「忙しさは感じているけれど、市場全体として本当に伸びているのかが分からない」
「インバウンドの肌感覚はあるものの、数字で裏付けを取りたい」
そんなときに頼りになるのが、観光庁が公開している観光統計と観光白書です。
観光庁の「観光統計・白書」ページには、訪日外国人旅行者数や旅行消費、宿泊旅行の実態、インバウンド消費、観光入込客統計、経済波及効果など、観光政策の基礎となる統計と観光白書へのリンクがまとめられています。
この記事では、「観光庁 観光統計」をキーフレーズに、宿泊業で働く方の目線で、どの統計から見ればよいのか、どのように実務に活かせるのかを整理します。

ステップ1:観光庁「観光統計・白書」ページの全体像
観光庁の「観光統計・白書」ページには、観光庁が作成している統計の概要と、個別の統計・調査、観光白書へのリンクが整理されています。
主なメニューは、次のような構成です。
- 観光庁が作成している統計の紹介(PDF)
- 観光統計公表予定日
- 訪日外国人旅行者数・出国日本人数
- 旅行・観光消費動向調査
- 宿泊旅行統計調査
- インバウンド消費動向調査(旧・訪日外国人消費動向調査)
- 共通基準による観光入込客統計
- 経済波及効果
- 旅行業者取扱額
- 観光白書(別ページへのリンク)
このうち、宿泊業にとって特に重要度が高いものを、次のステップで整理していきます。
ステップ2:宿泊業に関係が深い主要統計の整理
1.訪日外国人旅行者数・出国日本人数
「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」では、日本を訪れる外国人旅行者数と、日本から海外に出る日本人の人数をまとめています。令和6年(2024年)の訪日外国人旅行者数は3,687万人とされています。
この統計は、主に次のような場面で役立ちます。
- インバウンド市場全体の回復度合いや成長トレンドを把握したいとき
- 自施設のインバウンド比率が、市場全体の動きと比べてどうか感覚をつかみたいとき
- 海外への日本人旅行が増えている時期に、国内宿泊需要への影響を考えたいとき
訪日外国人旅行者数の詳細は、日本政府観光局(JNTO)のデータと連携して整理されています。
2.旅行・観光消費動向調査
「旅行・観光消費動向調査」は、日本国内に居住する人の旅行・観光における消費実態を把握するための調査です。四半期ごと・暦年ごとの公表予定日も案内されています。
宿泊業として見るポイントは、次のような項目です。
- 宿泊を伴う旅行と日帰り旅行の比率
- 旅行先での消費内訳(宿泊、飲食、交通、土産物など)
- 世帯属性や旅行目的別の消費傾向
これらは、料金戦略やプラン設計を考える際に、「どこにお金が使われているのか」「どの層がどのくらい使っているのか」を検討する材料になります。
3.宿泊旅行統計調査
「宿泊旅行統計調査」は、わが国の宿泊旅行の実態を、全国規模で把握するための調査です。調査対象はホテル・旅館・簡易宿所などで、従業者数に応じて全数調査とサンプル調査が行われており、2015年4月調査からは毎月の調査・公表が実施されています。
宿泊業にとって最も直接的に役立つ統計の一つで、例えば次のようなことが分かります。
- 都道府県別・市区町村別などの延べ宿泊者数の推移
- 宿泊形態別(ホテル、旅館、簡易宿所など)の動き
- 日本人・外国人の宿泊比率の変化
これにより、
- 「自分たちの地域全体として宿泊需要が伸びているのか」
- 「ホテル・旅館など形態ごとの動きに違いがあるか」
といった点を、客観的な数字で把握できます。
4.インバウンド消費動向調査
「インバウンド消費動向調査(旧・訪日外国人消費動向調査)」は、訪日外国人旅行者の消費実態を把握するための調査です。
宿泊業として注目したいポイントは、次のような項目です。
- 国・地域別の一人当たり旅行支出
- 費目別の消費内訳(宿泊、飲食、買物、交通など)
- 旅行目的別の傾向(観光、ビジネス、MICEなど)
これらの情報から、
- どの国・地域のゲストが、宿泊以外のどこにお金を使いやすいか
- 食事・アクティビティ・物販など、館内でのアップセルの可能性がどこにあるか
といった視点の検討がしやすくなります。
5.共通基準による観光入込客統計
「共通基準による観光入込客統計」は、「観光入込客統計に関する共通基準」に基づき、都道府県が実施している調査の結果をまとめたものです。
特徴として、
- 観光地・イベントなどへの来訪者数を、一定の基準で把握している
- 都道府県のウェブサイトで公表されているデータへの入り口になっている
ことが挙げられます。
宿泊業としては、
- 宿泊客だけでなく、「日帰りも含めた来訪者数」の動きを把握する
- 宿泊への転換余地や、イベント開催時の宿泊需要の可能性を探る
といった視点で補助的に活用できます。
6.経済波及効果・旅行業者取扱額
「経済波及効果」では、日本人や訪日外国人の旅行消費が、どのような経済波及効果を持つかが示されています。
また、「旅行業者取扱額」では、主要旅行業者の取扱額が毎月速報として公表されています。
これらは、
- 観光消費が自社の周辺業種も含め、地域経済にどのような影響を与えているか
- 旅行会社経由の販売環境が、全体として増えているのか減っているのか
を把握するうえで参考になります。
日々のオペレーションで細かく追うというよりは、経営計画や地域連携の議論で、「観光の経済インパクト」を語る際の根拠として活用しやすい統計です。
ステップ3:観光白書の位置づけと宿泊業での読み方
観光白書は、観光庁が起草・編集し、毎年度公表する「観光の動向と政策」をまとめた年次報告書です。
