「せっかく良い事例集やマニュアルがあっても、存在を知らないままになっている。」
観光に関わる現場では、そんなもったいない状況が起きがちです。
観光庁の「事例集・支援ツール」ページには、地域づくりの成功事例から、宿泊事業者向けの経営改善ハンドブック、インバウンド対応の教材や観光危機管理のマニュアルまで、さまざまな資料が整理されています。
この記事では、観光庁の「事例集・支援ツール」ページの情報を宿泊業の目線で整理し、現場や本社でどのように活用できるかをまとめます。

ステップ1:観光庁「事例集・支援ツール」ページの全体像
観光庁の「事例集・支援ツール」ページは、大きく分けて次の二つのブロックで構成されています。
どちらも「観光地域づくりに役立つ先進優良事例」と「観光関係者向けの実務ツール」が中心で、宿泊業もその一部を担うプレーヤーとして想定されています。
以降では、宿泊業にとっての使いやすさを意識して、それぞれの中身を整理していきます。
ステップ2:優良・先行事例集で分かること
地域単位の観光づくりを学べる事例集
まず、「優良・先行事例集」には、観光地域づくりや観光資源の磨き上げに関する事例が並んでいます。
代表的なものは次のとおりです。
これらは、ある特定の宿泊施設だけの話ではなく、地域全体で「何を強みにして、どう連携し、どのように観光客の体験価値を高めているか」といった視点で整理されています。
宿泊業として読むときは、次のようなポイントに注目すると理解しやすくなります。
- 宿泊施設が地域内でどのような役割を担っているか
- 地元事業者同士の連携の仕組み
- 観光コンテンツと宿泊商品をどう組み合わせているか
ライフスタイル・長期滞在に関するナレッジ集
近年のテーマとして、「関係人口」「長期滞在」「新しい働き方」に関するナレッジ集もまとまっています。
企業ワーケーションやデジタルノマドの受け入れを検討している宿泊施設にとっては、
- どのようなターゲット企業・個人を想定しているか
- ワークスペースやWi-Fi環境など、どの程度の水準が求められているか
- 地域側がどのように受け入れ体制を整えているか
といった点を、実証事業の事例を通じて把握できる資料群になっています。
サステナビリティ・女性活躍・危機管理の事例
サステナビリティやダイバーシティ・危機管理といった、近年重要性が増しているテーマについても、事例集が整理されています。
宿泊施設単体でも取り組める要素はありますが、多くは「地域全体の方針づくり」と関係が深い内容です。とはいえ、次のような場面での参考になります。
- サステナビリティ認証や環境配慮策を検討するときの事例収集
- 女性管理職比率の向上や働き方改革の社内議論の材料
- 災害時・感染症時の宿泊施設としての対応方針を検討する際のたたき台
ステップ3:支援ツールの中で宿泊業が押さえたいもの
「支援ツール」のブロックには、日々の業務にすぐに役立つ資料が多く含まれています。
特に宿泊業が押さえておきたいのは、次の三つのグループです。
1.宿泊事業者の経営改善に役立つツール
宿泊業向けに特化したページとして、「宿泊事業者の経営改善に役立つツール」が用意されています。
ここには例えば、次のような資料や動画がまとまっています。
- 生産性向上のためのハンドブック(現状把握チェックシート、優先度確認表、アクションプランなど)
- 宿泊事業者の経営改善に関するセミナー動画
- 旅館業務の効率化冊子、業務細分化シート
- SNS活用、持続可能な観光の取組事例集、インバウンド受入ポイント集 など
特徴として、
- 宿泊事業者の生産性・収益力向上にフォーカスしている
- 自施設の現状把握から、改善の優先順位付け、具体的なアクションプランまで一連の流れが想定されている
といった点が挙げられます。
「何から手を付ければよいか分からない」というときに、社内プロジェクトの起点として活用しやすい構成になっています。
2.観光地域づくりに対する支援メニュー集
支援ツールの中には、「観光地域づくりに対する支援メニュー集」も含まれています。
これは、観光地域づくりに取り組む関係者が活用できる、複数府省庁の支援施策を一覧的に整理した資料です。
宿泊事業者として見ると、
- 自施設単独ではなく、地域のプロジェクトとして活用できる支援がどれくらいあるか
- 自治体やDMOに「こういうメニューがあるので、一緒に取り組めないか」と相談する際の材料
として役立ちます。
