手ぶら観光の推進は、フロントで起きがちな「チェックイン前後の荷物相談」を、売上機会と顧客体験の両方に変えるテーマと言えるのではないでしょうか。大きな荷物があるだけで、訪日客は移動ルートも買い物量も控えめになります。逆に荷物が消えると、街歩きの回遊が戻り、滞在の余白が増えます。宿泊業としては、①導線、②補償と案内、③運用負荷の3点を先に設計すると、無理なく定着させやすくなります。
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本記事のポイント
- 観光庁の最新データと国土交通省の制度を根拠に、「なぜ今、宿が手ぶら観光の推進に関わるのか」を腹落ちさせます。
- 「手ぶら観光とは」から「手ぶら観光カウンター」設計まで、受付・表示・引き渡しの手順を、現場目線で整理します。
- 利用率・効果・デメリットを数字で読み、補助金も含めて小さく始めて育てる実装案に落とします。
手ぶら観光の推進は宿泊費が最大費目の時代の受入戦略

モデルケース構築に向けた実証事業 訴求調査アンケート結果”.国土交通省公式サイト.2024年12月.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf,(参照:2026年1月28日).
手ぶら観光の推進を判断するポイントは、「宿泊がインバウンド消費の中でどれだけ大きいか」と「宿が旅の起点になっているか」です。観光庁の「インバウンド消費動向調査」2025年暦年(速報)では、訪日外国人旅行消費額は9兆4,559億円、1人当たり旅行支出は22.9万円と公表されています(速報値は確報で改訂の可能性あり)。市場が拡大する局面では、宿泊施設が体験価値の入口を握りやすくなります。
ここで効いてくるのが、手ぶら観光の推進です。観光庁は、都市部偏在や一部地域・時間帯の過度な混雑、マナー課題への対応として、公共交通や公共空間の混雑・騒音の緩和、観光体験の向上に資する「手ぶら観光サービス」に着目し、課題整理や優良事例の把握を進めています。宿の現場での一手が、地域課題と顧客体験の両方に接続します。

利用したいのに使えていないギャップには宿の出番
国土交通省近畿運輸局の調査(2024年11月〜12月、5か国・計545人のWeb調査)では、手ぶら観光サービスの利用経験は18%でした。一方で「利用してみたい」は91.9%です。需要はあるのに、行動に変わり切っていない。ここに宿の介入余地があります。

モデルケース構築に向けた実証事業 訴求調査アンケート結果”.国土交通省公式サイト.2024年12月.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf,(参照:2026年1月28日).
同調査では、利用したくなる情報接点として「日本の空港に到着した直後」が高い一方、「自国で旅行先や旅行プランを検討している時」「航空券やホテル等を予約している時」も上位に来ます。ホテル予約後の案内メール、チェックイン前の自動返信、館内の多言語サインなど、宿は決める瞬間に近い場所に立っています。

モデルケース構築に向けた実証事業 訴求調査アンケート結果”.国土交通省公式サイト.2024年12月.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf,(参照:2026年1月28日).
まずは「身軽さ=安心」を言語化、しっかりと伝える
荷物を預けた瞬間、肩の力が抜けるお客さまがいます。ここで大切なのは感覚ではなく、案内の粒度です。次の3点が即答できれば、現場は迷いにくくなります。
- いつ届くか(当日/翌日、締切時刻)
- 料金はいくらか(追加料金の条件)
- トラブル時の補償はどうなるか(窓口と範囲)
この3点は、後述する国土交通省のロゴマーク認定でも重視される要素です。
手ぶら観光カウンターを宿に組み込む設計図
ポイントは自館が預け先になるのか、受け取り先になるのかを先に決めることです。国土交通省(国交省)が示す手ぶら観光とは、訪日外国人旅行者等が観光・移動時に大きな荷物を持ち運ぶ不便を減らすため、宅配サービスを活用し、空港・駅・商業施設等の受付カウンターで一時預かりや配送を行うサービスです。配送先にはホテルも含まれます。
国土交通省の共通ロゴマークは「見つけやすさ」を揃える仕掛け