構成は概ね、次のようになっています。
- 第I部:観光の動向
- 第II部:前年度に講じた施策
- 第III部:当年度に講じようとする施策
- 一部の年は第IV部や資料編を含む構成
宿泊業の立場で見ると、次のような読み方が考えられます。
- 第I部:
- 国内旅行・訪日旅行の客数や消費額の推移
- 地方部での消費動向や、インバウンドの変化
- サステナビリティ、DX、人材など、今後のキーワード
- 第II部・第III部:
- 観光行政として、どのテーマに予算や施策の重点を置いているか
- インバウンド、地域づくり、人材育成など、今後数年の方向性
特に、インバウンド政策の変更点や地方部の活性化に関する分析が、近年の観光白書でも取り上げられています。
「いま国がどの方向に舵を切っているか」を把握することで、補助金や支援策のテーマ設定、自治体・DMOとの協議の場での共通認識づくりに役立ちます。
ステップ4:宿泊業での具体的な活用シナリオ
ここからは、実務の中での具体的な使い方のイメージをいくつか挙げます。
1.需要把握と料金戦略
- 「宿泊旅行統計調査」で、自地域の延べ宿泊者数の推移を確認する
- 「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」と「インバウンド消費動向調査」で、インバウンド需要と消費傾向を見る
これらを組み合わせることで、
- 「市場全体は伸びているが、自施設の成長はそこまででもない」
- 「インバウンドは回復しているが、特定の国・地域に偏っている」
といった差分を把握し、料金戦略や販売チャネルの見直しに活かすことができます。
2.ターゲット別商品企画
- 「旅行・観光消費動向調査」で国内客の消費内訳を確認する
- 「インバウンド消費動向調査」で国・地域別の支出傾向を見る
これにより、
- ファミリー・シニア・ビジネスなど、国内ターゲットごとの消費余力や重視ポイント
- 国・地域ごとに、宿泊以外でニーズが高いサービス(食、体験、買物など)
を踏まえたプラン設計・アップセル策を検討できます。
3.自治体・DMO・金融機関との対話の材料にする
- 「共通基準による観光入込客統計」で、来訪者数の動きを把握する
- 「経済波及効果」や観光白書のデータで、観光の経済的な重要性を整理する
これにより、
- 宿泊事業者として、「地域としてどのくらい来訪者が増えているのか」「観光消費がどの程度の経済インパクトを持つのか」を数字で共有できる
- 新しいプロジェクトや投資について、自治体・DMO・金融機関と議論する際の共通言語を持てる
ようになります。
4.社内の共通認識づくりと勉強会
- 年に一度、観光白書の第I部のうち、自社に関係する部分を抜粋して共有する
- 半年に一度、「宿泊旅行統計調査」と「インバウンド消費動向調査」の最新値を確認し、気づきをディスカッションする
数字をベースに会話することで、
- 「忙しさの感覚の違い」
- 「インバウンドへの期待値の違い」
といった主観を調整し、同じ方向を向くための材料になります。
ステップ5:すべては追わず、確認頻度と優先順位を決める
観光庁の観光統計は非常に情報量が多いため、一度にすべてを追う必要はありません。宿泊業としての現実的な優先順位と確認頻度の例を挙げます。
毎月〜四半期ごとにチェックしたいもの(優先度高)
- 宿泊旅行統計調査
- 訪日外国人旅行者数
- 旅行業者取扱額(旅行会社経由販売が多い場合)
半年〜年に1回まとめて見たいもの(優先度中)
- 旅行・観光消費動向調査(消費動向の大きな変化がないか)
- インバウンド消費動向調査(国・地域別消費傾向)
- 共通基準による観光入込客統計(イベントやエリア来訪者数の動き)
年に1回じっくり読みたいもの(優先度高だが頻度は年1回)
- 観光白書(トレンドと政策の方向性を押さえる)
必要に応じて参照するもの
- 経済波及効果(地域連携や投資の議論をするとき)
- 統計の概要・公表予定日(調査設計やスケジュールを確認したいとき)
「全部ちゃんと見なくては」と構えるのではなく、「月に1回はここだけ」「年に1回はこれだけ」という程度から始めるのが現実的です。
まとめ
- 観光庁の「観光統計・白書」ページには、訪日外国人旅行者数、旅行・観光消費動向調査、宿泊旅行統計調査、インバウンド消費動向調査、観光入込客統計、経済波及効果、旅行業者取扱額など、観光政策の基礎となる統計が整理されています。
- 宿泊業にとっては、宿泊旅行統計調査とインバウンド関連統計が特に重要で、需要把握や料金戦略、商品企画の検討に直接役立ちます。
- 観光白書は、観光の動向と政策の方向性を年次で整理した資料であり、中長期の投資や地域連携を考えるうえで、必ず押さえておきたい情報源です。
- すべてを完璧に追いかけるのではなく、「毎月」「半年に1回」「年に1回」といった確認頻度と優先順位を決めることで、無理なく継続的に活用できます。
統計や白書は、一度にすべて理解しようとせず、「いま気になっているテーマ」から少しずつ見ていくだけでも、宿泊業の意思決定を支える心強い味方になってくれます。
参考資料
- 観光庁「観光統計・白書」
- 観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」
- 観光庁「旅行・観光消費動向調査」
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」
- 観光庁「インバウンド消費動向調査」
- 観光庁「共通基準による観光入込客統計」
- 観光庁「経済波及効果」
- 観光庁「旅行業者取扱額」
- 観光庁「観光白書」


