宿泊業界の課題と対策
活用ヒント

ホテルの離職率改善4選!定着率アップに成功した具体策とその成果とは?

ホテルの離職率改善4選!定着率アップに成功した具体策とその成果とは?
CoCoRo編集部

日本のホテル業界では、長時間労働や休暇取得の困難さ、低賃金などから離職率の高さが課題となっています。実際、厚生労働省の令和5年雇用動向調査によれば、2023年の「宿泊業・飲食サービス業」の離職率は26.6%と全産業中2番目に高い水準でした。しかし、各ホテル企業が働き方改革や人事制度の見直しによって離職率改善に成功した事例もあります。ここでは、公的資料やホテル公式発表にもとづき、離職率低下につながった具体策と成果を紹介します。各事例ごとに数値で示された改善成果、具体的な施策の内容、ターゲットとした従業員層、導入時期や背景、実施企業名等をお伝えします。

令和5年 雇用動向調査結果の概要「産業別の入職と離職」表4-2 産業、就業形態別入職率・離職率・入職超過率(令和5年(2023))
出典:厚生労働省.“令和5年 雇用動向調査結果の概要「産業別の入職と離職」”.厚生労働省公式サイト.2024年8月.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf,(参照:2025年7月8日).

ホテル末広(愛知県)– 週休3日制で若手の定着率が向上

愛知県蒲郡市の旅館「ホテル末広」は、365日営業による従業員の疲弊と人手不足に直面し、思い切った働き方改革に踏み切りました。需要の少ない火~木曜日に週3日の休館日を設定し、年間150日以上の休日を確保。この週休3日制導入にあたっては、売上減少への懸念を払拭するため詳細な収支シミュレーションを行い、営業日数減に合わせて宿泊単価の見直しも実施しています。併せて、業務の棚卸しと組織再編を行い、フロント・接客部門と調理・施設管理部門をそれぞれ統合してマルチタスク制を導入しました。従来は分業されていた業務を一人の従業員が柔軟に複数担う体制とし、各部門に2名ずつリーダー職を新設して適切な人員配置とフォローを指揮する仕組みも整えています。こうした大改革に際しては、総支配人が従業員一人ひとりと面談を重ね、働き方・仕事内容がどう変わるか具体的に説明して不安を解消し、ベテラン社員にも継続意向を確認するなど丁寧な合意形成に努めました。

この施策の成果として、ホテル末広は「休日が多い職場」として地域で認知されるようになり、とくにライフイベントの多い20~30代の応募が増加しました。実際、2023年の採用では募集5名に対し想定を上回る応募が集まる好況でした。また職場環境の改善により若手従業員の定着率も向上し、現在では従業員の約7割を20~30代の若手が占めています。従業員数の少ない中でリーダー配置やマルチタスク運用が功を奏し、業務効率化と休みやすい体制づくりに成功したことで、結果的に離職の抑制につながったといえます。

ポイント

ホテル末広では週3日の休館日設定と業務・組織改革により年間150日以上の休暇を実現。若手社員の採用・定着が進み、若手比率が約70%に増加するなど離職率の大幅改善を果たしました。休館日に伴う売上減は価格戦略で補填し、少人数運営をリーダー配置で補うことで、働きやすさと経営の両立を実現しています。

参考:厚生労働省「地域で活躍する中小企業の採用と定着 成功事例集

欽山(兵庫県神戸市北区)– 高付加価値改装により宿泊単価と稼働率を大幅改善、働き方改革にも貢献

兵庫県有馬温泉の高級旅館「欽山」では、スタッフの人手不足に悩まされる中、露天風呂付き和洋室などの新客室を含む客室統合による高付加価値化改修を実施しました。客室数を絞ることで清掃負荷や人手を抑えながら、料理や館内設備も含めたハード・ソフト両面での品質向上を図り、顧客単価を約83.8%向上させることに成功。稼働率や顧客満足度も改善し、休館日設定による計画的な休暇取得など職場環境の改善にもつなげています。

スタッフ数の増加や離職率改善といった定量的データは公開されていないものの、このような取り組みにより、人手不足の緩和が実現離職率の減少にも成功したことが明記されており、客室減少+単価向上効果で休館日を増やし、従業員の離職を防止につなげることができたと言えるでしょう。

ポイント

客室数削減と単価向上を同時に実現することで、稼働率向上・売上増加とスタッフ負荷軽減の両立を実現。収益に余裕が生まれたことで休館日確保や柔軟な勤務体系にも対応可能となり、人材不足の緩和にも貢献しています。

参考:観光庁「宿泊施設の高付加価値化改修による客室単価向上事例集

グリーンズ(全国チェーン)– 勤務地選択制度で離職率を2ポイント改善

「コンフォートホテル」など宿泊特化型ホテルを全国展開する株式会社グリーンズは、転勤を伴う全国展開企業ならではの課題として社員の勤務地ミスマッチによる離職に注目しました。そこで2020年10月、新人事制度『社員がChoiceできる人事制度』を導入し、社員自身が希望する勤務エリアを選択可能にする改革を行いました。全国転勤型から地域限定勤務まで5段階の「旅になぞらえた」区分を用意し、例えば「ローカルトリップ(転居なし勤務)」から「グローバルジャーニー(全国どこでも可)」までライフスタイルに応じて選べるようにしたのです。この制度により、地元志向の社員は転居不安なく働け、遠方勤務を厭わない社員には全国で活躍するチャンスを与えることができるようになりました。