国土交通省は、共通ロゴマークを公共交通機関・店舗・施設の受付カウンターへ掲示することで、外国人対応の手ぶら観光カウンターとしての識別性を高めるとしています。ロゴ使用カウンターのリストを、日本政府観光局(JNTO)のサイトで発信する枠組みも示されています。宿がロゴ掲出に対応すると「探されやすい宿」になります。
ロゴ認定を目指すなら、準備物は英語の見える化から
共通ロゴマーク認定に向けた資料では、提出資料として、申請書に加え「手ぶら観光カウンター一覧」「訪日外国人旅行者に提示する料金体系の一覧(英語)」「補償内容の掲示方法が分かる資料(掲示物は英語)」などが挙げられています。先に英語表示を整えると、現場の説明コストも下がります。
参考:国土交通省「「手ぶら観光」とは」
3つのメニューで始める現場の対応
宿泊施設が最初に用意しやすいのは、次の3メニューです。フロントの負荷とスペースに合わせて選びましょう。
- チェックイン前後の一時預かり(館内保管)
- 宿→空港・次の宿への発送(キャリア連携)
- 駅・空港→宿で受け取り(受取窓口対応)
導入時は、(1)だけで走り出しても構いません。手ぶら観光カウンターとして外部連携まで広げるなら、(2)(3)へ段階的に増やす設計が安全です。国土交通省のQ&Aでも、一時預かりと配送はどちらか一方でもよいとされています。
ヤマト運輸・佐川急便などと連携する運用モデル|フロントが止まらない作り方
手ぶら観光は観光客にとっては便利な反面、運用を誤ると説明コストやトラブルが発生します。また、ピーク時間にフロントを詰まらせないといった点も重要です。ここでは、宿が組みやすい代表的な連携の考え方を、実務の順番をお伝えします。
1)宿が受け取り窓口になる場合:受領と保管が命綱
空港や駅から当日配送があると、宿で受け取れるかが重要になります。たとえばヤマト運輸は、羽田空港から東京都内などの対象ホテルへ当日配送する案内を出しており、対象は受取窓口がある宿泊施設と明記されています。受け取り対応の有無が、サービス可否の境目になります。
対応する順番(現場SOPの骨格)
- 受領担当と受領可能時間を固定する(ピーク帯は代替者も決める)
- 受領時に「宿泊者名/到着日/個数」を照合する(不一致時の保留ルールも)
- 保管場所のゾーニングを決める(当日着・翌日着・要確認で区分)
- 受け渡し時の本人確認フローを作る(予約情報と紐付け)
この4つは、忙しい日の取り違え事故を防ぐ最低ラインです。保管場所はバックヤードの一角でも構いませんが、湿気・汚れ・第三者の動線を避け、鍵や入退室管理のルールを置くと安心です。
2)「宿から空港へ送る」導線:チェックアウト後の回遊を伸ばす
東京では、佐川急便が「SAGAWA手ぶらサービス」として、東京駅(日本橋口)や新宿、浅草雷門、商業施設内のカウンターなどから空港へ送る拠点を案内しています。宿が全てを抱えず、街中の手ぶら観光カウンターへ“つなぐ”のも有効です。
参考:佐川急便「空港に送る」
対応する順番(宿の役割を軽くする方法)
- チェックアウト時に「空港へ送る/駅で預ける」選択肢を一言で提示
- お客さまの動線(東京駅・浅草など)に近いカウンター候補を提示
- 当日配送の締切があることだけ伝える(詳細は公式情報で確認を促す)
傘をホテルに置いて出かけると歩きやすいのと同じで、荷物がないだけで観光は快適に。宿が案内を担うだけでも、滞在価値が高まります。
3)「手続きが複雑」を潰す:案内文は短く、掲示は太く
近畿運輸局調査では、懸念点として「手続きが複雑」41.8%、「多言語対応サポート不足」35.4%が挙がっています。ここはフロントの工夫で削れます。

モデルケース構築に向けた実証事業 訴求調査アンケート結果”.国土交通省公式サイト.2024年12月.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf,(参照:2026年1月28日).
現場で有効な短く伝えるコツ
- 口頭は30秒で言い切れる文章にする(料金・到着目安・補償の3点だけ)
- 館内掲示は、英語で「料金」「到着目安」「補償・問い合わせ先」を太字で並べる
- 例外は別紙に逃がす(危険物、現金、精密機器などは配送会社の規定に従う旨)
国土交通省のロゴマーク申請でも、料金体系や補償内容の掲示が求められています。ここを先に整えると、従業員の説明コストと教育コストが下がります。
手ぶら観光の推進をKPIで回す|効果・利用率・デメリット対策、補助金の使いどころ
ポイントは「導入したか」ではなく「現場負荷を増やさずに、体験価値が上がったか」です。
効果は3つに分けると測りやすい
近畿運輸局調査では、手ぶら観光の魅力として「身体的負荷の軽減」70.3%、「観光地で買い物しやすくなる」62.9%、「電車などの移動がスムーズになる」62.0%が上位でした。

