い人材の確保と定着の好循環を生み出します。
対策4:職場のコミュニケーション活性化と適切な評価・フィードバック

働きがいを感じられない職場では、どんなに待遇を整えても人は定着しません。ホテル業界ではお客様相手のサービスが中心で、従業員同士のコミュニケーションや上司からのフィードバックが疎かになりがちです。その結果、「頑張っても評価されている実感がない」「意見を言える雰囲気がない」と感じて離職に至るケースもあります。特に若い世代は自己成長や承認欲求が満たされないとモチベーションを維持しにくいため、社内のコミュニケーションの質が問われます。
日々の業務の中で積極的な声掛けとフィードバックを行いましょう。良い接客をしたスタッフにはその場で感謝や称賛を伝え、小さな成果も見逃さず認める文化を作ります。定期的に1on1ミーティングの場を設けて悩みや意見を聞き、現場の声を経営に活かす姿勢も示してください。さらに、社内表彰制度の導入も効果的です。例えば「今月のサービススター」のように、お客様から高評価を得たスタッフを社内報や朝礼で表彰すれば、本人のやりがい向上はもちろん周囲の士気も高まります。
そして何より、お客様からの「ありがとう」を従業員に届ける仕組みを作ることが重要です。ホテルの仕事は数字で成果が見えづらいため、現場で働くスタッフは「自分の接客はお客様の役に立っているのか?」と不安になることがあります。そこで例えば、宿泊客がお気に入りのスタッフにメッセージとチップ(心づけ)を送れるサービス「CoCoRo」を活用する方法があります。CoCoRoを導入すれば、言葉の壁で直接は伝わりにくい外国人ゲストからの感謝もリアルタイムに翻訳され、スタッフに届けることが可能です。お客様の生の声や笑顔が見える化すれば、スタッフは自分の仕事の意義を実感できます。それは大きなモチベーションとなり、「もっと頑張ろう、ここで働き続けよう」というエンゲージメント向上につながります。
職場全体でオープンなコミュニケーションを促し、頑張りを正当に評価する風土を築くことで、従業員は安心して長く働けるようになるでしょう。上司やお客様からの承認が得られる職場こそ、「次もこのホテルで成長したい」と思える居場所になるのです。
対策5:外国人スタッフの定着支援と多様性を活かす職場づくり

深刻な人手不足を背景に、ホテル業界では外国人スタッフの雇用が増えています。貴重な戦力である彼らが早期に離職してしまうのも避けたい課題です。離職の理由として多いのは、言語の壁や文化の違いによるストレス、将来展望が描けないこと、自国との生活習慣の差による孤独感などが挙げられます。外国人従業員が職場に馴染めず孤立してしまえば、その能力を発揮する前に退職につながりかねません。
まずは言語面のサポートを強化しましょう。館内掲示やマニュアルを多言語化し、現場では簡単な日本語フレーズ集を配布するなど、コミュニケーションを円滑にする工夫が必要です。日本語研修の機会を提供したり、逆に日本人スタッフに基本的な外国語研修をするのも相互理解に効果的です。次に異文化理解を促進する取組みとして、異文化コミュニケーション研修や各国の習慣を紹介し合う社内イベントを企画するとよいでしょう。お互いの文化を知ることでチームの絆が深まり、外国人スタッフも意見を言いやすくなります。
また、生活面での支援も大切です。来日間もないスタッフには住居探しのサポートや行政手続きのフォローを行い、困ったときに相談できる窓口(多言語対応の人事担当など)を設置してください。仕事の面では、能力に応じて責任あるポジションを任せるなど公平な評価・昇進機会を与えることが重要です。「どうせ外国人は昇進できない」と感じさせてしまっては意欲を失ってしまいます。定期面談でキャリア希望を聞き、適材適所の配置や昇格を検討しましょう。
さらに、前述のCoCoRoのような仕組みを使ってお客様とのコミュニケーション機会を増やすことも有効です。例えば外国人スタッフの場合、日本語が拙いためにせっかく良いサービスをしてもお客様から直接感謝を受け取りにくいことがあります。しかしCoCoRoを導入すれば、外国人観光客から母国語で寄せられた「ありがとう」のメッセージを自動翻訳し、本人に届けることができます。自分の接客がお客様に喜ばれたと分かれば、自信とやりがいにつながるでしょう。国籍を問わず全スタッフが活躍し評価される職場を作ることで、外国人従業員の定着率も向上します。
多様性を活かす組織はイノベーションを生み出し、サービスの質も向上すると言われます。外国人スタッフが長く安心して働ける環境を整えることは、人手不足解消のみならずホテルの競争力強化にも寄与するでしょう。
まとめ:働きがいある職場づくりが離職率改善への近道
ホテル業界の離職率を下げるために、支配人が取り組むべき5つの具体策を紹介しました。
- 労働環境の改善
- 待遇アップ
- 人材育成とキャリア支援
- コミュニケーションと評価の改革
- 多様性人材の定着支援
いずれも現場ですぐに着手できる施策ばかりです。最初に直面する課題は多いかもしれませんが、一つひとつ着実に実行していけば、必ずや職場は変わっていきます。
ポイントは、単に離職を防ぐだけでなく従業員に「ここで働き続けたい」と感じてもらうことです。そのためには、社員一人ひとりが成長とやりがいを実感できる職場、そして貢献を正当に評価される職場を築くことが不可欠です。人が重要な資産であるホテル業界では従業員エンゲージメントの向上こそが事業成長の鍵となります。社員のエンゲージメントが高まればサービス品質も向上し、お客様満足度のアップや業績向上といった好循環が生まれるでしょう。まずはできる対策から着手し、小さな成功体験を積み重ねてください。
本記事で触れたCoCoRoの導入もその一つです。お客様の「ありがとう」をスタッフに届けるしくみは、働きがいを高め離職率改善を強力なサポートが可能です。人材が定着し、経験を積んだスタッフが増えれば、ホテル全体のサービス力も安定します。「人が辞めない職場」を実現することは、「選ばれるホテル」への第一歩です。今日からぜひ職場改革に踏み出し、離職率改善と働きがい向上に取り組んでみてください。スタッフの笑顔と成長が、きっとホテルの未来を明るく照らしてくれるでしょう。