コンフォートホテルの地産地消無料朝食は、地域食材の活用とSDGsの実践を同時に進めたい宿泊業にとって、参考になる事例と言えるでしょう。
本記事では、コンフォートホテルが全国35ホテルで展開する地産地消朝食メニューを整理しながら、ホテル・旅館が自施設の朝食やF&Bでどのように活かせるかを具体的に考えていきます。
本記事のポイント
- コンフォートホテルの地産地消朝食が、地域活性化とSDGs(つくる責任・つかう責任)を両立する仕組みとしてどのように設計されているかを考察します。
- ホテル・旅館が冬の旅行・観光需要やビジネス需要を取り込みつつ、無料・有料を問わず朝食の価値を高めるための実務的なヒントを解説します。
- インバウンドや多様な食習慣への配慮、従業員エンゲージメント向上も含めて、地産地消とサステナブルを自社の強みに変えるためのステップを提案します。
ニュースの概要
コンフォートホテルを展開する株式会社チョイスホテルズジャパンは、全国35ホテルのコンフォートホテルで提供している無料朝食ビュッフェの「地産地消」メニューをリニューアルしました。伝統的な「100年フード」や郷土料理、B級グルメなど、その土地ならではの食文化を朝食に取り入れている点が特徴です。
先行して、2025年12月1日から全国18ホテルで新メニューの提供が始まり、石狩鍋(函館・北見)、イカの塩辛じゃがバター(釧路・帯広)、ひっつみ汁(北上)、芋煮スープ(山形・天童)、しぞーかおでん(浜松)、味噌おでん(名古屋伏見・刈谷)、僧兵鍋(四日市)、焼うどん(小倉・黒崎)、つんきーだご汁(佐賀)、冷や汁(宮崎)、いわしのだんご汁(水戸・成田)、ぬっぺ汁(水戸)など、多彩な地産地消メニューが朝食ブッフェに並びます。
コンフォートホテルの朝食は「おいしく、しっかり、バランスビュッフェ。」をテーマとし、無料でありながらも地域の生産者や事業者と連携し、旬のフルーツや野菜を使ったスムージー、日替わりおかずなどを提供しています。ビジネス利用から観光・家族旅行まで幅広いゲストが、その地域らしさや四季を感じられる構成になっている点がポイントです。
また、こうした地産地消メニューの導入は、SDGsの「目標12:つくる責任 つかう責任」「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」に資する取り組みと位置付けられています。宿泊業が地域社会と連携しながら食の魅力を伝え、地域を元気にしていこうというメッセージが明確に打ち出されています。

宿泊業にとってのポイント|コンフォートホテルの地産地消朝食が示す可能性
コンフォートホテルの取り組みは、「朝食=付帯サービス」という位置付けから一歩進み、「朝食=地域コンテンツ」「朝食=サステナブル経営の入口」として活用している点に特徴があると言えるでしょう。
宿泊業にとっての主なポイントは次の通りです。
- 朝食が“地域体験”の一部になる
石狩鍋やしぞーかおでん、冷や汁など、コンフォートホテル各館で提供される料理は、単なるおかずではなく、その土地の食文化・気候・歴史を伝えるストーリーを持っています。観光庁の観光コンテンツ調査でも、「生活没入」「地域の日常を体験する」タイプのコンテンツがトレンドとして注目されており、食はその中心的な要素とされています。 - SDGsと収益性を両立しやすいテーマである
地産地消はフードマイレージの削減や地域経済への還元など、持続可能な観光の国際的な基準とも親和性が高く、サステナブルラベル取得を目指す施設にとっても取り組みやすい領域です。実際に、日本の宿泊施設向けサステナブル事例でも、地域食材の活用や食品ロス削減が重要な要素として整理されています。 - 人手不足の中でも“高付加価値”を生みやすい
朝食の一部メニューを地産地消に切り替える発想であれば、設備投資を大きく増やさずとも実行できます。観光庁の生産性向上ハンドブックでは、顧客価値の向上と業務効率化をセットで考えることが重要とされており、朝食のメニュー設計はその代表的な領域だと考えられます。 - インバウンド対応の“入口”として機能する
観光庁の旅館・ホテル向けのインバウンド受入ポイント資料では、「和朝食の人気は高いが、洋朝食やコーヒーの選択肢があると安心感につながる」と指摘されており、メニューの選択性が評価される傾向があります。
コンフォートホテルのようにバランスビュッフェ形式で、和・洋・地域メニューを組み合わせる発想は、多様なゲストニーズを満たすうえで参考になるでしょう。
コンフォートホテルの無料朝食は、「料金に組み込まれたコスト」としてだけでなく、「滞在の満足度を左右するコンテンツ」「リピートや口コミの源泉」として位置付け直すきっかけを与えてくれると言えそうです。
背景と理由の整理|コンフォートホテルが地産地消に取り組む文脈
コンフォートホテルが地産地消メニューを強化する背景には、宿泊業全体を取り巻くいくつかの大きな流れがあります。
