人手不足、対応力強化、設備更新、DX、インバウンド。
ホテルや旅館の現場や本社で課題を抱えていても、「国の補助金や支援策を一通り追いきれていない」と感じている方は少なくありません。
観光庁の公募情報ページには、毎年、多数の事業の募集開始・募集終了・採択結果がまとめて掲載されています。ただし、情報量が多く、どこから見ればよいか分かりにくいと感じる方も多いはずです。
この記事では、観光庁の公募情報ページを宿泊業で活用することを念頭に、公式サイトの構成や絞り込み機能を整理し、自社に関係する補助金や採択結果を効率よく見つけるための基本的な見方をまとめます。

ステップ1:観光庁公募情報ページの全体像をつかむ
トップページは「年度別の入り口」
観光庁の公募情報トップページには、「ここでは観光庁の公募情報についてご紹介します。」という案内とともに、2025年・2024年・2023年・2022年といった年度へのリンクが一覧で並んでいます。
まずは、自分が確認したい年度、たとえば最新の「2025年」をクリックし、その年の公募一覧に進むのが基本の流れです。
年度ページは「フィルタ付きの一覧」
年度別ページでは、日付・募集状況・事業名・対象者区分・締切日などが一覧で表示され、その行から詳細ページへリンクされています。
募集状況や対象者で絞り込めるようになっているのが特徴です。
- 募集状況の例
- すべて
- 募集中
- 募集終了
- 採択結果
- 対象者区分の例
- 宿泊業
- 旅行業
- 観光施設
- 交通
- 自治体・DMO
- その他観光関係者
- 一般の方
宿泊業で働く方は、まず「対象者区分」で宿泊業を含むものを選び、そのうえで「募集中」や「採択結果」で絞り込むと、自社に関係する情報だけを一覧で確認しやすくなります。
ステップ2:宿泊業に関係しやすい公募の種類を知る
2025年の公募情報一覧を見ると、宿泊業を対象に含む事業として、次のようなテーマの案件が並んでいます。
- 観光産業や宿泊事業者の事業再生を支援する事業
- 観光産業の人材不足対策に関する事業
- インバウンド受入環境整備や、多言語・キャッシュレス対応の高度化事業
- オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業
- MICE開催地としての魅力向上事業
- 地域観光魅力向上事業やローカルガイド人材の確保・育成に関する事業
事業名や設計は年度ごとに変わりますが、宿泊業との関わりが深いものは、大きく次の三つに整理できます。
- 宿泊施設そのものの機能や環境整備に関する事業
- 地域全体の観光コンテンツや人材を強化する事業
- インバウンド・MICE・長期滞在など、新しい需要を開拓する事業
自社の課題が、「設備更新なのか」「デジタル化なのか」「人材なのか」「新市場の開拓なのか」、どこにあるのかを意識しながら一覧を眺めると、「今の自社に合うテーマかどうか」が判断しやすくなります。
ステップ3:宿泊業としての実務的な絞り込み方
1.宿泊業を対象に含む公募だけに絞る
まずは、対象年度のページで「対象者区分」のフィルタを使い、宿泊業が含まれる案件だけを表示します。
「宿泊業」が単独で対象になっている事業だけでなく、「宿泊業・旅行業・自治体・DMO・観光施設」など、複数の区分をまとめて対象とする事業も一覧に残ります。
これだけでも、一般向けを含めた全件表示と比べて、かなり見通しがよくなります。
2.募集中と採択結果を分けてチェックする
次に、「募集状況」で絞り込みます。
- 「募集中」
→ 今から申請を検討できる案件の洗い出しに使う - 「採択結果」
→ どのような地域や事業者が、どんな内容で採択されているかを確認し、来年度以降の応募イメージの参考にする
採択結果は、「観光振興事業費補助金(ガストロノミーツーリズム、ローカルガイド育成など)」や「持続可能な観光推進モデル事業」など、事業ごとに採択先が公表されているケースもあります。
これは、「自社が同じ事業に応募するとしたら、どの程度の内容や体制が求められるのか」を具体的にイメージするうえで役立ちます。
3.年度をまたいでテーマの継続性を見る
2022年から2025年までの年度ページをまたいで見ると、似たテーマの事業が名前や内容を変えながら継続して実施されていることも分かります。
たとえば、
- オーバーツーリズム対策
- 観光DX推進
- DMO体制整備
- 人材不足対策
- インバウンド受入環境整備
といったテーマは、複数年度にわたって繰り返し登場しています。
中長期視点で投資を考えるなら、「今年だけの単発支援なのか」「数年にわたり重点が置かれている政策テーマなのか」を見分けることも重要です。