制度導入から1年後の成果として、離職率が前年の16.34%から14.27%へと約2ポイント低下しました。また内定辞退者数が73%減少し、求人応募者数は1.75倍に増加するなど、人材確保面で大きな効果が表れています。新制度によって社員の納得感が高まり、「自分で選んだ範囲内で働ける」安心感が定着率向上に寄与したと分析されています。さらにグリーンズでは以前から年2回の7連休取得制度(リフレッシュ休暇)や有給が取りやすいシフト工夫など働きやすい環境づくりに努めており、こうした総合的な人事施策が功を奏して社員定着率が着実に改善しています。

ポイント

全国チェーンのグリーンズでは社員が希望勤務地を選べる制度を導入し、離職率を16.3%から14.3%へ低減。加えて内定辞退の大幅減(-73%)や応募者増(+75%)も実現し、人材確保・定着に効果を発揮しました。勤務地の自己選択権付与という人事制度改革が、転勤不安の解消と社員のモチベーション向上につながった好事例です。

参考:PR TIMES「『社員がChoiceできる人事制度』で離職率2%減少~ライフスタイルに合わせた勤務地を選べる新人事制度導入から1年~

ホテルランタナ那覇国際通り(沖縄県)– 外国人スタッフ7割でも定着率安定、1on1面談とキャリア支援

沖縄県那覇市のホテルランタナ那覇国際通りでは、従業員の約7割を外国人スタッフが占めています。そのような多国籍環境ながら定着率は安定しており、アットホームな職場雰囲気を醸成できている点が印象的だと評価されています。開業は2019年で、当初より外国人材の積極登用によって人手不足に対応してきました。しかし在籍スタッフの中でモチベーションに差が見られるようになり、「なぜ意欲にばらつきが出るのか」を課題に感じ始めたことから、労働局の支援を受けて従業員の意識把握と育成施策の強化に取り組みました。

具体的な施策として、「夢ノート」活用による定期的な1on1ミーティングを導入しました。各外国人スタッフに将来の夢や10年後のキャリアプランまで自由に書いてもらい、それをもとに上司と1対1で面談することで、一人ひとりの想いや不安を丁寧に聞き出しています。この取り組みによりスタッフのモチベーション向上や仕事観の変化が確認され、日本語検定にチャレンジして合格する者が出たり、「10年後に永住権を取得してこのまま沖縄で働き続けたい」という長期定着の意欲を示す声も多く聞かれるようになりました。企業側も個々の成長度合いやスキルアップ状況を把握でき、今後の人材戦略の道筋を描く手がかりを得ています。

また、メンター制度の整備にも着手しています。現在は観光業を専門に学び在日年数の長い先輩スタッフが中心となって公私にわたり後輩外国人を支援するなど自主的なメンタリング文化がありますが、今後は選抜した経験スタッフを正式にメンター育成し、次世代のリーダー候補も育てながら組織的にノウハウ継承する仕組みを作る計画です。さらに厚労省が提示する宿泊業向けキャリアマップを活用し、評価基準の見える化と昇進・賃金制度の連動を図る新人事制度を2025年度導入目標で準備中とのこと。これらにより、国籍に関係なく公平にキャリア形成できる職場を目指しています。

取り組みの成果として、同ホテルでは外国人スタッフが「安心して楽しく働ける」職場作りに成功しつつあり、離職率も大きく乱高下することなく安定推移しています。何より従業員本人たちが将来ビジョンを描き、「この職場で成長したい・貢献したい」と前向きに考え始めたことが最大の収穫です。これは企業にとって長期戦力の確保につながり、人手不足解消とサービス品質向上の両面で大きなメリットとなるでしょう。

ポイント

従業員の7割が外国籍というホテルランタナ那覇国際通りでは、定期的な1on1面談やメンター制度による丁寧な人材育成によって安定した定着率を維持しています。外国人スタッフから「将来もこのホテルで長く働きたい」との声が上がるなど、高いモチベーションで長期勤務を目指す姿勢が醸成されています。評価・キャリアパスの見える化と合わせて、外国人材が安心して成長できる環境づくりが離職防止に直結した事例です。

参考:厚生労働省沖縄労働局「沖縄早期離職者定着支援事業好事例集(ホテル・宿泊業)

成功事例から読み解くホテル業界における離職率改善の鍵

各社とも、従業員のニーズに即した施策(休日・勤務体制の改善、評価制度の公平化、待遇向上、キャリア支援など)を導入し、定着率向上という成果につなげています。ポイントは以下の通りです。

労働環境・待遇の抜本的改善

休日数の大幅増加(週休3日制など)や賃金アップによって働きやすさを向上させ、離職を抑制した例があります。特にホテル末広やEntôでは思い切った休館日設定や給与引き上げを実現し、人材流出に歯止めをかけました。

柔軟な人事制度

グリーンズのように社員が自分の働き方を選べる制度(勤務地選択制)や、ランタナ那覇のように多様性を考慮したキャリア支援策は、従業員の納得感とモチベーションを高め、結果的に定着率改善につながっています。

コミュニケーション活性化・評価の見える化

定期的な1on1面談やメンター制度の導入により、従業員の声を経営に活かし成長を支援することで「この会社で働き続けたい」という思いを引き出した例もあります。評価基準の明確化や表彰制度の活用も従業員の安心感・やりがい創出に有効とされ、多国籍スタッフの定着にも効果を発揮しています。

以上の事例から、ホテル業界における離職率改善の鍵は「働きがい」と「働きやすさ」の両立にあると言えます。業務効率や収益構造を見直しつつ、従業員一人ひとりのキャリアや生活に向き合った施策を講じることで、スタッフが長く定着し、結果としてサービス品質や採用力も向上する好循環が生まれています。今回紹介した取り組みは、自社の状況に応じて離職率改善策を検討する上で有益なヒントとなるでしょう。

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