モデルケース構築に向けた実証事業 訴求調査アンケート結果”.国土交通省公式サイト.2024年12月.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf,(参照:2026年1月28日).
宿のKPIに落とすなら、次の3系統がおすすめです。
- 移動ストレスの低減:チェックイン前後のクレーム件数、フロント滞留時間
- 買い物・回遊の後押し:館内売店の客単価、提携店のクーポン利用など(連携できる範囲で)
- 満足度:口コミ内の「luggage」「baggage」関連ワードのポジティブ比率
手ぶら観光の効果測定は抽象論で終わらせないことが大切です。数字を置くことで定量的な評価が可能になります。
利用率は宿の案内力で上げられる
利用経験18%に対し、利用意向が91.9%という差は、情報接点の設計で詰められます。予約確認メール、チェックイン前の自動応答、館内QRの掲示など、入口が増えるほど利用は増えます。ここは人事・企画の役割が大きい領域です。
価格感も押さえておくと、案内の言葉選びが安定します。荷物配送の配送料について「高い」と感じる平均が3,478円(中央値3,000円)、「安い」と感じる平均が1,574円(中央値1,000円)という結果が示されています。

モデルケース構築に向けた実証事業 訴求調査アンケート結果”.国土交通省公式サイト.2024年12月.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf,(参照:2026年1月28日).
宿が独自に価格を断定する必要はありませんが、説明時の心理的な節目として知っておくと便利です。
デメリットは「紛失・遅れ・補償」で先回りできる
手ぶら観光 デメリットとして現実的なのは、紛失や破損、到着遅れ、補償範囲への不安です。調査でも「荷物の紛失や破損」58.4%、「到着遅れ」56.7%、「補償範囲」49.9%が上位でした。宿ができる対策は、仕組みと説明を分けることです。

モデルケース構築に向けた実証事業 訴求調査アンケート結果”.国土交通省公式サイト.2024年12月.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf,(参照:2026年1月28日).
やる順番(事故を減らすチェックポイント)
- 受領時の照合ルールを固定(名前・日付・個数)
- 保管場所の区分と鍵管理を徹底
- 例外品は受けない判断基準を持つ(配送会社の規定に従う旨を掲示)
- トラブル時の連絡先を、紙でも残す(言語も含む)
「遅れが起きたらどうするか」を先に決めておくと、現場は落ち着きます。
手ぶら観光補助金は“設備と表示”に寄せると通りやすい
手ぶら観光補助金を考えるなら、国土交通省のページに「手ぶら観光補助事業」として、手ぶら観光カウンターの機能向上に対する補助が示されています。対象はロゴマーク掲出の認定を受けた(または見込みのある)民間事業者等とされ、支援の方向性が整理されています。
参考:国土交通省「手ぶら観光の推進」
観光庁も「インバウンド受入環境整備高度化事業」の公募情報の中で、手ぶら観光カウンターの機能向上に関する様式等を掲載し、周遊促進や消費拡大、地方誘客のための環境整備を支援するとしています。補助要件や期間、対象経費は年度・公募回で変わるため、申請時は必ず最新の公募要領・交付要綱で確認してください。
参考:観光庁「「インバウンド受入環境整備高度化事業」の三次公募を開始します」
自治体の動きも追い風です。京都市は2026年1月に、京都駅でスマートロッカーを活用した「pikuraku PORTER」の実証実験を開始し、当日夕方までに宿泊先ホテルへ配送できると紹介しています。こうした「手ぶら観光 京都」の施策は、宿側の受取体制が整うほど効果が出ます。
手ぶら観光は東京でも、空港・駅・街中の拠点が増えています。宿がすべてを抱えず、外部の手ぶら観光カウンターへ導線をつなぐだけでも、体験価値は上がります。
まとめ
- 手ぶら観光とは、空港・駅・商業施設等の受付で一時預かりや配送を行い、手ぶらで観光できる環境をつくる仕組みです。
- 手ぶら観光の推進は、利用意向91.9%に対し利用経験18%というギャップを埋める余地があり、宿の案内設計が効果的です。
- デメリット(紛失・遅れ・補償)をSOPと掲示で先回りし、フロント渋滞を起こさない導線から始めるのが現実的です。
- 補助金は要件が変わるため最新確認が前提ですが、手ぶら観光の推進に資する機能向上が支援対象として示されています。

参考資料
- 国土交通省/手ぶら観光の推進
- 国土交通省/「手ぶら観光」とは(共通ロゴマーク認定・制度概要)
- 国土交通省/「手ぶら観光」共通ロゴマーク申請Q&A
- 国土交通省 近畿運輸局/訴求調査アンケート結果(関西の「手ぶら観光」推進にかかる旅行者ニーズ把握等)
- 観光庁/インバウンド消費動向調査2025年暦年(速報)及び10-12月期(1次速報)の結果について
- 観光庁/2025年暦年の調査結果(速報)の概要(インバウンド消費動向調査)
- 観光庁/「インバウンド受入環境整備高度化事業」の公募情報(2025年9月16日更新)
- 観光庁/手ぶら観光サービスの普及・浸透に向けた官民勉強会(2026年1月23日更新)
- 京都市/京都駅での手荷物配送サービス実証実験(pikuraku PORTER、2026年1月14日)
- ヤマト運輸/羽田空港発着当日便
- 佐川急便/空港へ送る|SAGAWA手ぶらサービス