ステップ4:各公募の詳細ページで見るべきポイント
一覧から個別の公募ページに進んだら、宿泊業として特に確認したいのは次のポイントです。
- 事業の目的
- どのような課題解決を狙っている事業なのか
- 自社の課題や計画と方向性が合っているか
- 対象事業者
- 宿泊業が対象に含まれているか
- 自社の規模や形態でも応募可能か
- 支援内容
- 補助率・上限額・補助対象経費
- ハード(設備・改修)・ソフト(研修・コンテンツ開発など)のどちらが対象か
- スケジュール
- 応募締切・採択時期・事業実施期間
- 自社の予算編成や繁忙期と両立できるスケジュールか
- 応募方法
- 事務局や窓口、応募様式、提出方法
- 公募説明会やオンラインセミナーなどの有無
特に宿泊施設では、繁忙期に大規模な工事を行うことが難しいため、「いつまでに採択され、いつまでに事業を完了しなければならないか」は早い段階で確認しておきたいポイントです。
ステップ5:無理なく続けるためのチェック体制づくり
公募情報を追いかけること自体が目的化してしまうと、本業の負担になってしまいます。現実的な運用例として、次のような方法が考えられます。
月1回の「定例チェック」を決める
- 月の前半や月末など、日を決めて公募情報ページを確認する
- 宿泊業を対象に含む「募集中」と「採択結果」だけをフィルタしてチェックする
- 気になった案件を社内チャットや共有シートにメモしておく
簡易な管理表で「検討中」と「今回は見送り」を分ける
たとえば、Googleスプレッドシートなどで、次のような項目を持つ簡易リストを用意します。
- 事業名
- 対象年度
- 募集状況(募集中/採択結果など)
- 自社との関連度(A/B/Cなど)
- 担当者
- 検討状況(検討中/今回は見送りなど)
- メモ
こうして蓄積しておくと、翌年度に同様の事業が出てきたときに、「昨年はこういう理由で見送ったが、今年は条件が変わった」といった振り返りがしやすくなります。
現場と本社の視点を両方入れる
- 現場側
- 宿泊者対応やオペレーションの課題を踏まえ、「どんな支援があれば助かるか」を整理する
- 本社側
- 中期計画や投資計画と照らして、「いつ、どの事業に乗るべきか」を判断する
観光庁の公募情報ページは、現場と本社の両方の視点をつなぐ「共通の情報源」として活用するイメージです。
ステップ6:宿泊業としての優先順位の付け方
観光庁の公募は年間を通して多数ありますが、すべてを完璧にフォローする必要はありません。宿泊業として、現実的に優先したいのは次のような順番です。
優先度高:常時チェックしたいもの
- 宿泊業を対象に含む「募集中」の公募
- 宿泊施設や観光産業の人材不足対策、DX、サステナビリティなど、自社の経営課題に直結するテーマの公募
- 自社が応募を検討している事業の採択結果
余裕があればチェックするもの
- 宿泊業を対象に含むが、現時点では自社の優先順位が低いテーマの公募
- 将来の方向性として気になるテーマ
(例:デジタルノマド、ガストロノミーツーリズム、長期滞在など)
必要時だけスポットで確認するもの
- 自治体やDMOと共同で動く前提の事業
- 大規模なハード整備など、社内の意思決定に時間がかかる案件
大切なのは、「すべての公募に目を通すこと」ではなく、自社の課題と中期計画に沿って、優先順位を付けながら観光庁の公募情報を活用していくことです。
まとめ
- 観光庁の公募情報ページは、年度別のリンクとフィルタ機能で構成されており、宿泊業を対象に含む事業だけを絞り込んで確認できます。
- 宿泊業に関係しやすい公募は、「設備や環境の整備」「地域コンテンツや人材の強化」「インバウンドやMICEなど新しい需要の開拓」といったグループに分けて整理すると分かりやすくなります。
- 宿泊業を対象に含む「募集中」と「採択結果」を、月1回程度のペースで定期的にチェックする仕組みをつくると、無理なく継続しやすくなります。
- 一覧から個別ページに進んだら、目的・対象者・支援内容・スケジュール・応募方法を押さえ、自社の計画と現実的に両立できるかを確認することが重要です。
- すべてを追いかけるのではなく、自社の課題と中期計画に沿って優先順位を付けることが、観光庁の公募情報を宿泊業で活かすうえで現実的なアプローチと言えます。
参考資料
- 観光庁「公募情報」
- 観光庁「2025年 公募情報一覧」
- 観光庁「募集中一覧」
- 観光庁「「観光産業再生促進事業」の宿泊事業者公募を開始します」
- 観光庁「「インバウンド受入環境整備高度化事業」の三次公募を開始します」
- 観光庁「「地域観光魅力向上事業」の二次公募を開始します」