1. インバウンドの回復と“食体験”の重視
インバウンドを含む観光需要はコロナ後に回復が進み、多様な食習慣や宗教的背景を持つ旅行者が増えています。観光庁はベジタリアン・ヴィーガンやムスリム旅行者の受入ガイドを改訂し、「まずはできる範囲から対応し、食の不安をなくすこと」が重要としています。
一方で、多くの旅行者が日本らしい食文化体験を求めていることも事実です。これらを両立させるには、「地元食材を使いながら、少なくとも一部は誰でも食べやすいメニューを揃える」という設計が有効です。コンフォートホテルの朝食は、地産地消メニューに加え、洋朝食やスムージーなどバランスの取れた構成とすることで、このニーズに応えていると言えそうです。
2. 宿泊業における人手不足と生産性向上
宿泊事業者向けの経営マニュアルでは、人手不足の解消には単なる増員ではなく、業務の見直しと高付加価値化が不可欠だと指摘されています。
朝食はピーク時間が集中しやすい業務ですが、メニューの絞り込み・動線設計・セルフスタイルの活用によって、スタッフ一人あたりの生産性を高めつつ満足度を維持することが可能です。
コンフォートホテルのように「無料ビュッフェ」「日替わりのおかず」「決まったテーマ(地産地消)」といった枠を設けると、裏方の仕込み・発注・オペレーションの標準化が進めやすくなります。
この発想は、小規模旅館や地方ホテルにとっても応用しやすいと考えられます。
3. 持続可能な観光と地域社会との関係性
持続可能な観光の国際基準では、環境への配慮だけでなく、地域経済や地域社会への貢献も重要な柱とされています。
地産地消メニューは、地元の農家・漁業者・食品事業者との取引を増やすことで地域経済を支えつつ、旅ナカ消費を広げるきっかけにもなります。
コンフォートホテルの地産地消朝食は、「地域のみなさまに協力をいただきながらお客様に地元の味を届ける」というスタンスを明示しており、SDGsの「パートナーシップ」を体現する形と言えるでしょう。
具体的な取り組み・ニュース内容の解説|コンフォートホテルのメニュー設計から学べること
ここでは、コンフォートホテルの具体的な地産地消メニューの構成から、他施設でも応用できるポイントを整理します。
1. 「郷土料理×朝食」による季節性とストーリーの付与
コンフォートホテルでは、以下のような地域メニューが朝食に組み込まれています(一部抜粋)。
- 北海道エリア
- 北の恵みを味わう石狩鍋(函館・北見)
- イカの塩辛じゃがバター(釧路・帯広)
- 北海道野菜を楽しむスープカレー
- 東北・北関東エリア
- 岩手の家庭の味 ひっつみ汁(北上)
- ふるさとの味わい 芋煮スープ(山形・天童)
- するめが決め手 ぬっぺ汁(水戸)
- 郷土のやさしい味 いわしのだんご汁(成田)
- 中部・東海エリア
- しぞーかおでん(浜松)
- 名古屋名物 味噌おでん(名古屋伏見・刈谷)
- 地元に伝わる味 僧兵鍋(四日市)
- 九州エリア
- 佐賀の食卓 つんきーだご汁(佐賀)
- 郷土の涼味ごはん 冷や汁(宮崎)
- 北九州発祥 焼うどん(小倉・黒崎)
ポイントは、「その土地ならでは」「家庭の味」「郷土の味わい」といったコピーで“物語性”を持たせていることです。
宿泊業においても、単に「地元野菜の味噌汁」と書くより、「○○地域で受け継がれてきた冬の朝の味噌汁」のようにストーリーを添えるだけで、ゲストの体験価値は高まりやすくなります。
2. 朝食オペレーションとメニュー数のバランス
旅館向けインバウンドポイント集では、「料理が美味しいが量が多い」という声に対して、量を抑えつつ“おかわり自由”にすることで、サービス向上とコスト削減・ゴミ減量を同時に達成できるとしています。
コンフォートホテルの朝食ビュッフェも、
- 地産地消メニュー:1〜2品
- 定番メニュー(パン、卵料理、サラダなど):数品
- スムージーなど付加価値メニュー:1〜2品
といった「軸+変化球」の構成をとることで、メニュー数の過多によるロスを抑えながら満足度を確保していると考えられます。
自施設で取り入れる場合も、「定番+郷土料理1品」から始めるくらいの設計にすると、現場の負荷を抑えつつ継続しやすくなります。
3. 多様な食習慣への配慮とコミュニケーション
観光庁のテキストやガイドでは、多様な食習慣・宗教的背景を持つ旅行者に対しては、
- 原材料表示やアレルゲン表示をできる範囲で行うこと
- 英語メニューやピクトイングラム、多言語翻訳ツールの活用といった「情報提供の工夫」が推奨されています。
コンフォートホテルのように、多様なゲストが利用するビジネスホテルでは、
- 郷土料理の主な材料・辛さ・アレルゲンを簡潔に表示する
- ベジタリアン・宗教的制約に配慮したメニューを1〜2品確保する(野菜スープ、サラダ、果物など)
- コーヒーや洋朝食の選択肢も用意する
といった工夫を組み合わせることで、安心感と満足度の両立がしやすくなります。
