ホテル業界の離職率を改善する対策として、この記事では5つを取り上げます。休日とシフト、賃金と手当、教育とキャリアパス、評価とフィードバック、外国人スタッフの定着支援です。宿泊業・飲食サービス業の離職率は2025年に23.7%で、産業別で最も高い水準でした(宿泊業だけの離職率は公表されていません)。
5つの対策それぞれについて、根拠になるデータと、現場で進める手順をまとめました。記事の最後に、自社の状況を確かめるチェックリストを置いています。離職の原因の全体像と、退職理由の1位「したい業務ができなかった」に応える配置の見直し、省力化への投資は、ホテル業界の離職率はなぜ高い?原因と対策で解説しています。
対策1:休日とシフトの組み方を見直す
有給休暇の取得率50.7%。宿泊業・飲食サービス業の数字で、産業別で最も低い水準です。2024年の1年間に付与された15.9日のうち、取得されたのは8.0日でした。
手を付ける前に、休めていない人と部署を数字で把握します。一覧表に入れる項目は、次の4つで足ります。
| 項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 有給休暇の取得日数(直近1年) | 年5日に届いていない人がいないか |
| 月ごとの残業時間 | 特定の人・部署に偏っていないか |
| 連続勤務の最長日数 | 6日を超える連勤が続いていないか |
| 夜勤・中抜けシフトの回数 | 同じ人に集中していないか |
一覧ができたら、シフトの組み方のルールを文書にします。担当者が替わっても同じ基準でシフトを組めるようにするためです。
有給休暇を確実に取ってもらう方法の一つが、会社が日を決めて取らせる「計画年休」です。導入には、対象者や日数、取得日の決め方を定めた労使協定を結ぶ必要があります。閑散期にまとめて休む日を先に決めておくと、繁忙期に休みを言い出しにくい職場でも取得日数を確保できます。年5日の取得義務を守る手段にもなります。
対策2:手当の見直しから賃金を改善する
一般労働者の所定内給与額は、宿泊業・飲食サービス業で月27万7,200円(2025年6月分)でした。全産業の34万600円を6万3,400円下回り、産業別で最も低い水準です。
給料への不満は、同じ業界の中で職場を移る理由にもなっています。観光庁が、宿泊業の中で別の施設へ移った119人に理由を聞くと、「給料に不満があったから」は21.8%で、「家庭の事情」(22.7%)に次ぐ2番目でした。一方、宿泊業そのものを離れた人(300人)では、給料への不満は11.3%で5番目です。給料だけでは離職を説明できませんが、施設を選ぶ決め手にはなっています。
基本給を一度に大きく上げるのが難しくても、手当は見直せます。まず、負担やスキルが大きいのに手当が付いていない仕事を洗い出します。
| 見直す手当の例 | 確かめること |
|---|---|
| 夜勤手当・早朝勤務手当 | 深夜割増とは別に、夜勤の負担に見合う額か |
| 語学手当 | 外国語での接客を任せている人に付いているか |
| 資格手当 | 調理師、ソムリエ、旅行業務取扱管理者など、仕事で使う資格が対象になっているか |
| 住宅手当・食事補助 | 寮や食事の提供がない施設で、生活費の負担を補えているか |
次に、昇給と昇格の条件を書面にします。どの役職で、どんな仕事ができれば、いくらになるのか。賃金表とキャリアの段階表があれば、本人は何を目指せばよいかがわかります。業績に応じた賞与を設ける場合も、計算の方法を先に示しておくと納得感が生まれます。
対策3:入社1か月の研修と、キャリアパスの図を用意する
2022年3月に大学を卒業して宿泊業・飲食サービス業に就職した人の55.4%が、3年以内に離職しています。高卒では64.7%で、どちらも産業別で最も高い数字です。
一般労働者の平均勤続年数(同じ勤め先での年数)も、宿泊業・飲食サービス業は9.6年で、全産業の12.7年より3.1年短くなっています。
入社後の研修は、誰が、いつ、何を教えるかを先に決めます。観光庁の事業者調査では、離職率15%未満の施設(220施設)の50.0%が採用後すぐの導入研修を実施していたのに対し、15%以上の施設(143施設)では38.5%でした。報告書は、導入研修が離職率の低下と関連する可能性があるとしています。
研修の計画は、たとえば次のように週単位で組みます。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 1週目 | 施設の理念、館内の案内、安全と衛生、接客の基本 |
| 2〜3週目 | 配属先の業務をメンター(教える担当者)と一緒に行う |
| 4週目 | 一人で担当する業務を少しずつ増やし、週末にメンターと振り返る |
| 1か月後 | 上司との面談で、できるようになったことと次の目標を確認する |
キャリアパスは図にします。「フロントスタッフ → フロント主任 → 宿泊部門マネージャー → 支配人」のような役職の流れに加え、調理や客室管理など専門職として評価される道も並べます。管理職を目指さない人も、将来の姿を描けるようにするためです。年に1〜2回はキャリアの希望を聞く面談を設け、異動や研修、資格取得の支援につなげます。
対策4:評価の基準を書面にし、月1回の1on1で伝える
観光庁が、宿泊業で働き続けている人(337人)に今の職場で満足している点を聞くと、最多は「人間関係、コミュニケーション」(41.2%)でした。一方、「人事評価・処遇の在り方」を挙げた人は6.5%にとどまります。職場の関係づくりと評価の仕組みには、どちらも手を入れる余地があると考えられます。
評価の基準は、数字にしにくい項目ほど具体的に書きます。
- 悪い例:「笑顔で丁寧に接客できる」
- 良い例:「チェックイン時に、お客様の名前を呼んで挨拶し、館内の案内を1分以内で伝えられる」
良い例のように行動で書いておけば、評価する人によって点数がぶれにくく、本人も何を頑張ればよいかがわかります。
基準を伝える場として、月に1回、上司と1対1で話す面談(1on1)を設けます。1回15〜30分で足ります。評価の基準に照らしてできていたこと、お客様から届いた声、困っていることを話す場にすると、悩みを早めに拾えます。評価シートの作り方とお客様の声の生かし方は、ホテルの教育・評価制度を再設計する方法で詳しく解説しています。