3.インバウンド・ICT・危機管理関連のツール
支援ツールの一覧には、インバウンドやICT、危機管理に関するツールも含まれています。
例えば、
といったメニューが並んでいます。
これらは、次のような場面でのヒントになります。
- インバウンド対応を強化したいが、どこから改善すべきか検討している
- 宿泊現場でのICTツール導入(翻訳アプリ、予約・決済環境など)を検討している
- 災害時・緊急時のインバウンド対応マニュアルを整えたい
ステップ4:宿泊業での具体的な使い方の例
観光庁の「事例集・支援ツール」は、ボリュームが大きいため、「どう使うか」がイメージしづらいかもしれません。宿泊業での活用例をいくつか挙げます。
1.経営会議や企画会議のインプット資料として
- 生産性向上ハンドブックや宿泊施設向け事例集を、経営会議や企画会議の事前資料として共有する
- 年2〜4回の「戦略会議」の前に、サステナブル観光や女性活躍、デジタルノマド関連の事例集をピックアップして読み合わせる
「他地域の先進事例」や「国が示す方向性」を踏まえたうえで議論できるので、感覚論だけに寄らず、方向性をすり合わせやすくなります。
2.社内勉強会・スタッフ研修の教材として
- フロントスタッフ向けに、インバウンド受入ポイント集や多言語解説の事例を紹介する
- 若手リーダー向けに、観光地域づくり事例集やワーケーションナレッジ集を題材にした勉強会を行う
「国の資料」と聞くと堅く感じますが、実際には具体的な事例やイラスト付きの冊子も多く、研修教材として活用しやすい内容になっています。
3.地域連携や補助金活用の事前準備として
- 観光地域づくり事例集や支援メニュー集を読んだうえで、自治体・DMOとの打ち合わせに臨む
- 「こういう事例が他地域にある」「こういう支援メニューがある」という前提を共有しておく
これにより、「何となく良さそうだから」ではなく、「この事例に近い取り組みを、どの支援メニューで実現できるか」といった具体的な議論をしやすくなります。
ステップ5:すべては追わず、優先順位を付けて触れていく
観光庁の「事例集・支援ツール」は非常に情報量が多いため、一度にすべてを読み切る必要はありません。宿泊業としての現実的な優先順位は、次のように考えられます。
まず押さえておきたいもの(優先度高)
- 宿泊事業者の経営改善に役立つツール
- 生産性向上ハンドブック、チェックシート、ウェビナー資料 など
- 観光地域づくりに対する支援メニュー集
- インバウンド対応、ICT活用、災害時対応に関する支援ツール
次のステップとして触れたいもの(優先度中)
- 観光地域づくり事例集、歴史的資源の活用、観光資源磨き上げに関する事例集
- ワーケーション・ブレジャー、デジタルノマド、第二のふるさとづくりなど、新しい滞在スタイルに関するナレッジ集
余裕があるときに参照するもの(優先度低〜テーマ別)
- サステナブルな観光、持続可能な観光の先進事例集
- 観光分野の女性活躍事例集
- 観光危機管理計画や危機対応マニュアルの事例・手引き
社内の体制や課題によって優先順位は変わりますが、「宿泊施設の経営改善」と「地域全体での方向性」をつなぐ資料から触れていくと、実務に落とし込みやすくなります。
まとめ
- 観光庁「事例集・支援ツール」ページは、「優良・先行事例集」と「支援ツール」の二つのブロックで構成され、観光地域づくりや観光関係者の取組を支える資料が整理されています。
- 宿泊業にとっては、「宿泊事業者の経営改善に役立つツール」が最も直接的で、そのほかに支援メニュー集やインバウンド・ICT・危機管理関連のツールが実務で役立ちます。
- 地域単位の事例集やワーケーション・デジタルノマドなどのナレッジ集は、「地域でどう連携し、どんな滞在スタイルをつくるか」を考えるうえでのヒントになります。
- 経営会議や社内研修、自治体・DMOとの打ち合わせの前に、関連する資料を一つずつ読み込むだけでも、議論の質と具体性を高めることができます。
- すべてを一度に追いかける必要はなく、自社の課題やタイミングに合わせて、「まずどの資料から活用するか」を決めていくことが現実的な使い方と言えます。
参考資料
- 観光庁「事例集・支援ツール」
- 観光庁「観光地域づくり事例集」
- 観光庁「観光地域づくりのための支援メニュー集」
- 観光庁「宿泊事業者の経営改善に役立つツール」
- 観光庁「観光のICT化の推進」


