エッセイ

おもてなしの国なのに、なぜ日本の飲食店では客が店員を呼ぶ?呼び出しボタンへの海外の反応

日本の飲食店にある「店員を呼ぶボタン」はなぜ海外で絶賛されるのでしょうか。呼び出しボタンの名前と歴史、海外のテーブル担当制やチップ文化との違いから、日本独自の接客を解説します。
CoCoRo編集部

日本は「おもてなしの国」といわれます。相手が口にする前に必要なものを察し、先回りして用意する。そんな接客を期待して日本を訪れた外国人は、飲食店で少し不思議なものに出会います。

テーブルに置かれた「店員を呼ぶボタン」です。おもてなしの国なのに、なぜ客のほうから店員を呼ばなければならないのでしょうか。

呼び出しボタンは、サービスを省くための道具ではありません。食事や会話には立ち入りすぎず、客が必要とした瞬間にはすぐ応える。「放っておいてほしい。でも、必要なときにはすぐ来てほしい」という二つの願いを両立させる、日本の接客の仕組みです。

この記事の目次
  1. 日本の飲食店では、なぜ客が店員を呼ぶのか
  2. 日本の呼び出しボタンに対する海外の反応
  3. 海外のレストランに多いテーブル担当制とは
  4. 日本の飲食店にテーブル担当者が見えにくい理由
  5. 日本の接客と海外のテーブル担当制を比較
  6. 飲食店で店員を呼ぶボタンの名前は何?
  7. 日本初の店員呼び出しシステム「ベルスター」は1983年に誕生した
  8. 日本で最初に呼び出しボタンを導入した店はどこ?
  9. 呼び出しボタンはなぜ日本の飲食店に普及したのか
  10. 海外ではなぜ店員を大声で呼ばないのか
  11. 呼び出しボタンを廃止した飲食店もある
  12. 「放っておいてほしい。でも、すぐ来てほしい」を両立する呼び出しボタン
  13. よくある質問

日本の飲食店では、なぜ客が店員を呼ぶのか

日本のファミリーレストランや居酒屋では、一つのテーブルを一人の店員が最後まで担当するとは限りません。注文を受ける人、料理を運ぶ人、食器を下げる人が別々になることも普通です。

客が追加注文をしたいときは、特定の担当者を探さず、呼び出しボタンを押すか、近くの店員へ「すみません」と声をかけます。そのとき対応できるスタッフが用件を聞く仕組みです。

「呼ばれるまで来ない」はサービス不足ではない

外国人旅行者の中には、店員が定期的にテーブルへ来ないことを「放置されている」と感じる人もいます。しかし、日本のカジュアルな飲食店では、用事があるかを確かめるためだけに何度も会話へ割って入ることは多くありません。

客席を見ながらも、食事と会話の時間には立ち入りすぎない。呼び出しボタンがあれば、店員が頻繁に確認しなくても、客が必要とした瞬間を見落とさずに済みます。

客が合図すると、対応できるスタッフが来る

ボタンを押して呼ぶ相手は「自分の担当者」ではなく、ホールスタッフ全体です。客が誰に頼むべきかを考えなくても、対応できるスタッフがテーブルへ来ます。

こうした、相手との距離や状況を読む日本人の感覚については、日本人の気遣い文化とは|おもてなしと「察する」精神を解説でも紹介しています。

日本の呼び出しボタンに対する海外の反応

海外のSNSや掲示板では、日本の飲食店で呼び出しボタンを使った旅行者から、次のような趣旨の反応が繰り返し見られます。

  • すべてのレストランに導入してほしい
  • 店員と目を合わせるまで待たなくてよい
  • 手を挙げ続けたり、大声で呼んだりしなくてよい
  • 必要になるまで放っておいてもらえる
  • 水や追加注文が必要なときにはすぐ呼べる
  • 誰が自分の担当者なのか覚えなくてよい

店員を呼んでも失礼にならない

外国人旅行者が感動する理由は、ボタンを押すと店員が来るという機能だけではありません。

国や店によっては、指を鳴らして店員を呼ぶことはもちろん、大声を出したり、何度も手を挙げたりすることも失礼に見える場合があります。担当サーバー以外の人へ頼むのも気まずく、店員がこちらを見るまで待ち続けることもあります。