対策5:外国人スタッフの言葉と生活を支える
日本で働く外国人は、2025年10月末時点で257万1,037人と過去最多になりました。外国人を雇用する事業所のうち14.5%が宿泊業・飲食サービス業で、卸売業・小売業(19.0%)、製造業(15.7%)に次ぐ3番目です。宿泊業での外国人の定着率は、この調査では公表されていません。
外国人スタッフが長く働ける職場をつくるには、言葉、生活、評価の3つを支えることが考えられます。
言葉の面では、マニュアルと館内掲示を、スタッフの母語や英語でも読めるようにします。よく使う日本語のフレーズ集を用意し、日本語研修の機会を設けます。日本人スタッフが基本的な外国語や相手の国の習慣を学ぶ機会もあると、お互いに話しかけやすくなります。
生活の面では、相談を受ける担当者を決めます。来日して間もないスタッフは、住まい探しや役所の手続きで困ることがあります。仕事以外の悩みを相談できる先があれば、それが原因の離職を減らせる可能性があります。
評価の面では、国籍に関係なく同じ基準で評価し、昇進の道を示します。従業員の約7割が外国籍のホテルで、1on1面談とメンター制度に取り組み、定着率が安定していると評価された事例は、ホテルの離職率改善事例4選で紹介しています。

まとめ:チェックリストで、自社の現状を確かめる
5つの対策は、どれも「今どうなっているか」を数字でつかむところから始まります。次のチェックリストで、できていない項目から手を付けてください。
| 対策 | チェック項目 |
|---|---|
| 1. 休日とシフト | 部署ごとの有給休暇の取得日数を、月に1回は確認している |
| シフトの組み方のルールが文書になっている | |
| 年5日の有給休暇を取れていない人を、年度の途中で把握できる | |
| 2. 賃金と手当 | 夜勤・語学・資格など、負担やスキルに応じた手当がある |
| 昇給・昇格の条件を、本人が書面で確認できる | |
| 3. 教育とキャリアパス | 入社後1か月の研修内容と、教える担当者が決まっている |
| 役職と専門職のキャリアパスを、図や表で示している | |
| 4. 評価とフィードバック | 評価の基準が、行動の具体例つきで書面になっている |
| 上司と1対1で話す場が、月に1回以上ある | |
| 5. 外国人スタッフ | マニュアルと館内掲示が、母語や英語で読める |
| 生活面の相談を受ける担当者が決まっている |
離職率の推移や業界平均との比較は、統計データで見るホテル業界の離職率で解説しています。

参考資料
- 厚生労働省『令和7年雇用動向調査結果の概況』.厚生労働省公式サイト.2026年8月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:「産業別の入職と離職」表4-2 産業、就業形態別入職率・離職率・入職超過率 - 厚生労働省『令和7年就労条件総合調査の概況』.厚生労働省公式サイト.2025年12月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:「労働時間制度」第5表 労働者1人平均年次有給休暇の取得状況 - 厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』
- 厚生労働省『令和7年賃金構造基本統計調査の概況』.厚生労働省公式サイト.2026年3月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:第1表 性別賃金、対前年増減率及び男女間賃金格差の推移、第5-1表 産業、年齢階級別賃金及び対前年増減率/第2表 性、年齢階級別賃金、対前年増減率及び年齢階級間賃金格差、第5-1表 産業、年齢階級別賃金及び対前年増減率 - 国土交通省観光庁『令和6年度「宿泊業の人材確保・育成の状況に関する実態調査事業」報告書』.国土交通省公式サイト.2025年3月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:図Q15 異なる宿泊施設への転職理由、図Q32 宿泊業離職理由/図Q17 研修実施状況(離職率別)/図Q25 現在の職場の満足している点 - 厚生労働省『新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します』.厚生労働省公式サイト.2025年10月.(参照:2026年10月5日).
- 厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)』.厚生労働省公式サイト.2026年1月.(参照:2026年10月5日).
