人手不足、インバウンド対応、地域との共存…。
ホテルや旅館で働いていると、日々のオペレーションに追われる一方で、「国の施策や補助金の情報まで追い切れない」と感じることも多いのではないでしょうか。
観光庁のウェブサイトには、補助金、統計データ、事例集、政策など、宿泊業に従事する方々に役立つ情報が多数掲載されています。ただ、情報が広く深く掲載されている分、「どこから見ればいいのか分かりづらい」と感じられがちです。
この記事では、観光庁の情報を宿泊業で活かすことを目的に、公式サイトの中から特に押さえておきたいページを整理し、どの順番でどう見ていくと理解しやすいかを解説します。
ステップ1:宿泊業向け情報の入口は「観光関係者の方」
まずはメニューで「自分向けのエリア」を選ぶ
観光庁サイトには、「観光関係者の方」と「一般の方」という利用者別メニューがあります。

宿泊業に従事する方々が情報を探すときは、まず「観光関係者の方」メニューから入るのが分かりやすいです。ここから、公募情報、事例集、観光統計・白書、観光政策・制度、予算・税制といった、観光関係者向けの情報にアクセスできます。
ひとまずの目安としては、
「観光庁サイト → 観光関係者の方 → 目的に合わせて各メニューを選ぶ」
という流れを覚えておくと便利です。
ステップ2:観光庁の情報を宿泊業で活かす5つの基本カテゴリ
「観光関係者の方」配下では、主に次の5つのカテゴリが、事業者向け情報の柱になっています。
ここでは、それぞれがどんなときに役立つのかを、宿泊業の視点から整理します。
1. 公募情報:補助金・支援事業を探したいとき
「公募情報」では、観光庁による補助金や委託事業などの公募・採択結果が一覧で掲載されています。
宿泊業に従事する方々にとっては、例えば次のようなテーマの事業が関係することが多いとされています。
- 人手不足・業務効率化・DX
- インバウンド受入環境整備(多言語対応・キャッシュレスなど)
- オーバーツーリズムの未然防止や持続可能な観光の推進
- スノーリゾート、MICE、地域観光の高度化 など
「何か補助金を活用できないか?」と感じたときは、
まず公募情報をざっと眺めて、自社に関係しそうなテーマがあるかを確認する、という使い方が基本です。
公募情報の「見方」や「申請のときに気を付けたいポイント」などは、下記の記事で詳しく取り上げているので、よろしければご覧ください。

2. 事例集・支援ツール:他施設の取り組みや使える資料を知りたいとき
「事例集・支援ツール」では、観光地域づくりやインバウンド、防災・危機管理などに関する事例とツールが紹介されています。
宿泊業に従事する方々が見るときのポイントは、次の通りです。
- 自社と近い規模・立地の施設が、どのような工夫をしているか
- 多言語ツールや災害時の案内など、そのまま使えそうなテンプレートやチェックリストがないか
- 地域の観光協会やDMOと一緒に取り組めそうなテーマがないか
「具体的な成功事例を知りたい」「一から資料を作るのは大変なので、雛形が欲しい」というときに、
まずこの事例集・支援ツールを確認すると効率的です。

3. 観光統計・白書:宿泊需要の大きさや傾向を把握したいとき
「観光統計・白書」には、観光庁が作成した統計や白書へのリンクがまとまっています。
宿泊業に従事する方々に関係が深い統計として、例えば次のようなものがあります。
- 宿泊旅行統計調査
- 旅行・観光消費動向調査
- インバウンド消費動向調査(旧・訪日外国人消費動向調査)
これらを見ることで、次のようなことを把握しやすくなります。
- 自分たちの地域に、どのくらいの人が泊まりに来ているか
- 国内客・インバウンド客の比率や変化
- 宿泊や飲食、交通などにどのくらいお金が使われているか
「感覚的には忙しいけれど、市場全体で見るとどうなのか?」
といった疑問を持ったときに、統計を確認すると客観的に判断しやすくなります。