その点、日本の呼び出しボタンは、店側が用意した正式な連絡手段です。客は「今呼んだら失礼ではないか」と悩む必要がありません。

日本の呼び出しボタンが優れているのは、店員を呼べることだけではありません。「店員を呼んでも失礼ではない」という許可が、最初からテーブルの上に置かれていることです。

接客を評価してチップ額を考えなくてよい

テーブル担当制とチップ文化が結び付いた店では、客は食事をしながら担当者のサービスも見ています。よく気付いてくれたか、料理の説明は丁寧だったか、待たされなかったか。最後には、その評価をチップ額へ反映します。

日本では、呼び出しボタンを押すと対応できるスタッフが来ます。担当者との関係を意識する必要がなく、会計時には基本的に表示された金額を支払えば終わりです。

外国人旅行者が感じる気楽さは、チップを節約できるという話だけではありません。店員を評価して金額を決める役割から離れ、ただ食事を楽しめることにもあります。日本でチップを支払わなくてよい理由は、日本にチップ文化はある?海外と異なる「おもてなし」の国の考え方とはで詳しく解説しています。

海外のレストランに多いテーブル担当制とは

北米を中心とするフルサービスレストランでは、客が席に着くと、そのテーブルを受け持つサーバーが決まります。

担当者はメニューを説明し、注文を取り、料理の感想を確認し、飲み物を補充し、最後に会計を処理します。客にとっては、相談相手が明確で、食事の好みや注文内容を一人の担当者が理解してくれる安心感があります。

一方で、追加注文をしたくても担当者が別のテーブルにいると、戻ってくるまで待たなければならないことがあります。近くに別のスタッフがいても、「自分の担当ではない」と引き継がれる場合があります。

店員が何度も「Everything okay?」と確認するのも、単なる会話好きだからではありません。担当する客の満足度を確かめ、必要なものを先回りして提供することが、その店におけるよいサービスだからです。

日本の飲食店にテーブル担当者が見えにくい理由

日本のカジュアルな飲食店では、ホールスタッフ全体で客席を動かす形がよく見られます。

注文を受けた店員が必ず料理を運ぶわけではなく、最初に案内した店員が会計まで担当するわけでもありません。役割を分担し、そのとき動ける人が対応します。

ボタンは特定の店員ではなく、店全体を呼んでいる

呼び出しボタンを押すと、テーブルの上で鳴った音を近くの店員が聞きつけて来るように見えるかもしれません。

実際には、多くのシステムでテーブル上のボタンは無線の送信機です。押されたテーブル番号が、天井近くや店員から見える位置にある受信表示器へ送られます。店員は音の方向を探すのではなく、表示された番号を見て席へ向かいます。

日本人には見慣れた仕組みですが、その意味を考えると興味深いものです。客は一人の担当者を呼んでいるのではなく、対応できるスタッフ全体へ「このテーブルに用事があります」と知らせています。

日本の接客と海外のテーブル担当制を比較

同じ「丁寧な接客」でも、店員と客のどちらが接客を始めるかによって、食事中の体験は大きく変わります。

比較する点日本の飲食店で多い接客海外のテーブル担当制
客席の担当ホールスタッフ全体テーブルごとに決まった担当者
接客を始める人必要になった客が合図する担当者が定期的に訪れる
店員の呼び方ボタン、声かけ、手を挙げる担当者を待つか目で合図する
追加注文対応できるスタッフへ頼む基本的に担当者へ頼む
食事中の確認必要がなければ頻繁に話しかけない料理や飲み物の状態を確認する
会計伝票をレジへ持っていく店が多い担当者へ頼み、テーブルで支払う店も多い
チップ原則として必要ない接客に応じて客が金額を決める
長所会話を邪魔されにくく、誰にでも頼める一人の担当者へ継続して相談できる
困りやすい点呼び方を知らないと放置されたように感じる担当者が忙しいと注文しにくい

もちろん、海外のすべての店がテーブル担当制ではなく、日本にも担当者がきめ細かく接客する店があります。それでも、外国人が日本の呼び出しボタンを新鮮に感じる背景には、この接客を始める人の違いがあります。

飲食店で店員を呼ぶボタンの名前は何?