自社への活かし方のヒント|コンフォートホテルを参考に小さく始める「地産地消×朝食」施策
最後に、コンフォートホテルの取り組みを参考にしながら、ホテル・旅館が自社で実践しやすいステップを整理します。
1. まずは「1品だけ」地産地消メニューを決める
- 地元の家庭料理や郷土料理を1〜2品、朝食で提供する
- 冬期であれば、鍋料理・汁物・温かい煮物など、季節に合うものを優先する
- 地元の生産者や飲食店からレシピ協力を受ける形も有効
観光庁のインバウンド研修テキストでも、「地域の魅力を知り、愛する気持ちを持つこと」がホスピタリティの基本とされています。
スタッフと一緒に「自分たちの地域の味」を選ぶプロセス自体が、従業員エンゲージメント向上にもつながるでしょう。
2. メニュー名とPOPで“物語”を伝える
- 「○○の郷土料理」「ふるさとの味」といったコピーを活用
- 由来・歴史・食べ方を、1〜2行の日本語+英語で表示する
- 写真やイラストを添えると、インバウンドにも伝わりやすい
こうしたコミュニケーションは、観光コンテンツのトレンドである「生活没入」「ウェルネス(心身の充足)」とも相性が良く、滞在満足度の向上に直結しやすいと考えられます。
3. SDGs・サステナブルの観点を明示する
- 「地元産野菜○%使用」「食品ロス削減のため小盛+おかわり自由」などを明記
- 館内のSDGsボードや客室内インフォメーションに、朝食での取り組み内容を掲載
- 将来的にサステナブルラベル取得を見据える場合は、記録・データ化も意識する
サステナブルな観光の取組は、海外OTAや検索エンジンでも評価対象になりつつあり、中長期的には集客・単価アップに繋がる可能性があります。
4. 業務負荷と生産性を常にセットで点検する
- 新メニュー導入後、「仕込み時間」「発注頻度」「ロス率」を簡単に記録する
- スタッフからのフィードバック(作業負荷・オペレーションのしづらさ)を聞き取る
- 必要に応じてメニューを絞る・提供日を限定する
「顧客価値」「業務の生産性」「施設の生産性」の3つの観点をバランスさせることはとても重要です。コンフォートホテルのように、ブランドとしての“型”をつくりながら、各地域でのアレンジを認める設計は、チェーン・グループ宿泊施設にとって特に参考になるでしょう。
まとめ
- コンフォートホテルの地産地消無料朝食は、地域食材を活用しながらSDGsや地域貢献を打ち出す好事例であり、朝食を「地域コンテンツ」として再定義するヒントになります。
- インバウンドや多様な食習慣の広がりを踏まえると、地産地消メニューとともに、洋朝食・アレルギー配慮・ベジ対応などの選択肢を組み合わせることが、安心感と満足度向上に繋がると考えられます。
- 自社で取り組む場合は、コンフォートホテルのように「郷土料理1品から」「メニューPOPで物語を伝える」「食品ロスや生産性も同時に見る」といった形で、小さく始めると安心です。
- コンフォートホテルの事例をきっかけに、自館でも朝食を軸にした地産地消・サステナブル施策を検討してみるという選択肢もあります。
企業情報
- 会社名:株式会社チョイスホテルズジャパン
- 所在地:〒103-0002 東京都中央区日本橋馬喰町一丁目6-3 吉野第一ビル2階
- 代表者名:代表取締役社長 伊藤孝彦
- 設立年月日:2000年9月
- 資本金:2,000万円
- 事業内容:ホテルフランチャイズの加盟店の募集・指導・管理・運営。「チョイスホテルズインターナショナル」の日本におけるマスターパートナーとして、コンフォートホテル、コンフォートホテルERA、コンフォートイン、コンフォートスイーツ、Ascend Hotel Collection(TM)を全国に展開。
- 公式サイトURL:https://www.choice-hotels.jp
出典:PR TIMES『【朝食を食べて地域を元気にしたい。】全国35ホテルのコンフォートホテルにて、各地域の食材をふんだんに使用した「地産地消」新メニューを提供』(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000243.000037991.html)
参考資料
- 国土交通省 観光庁:ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド
- 国土交通省 観光庁:飲食事業者等におけるベジタリアン・ヴィーガン対応ガイド
- 国土交通省 観光庁:世界的潮流を踏まえた魅力的な観光コンテンツ造成のための基礎調査事業 調査報告書
- 国土交通省 観光庁:宿泊施設向け国際基準に対応した持続可能な観光にかかる取組事例集(Ver.1)
- 国土交通省 観光庁:「先駆モデル地域」における取組み事例集
- 国土交通省 観光庁:生産性向上のためのハンドブック −宿泊事業者における経営改善マニュアル−
- 国土交通省 観光庁:インバウンド対応能力強化教材集(通訳案内士向け)