4. 観光政策・制度:国の方針やルールの流れを知りたいとき
「観光政策・制度」には、観光立国推進基本計画など、観光分野に関する計画や方針、制度の情報が掲載されています。
このエリアを見ることで、次のような点を把握しやすくなります。
- 今後数年間、国として特に力を入れようとしているテーマ(例:持続可能な観光、DX、人材育成など)
- 法制度の変更や新しいルールが、宿泊施設の運営に与える影響
- 地域で議論されている観光施策の背景にある「国の考え方」
「これから数年、どの方向に舵を切るべきか」を考えるとき、
観光庁の政策・制度の情報が中長期の前提になります。

5. 予算・税制:どこにお金が配分されているかを知りたいとき
「予算・税制」には、観光分野の予算や税制措置の情報がまとめられています。
細かい数字まで把握する必要はありませんが、
- 観光関連予算のうち、どの分野にまとまった額が配分されているか
- 税制上の支援措置や優遇策が、自社の投資や設備更新にどう影響しうるか
といった点を把握しておくと、公募情報や政策の解釈がしやすくなります。

ステップ3:新着情報を無理なくチェックする工夫
観光庁サイトでは、「報道発表」「トピックス」「公募情報」などの新着情報が一覧で公開されています。
宿泊業に従事する方々が特に見ておきたいのは、次のようなものです。
- 宿泊旅行統計や消費動向調査の最新結果・速報
- 宿泊施設を対象に含む新しい補助事業の公募開始
- 宿泊事業者や観光関係者向けのセミナー・説明会・イベント情報
忙しい中で闇雲に追いかけるのは難しいため、例えば次のようなルールを決めておくと無理なく続けやすくなります。
- 月に1回、担当者が新着一覧をざっと確認する
- 宿泊業や地域観光に関係がありそうなタイトルだけメモする
- 必要そうなものは、社内チャットや会議で共有する
ステップ4:災害・復興関連情報はいざというときの確認先に
観光庁サイトには、地震や大雨などの災害に関する情報や、観光を通じた復興支援の情報も掲載されています。
宿泊施設の立地や規模によって必要度は変わりますが、次のような観点で「いざというときの確認先」として覚えておくと安心です。
- 観光関連事業者向けの支援制度・相談窓口
- 被災地域の観光回復・復興に関する施策
- 宿泊者への情報提供・安全確保に関する考え方
普段から細かく追う必要はありませんが、自施設のエリアで大きな災害が発生したときには、自治体からの情報に加えて観光庁の関連ページも確認しておくと、支援策や方針を把握しやすくなります。
ステップ5:宿泊業として観光庁情報の優先順位を決める
観光庁サイトには多くの情報がありますが、すべてを追う必要はありません。宿泊業として現実的に取り組むとしたら、次のような優先順位が一つの目安になります。
優先度高:半年〜年に数回はチェックしたいもの
- 公募情報(宿泊関連の事業がないか)
- 自施設と関係が深い統計(宿泊旅行統計・消費動向など)
- 大きな方針転換や新しい計画が出たときの政策・制度
余裕があればチェック:時間のあるときに見たいもの
- 自社と似た規模・地域の事例集・支援ツール
- 災害・復興関連情報(立地やリスクに応じて)
- MICEやワーケーション、デジタルノマドなど、新たな需要開拓につながる分野
必要に応じてスポットで確認:テーマを決めて調べたいとき
- オーバーツーリズム対策、ユニバーサルツーリズム、観光人材育成などのテーマ別資料
- 自治体やDMOと話し合う際に背景を把握しておきたい政策・白書
まとめ
- 観光庁サイトを使うときは、まず「観光関係者の方」メニューを入口にすると分かりやすくなります。
- 公募情報・事例集・支援ツール・観光統計・白書・観光政策・制度・予算・税制という5つのカテゴリを、どんなときに見るかという観点で整理しておくと、必要な情報にたどり着きやすくなります。
- すべてを追う必要はなく、半年〜年に数回チェックするもの/時間があるときに見るもの/特定テーマで調べるときだけ見るものといった形で、優先順位を決めておくと現実的です。
- 大切なのは、「観光庁サイトを全部理解すること」ではなく、自分たちの仕事に直結する情報を、必要なときに取りに行ける状態をつくることです。
参考資料
- 観光庁「観光関係者の方」
- 観光庁「公募情報」
- 観光庁「2025年 公募情報一覧」
- 観光庁「観光統計・白書」
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」
- 観光庁「旅行・観光消費動向調査」
- 観光庁「インバウンド消費動向調査」
- 観光白書(各年版)