ファミリーレストランや居酒屋のテーブルにある「店員を呼ぶボタン」には、完全に統一された一般名称がありません。

  • 呼び出しボタン
  • 呼び出しベル
  • 呼び出しチャイム
  • 卓上チャイム
  • 卓上ボタン
  • オーダーコール

メーカーや販売店によって呼び方が異なり、利用する客は名前を知らないことも珍しくありません。「店員を呼ぶボタン」という説明が、最も意味の伝わりやすい呼び方でしょう。

なお、「卓上ベル」はホテルのフロントなどにある、押すと「チーン」と鳴る金属製のベルを指す場合もあります。

「ベルスター」は特定の商品名

飲食店で働いた経験がある人の中には、呼び出しボタンを「ベルスター」と呼ぶ人もいます。ただし、ベルスターはもともと一般名称ではなく、特定の商品名です。

商品名が広く知られた結果、メーカーの異なる呼び出しボタンまでベルスターと呼ばれることがあります。記事中では商品そのものを示す場合だけ「ベルスター」と表記し、一般的な装置は「呼び出しボタン」と呼ぶのが適切です。

日本初の店員呼び出しシステム「ベルスター」は1983年に誕生した

ベルスターを開発したハアーモニーは、同製品を「日本初店員呼出システム」と説明しています。ハアーモニーの公式情報によると、発売は1983年です。

意外なのは、飲食店設備の専門技術から生まれたのではないことです。ハアーモニーがシャッター用電動開閉機で培った無線技術を応用し、飲食店向けのスタッフ呼び出しシステムを開発しました。

初代ベルスターは、押されたテーブル番号を表示器へ優先順に示す仕組みを採用していました。子どもが何度も押すことまで想定し、送信機には30秒の連打防止タイマーも設けられていました。

現在では誰も説明書を読まずに押している小さなボタンですが、最初から飲食店で実際に起こることを細かく想定して作られていたのです。

日本で最初に呼び出しボタンを導入した店はどこ?

残念ながら、最初にベルスターを導入した店の名前は、確認できる公開資料には残されていません。

販売代理店としてベルスターを広めたパシフィック湘南の元社長は、初年度の販売はデモ機を含めてわずか6店舗だったと振り返っています。しかし、その6店舗がどこだったのかは明らかにされていません。

同社はその後、スエヒロレストランシステムとの取引を機に、店側が使い方を想像しやすいマニュアルを整備しました。公開されている沿革では、1993年にすかいらーく、1996年にサイゼリヤへ導入したことが確認できます。

現在では、名前を知らなくても使い方が分かるほど身近な呼び出しボタン。しかし、販売初年度はデモ機を含めても6店舗でした。この落差からも、呼び出しボタンが時間をかけて日本の外食風景に溶け込んだことが分かります。

呼び出しボタンはなぜ日本の飲食店に普及したのか

ベルスターの販売が始まった1980年代半ば、日本はバブル期へ向かい、外食産業でも人手不足感が強まっていました。

呼び出しボタンなら、店員が各テーブルを何度も巡回しなくても、客の用事を見落としにくくなります。客は広い店内で店員を探したり、大声で呼んだりする必要がありません。

さらに、テーブル担当者を固定しない日本の接客ともよく合いました。表示された番号を見て、そのとき対応できるスタッフが向かえるからです。

呼び出しボタンが広がった理由を「日本人は恥ずかしがり屋だから」だけで説明することはできません。

  • 客は大声で店員を呼ばなくてよい
  • 店員は呼ばれた席を見落としにくい
  • 客の食事や会話を必要以上に中断しない
  • 特定の担当者がいなくても対応できる
  • 少ない人数でも広い客席を動かしやすい

こうした客側の快適さと店側の効率が一致したからこそ、呼び出しボタンは日本の飲食店に定着したのでしょう。

海外ではなぜ店員を大声で呼ばないのか

北米やヨーロッパのテーブルサービスでは、担当サーバーが客席を定期的に確認します。客は担当者が近くへ来るのを待ち、目を合わせる、軽く手を上げる、近くを通ったときに「Excuse me」「S’il vous plaît」と声をかけるなど、静かな合図で用件を伝えます。

店員を呼ぶこと自体が禁止されているわけではありません。気付いてもらえなければ、現地の客も当然合図を送ります。問題になりやすいのは、店内に響く声で呼び続けたり、指を鳴らしたりして、特定の店員を呼びつけるように見える行動です。

担当者が客の様子を見に来ることが前提の店では、大きな声を出す必要がありません。そのため、日本では普通の「すみませーん!」も、場所によっては命令的、せっかち、店員を下に見ているように受け取られることがあります。

日本のボタンは「呼んでよい方法」を店側が示している

日本の呼び出しボタンが外国人旅行者に好まれる理由は、この面倒な判断が必要ないことです。

店側が各テーブルへボタンを置き、「用事があるときは押してください」と接客方法を示しています。客は声量や手の上げ方を考えたり、担当サーバーと目が合うまで待ったりする必要がありません。

つまり、日本の呼び出しボタンは、海外ではマナー判断が必要になる「店員を呼ぶ」という行為を、誰でも使える店の正式な手順に変えています。

呼び出しボタンを廃止した飲食店もある

便利な呼び出しボタンを、あえて取りやめた飲食店もあります。

ロイヤルホストは、店員を呼ぶベルスターやドリンクバーを見直し、店員が客席を見ながら必要なサービスを提供する方向へ転換しました。店員との接点を増やし、食事そのものだけでなく、店内で過ごす時間を豊かにしようとしたからです。

この事例は、ボタンがあること自体がおもてなしなのではないと教えてくれます。

客が気兼ねなく呼べることを重視する店には、呼び出しボタンが合います。料理の相談や細かな提案を含め、店員との関係そのものを体験にしたい店には、担当者が客席を見る接客が合います。

大切なのは、店が目指すサービスと、客が求める距離感が一致していることです。

「放っておいてほしい。でも、すぐ来てほしい」を両立する呼び出しボタン

食事中に何度も話しかけられず、自分たちの会話に集中したい。けれども、追加注文や会計が必要になったときには、すぐ店員に来てほしい。

この二つは矛盾しているようで、多くの客が同時に望んでいることです。

海外のテーブル担当制は、担当者が客の様子を見守り、定期的に声をかけることで必要なサービスを届けます。日本の呼び出しボタンは、客自身が接客を始めるタイミングを決めることで、同じ問題を解決しています。

日本の呼び出しボタンが外国人旅行者から絶賛されるのは、単に便利だからではありません。「放っておいてほしい」と「必要なときにはすぐ来てほしい」という二つの願いを、気まずいやり取りなしで両立させているからです。

よくある質問

飲食店で店員を呼ぶボタンの正式名称は何ですか?

完全に統一された名称はありません。「呼び出しボタン」「呼び出しベル」「呼び出しチャイム」「卓上チャイム」などと呼ばれます。一般の客には「店員を呼ぶボタン」が最も伝わりやすい表現です。

呼び出しボタンと卓上チャイムは同じものですか?

飲食店の文脈では、同じワイヤレス呼び出しシステムを指すことがあります。ただし、チャイムは受信側の音や装置全体を指し、呼び出しボタンは客が押す送信機を指す場合もあります。

「ベルスター」は一般名称ですか?

ベルスターは1983年に発売された商品名です。広く普及したため、現場で呼び出しボタン全般をベルスターと呼ぶ場合もありますが、本来は一般名称ではありません。

呼び出しボタンを押すのは失礼ですか?

店がテーブルに設置しているボタンは、必要なときに押して問題ありません。何度も連打する必要はありませんが、注文や会計などで店員を呼ぶこと自体は失礼ではありません。

呼び出しボタンは日本で発明されたのですか?

ハアーモニーは、1983年に発売したベルスターを「日本初店員呼出システム」と説明しています。ただし、呼び鈴や人を呼ぶ装置そのものは、それ以前から国内外に存在します。

日本で最初に導入した飲食店はどこですか?

公開資料では最初の店舗名を確認できません。販売代理店の元社長によると、同社が取り扱いを始めた初年度は、デモ機を含めて6店舗への販売でした。

海外ではなぜ店員を大声で呼ばないのですか?

テーブル担当制の店では、担当サーバーが定期的に客席を訪れます。大声で呼んだり、指を鳴らしたりする行為は、店員を呼びつけるようで失礼だと受け取られる場合があります。

呼び出しボタンがない店ではどうやって店員を呼びますか?

日本では、店員へ届く程度の声で「すみません」と呼ぶか、店員を見て軽く手を挙げる方法が一般的です。高級店などでは、店員が客席を見ているため、目を合わせるだけで気付いてもらえることもあります。

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