箱根で温泉旅館を展開する株式会社一の湯が、2030年に売上高100億円を目指す「100億宣言」を公表しました。2025年12月期実績28億円からの成長を掲げ、旅館を基盤にホテル事業と一棟貸しVilla事業を広げる方針です。
本記事では、発表内容を宿泊事業者の運営実務に引き寄せ、需要の多様化、収益構造、標準化の観点から整理します。老舗旅館が地域性を保ちながら多業態化に踏み出す動きは、同じく人手不足や単価向上に向き合う宿泊施設にとって参考になる論点を含んでいます。
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本記事のポイント
- 一の湯は、旅館・ホテル・Villaの3業態を組み合わせ、2030年売上高100億円を目指す方針を示しました。
- 観光庁の宿泊旅行統計調査やJNTOの訪日外客統計が示すように、宿泊需要を継続的に把握する環境は整っており、事業者側には需要変化に合わせた商品設計が求められます。
- 今回の発表は、箱根という観光地で歴史ある旅館が運営標準化と高付加価値化を同時に進める事例として注目できます。
発表内容の整理

発表によると、一の湯は中小企業基盤整備機構が推進する「100億宣言」企業として公表されました。箱根エリアの温泉旅館を安定収益の基盤としながら、ホテル事業を売上成長の柱に、Villa事業を高付加価値領域に位置付ける構成です。
同社は、長期滞在やプライベート性を重視する宿泊ニーズへの対応、人手に依存しすぎない運営体制の構築を課題として挙げています。そのうえで、旅館・ホテル・Villaを統合する本部体制を整え、運営ノウハウの標準化と出店開発機能の強化を進める方針です。
出典:PR TIMES 創業1630年の老舗旅館「一の湯」、2030年に売上100億円を目指す「100億宣言」を公表。ホテル・一棟貸しVillaへの多業態化で事業構造を変革

多業態化は需要の受け皿を広げる打ち手
旅館業態だけで幅広い宿泊目的を受け止めるには、設備、人員配置、食事提供、価格設計の面で制約が生じます。一の湯が示した多業態化は、既存旅館を残しながら、ホテルや一棟貸しVillaで異なる滞在ニーズを受ける考え方です。
観光庁の宿泊旅行統計調査は、国内の宿泊旅行の実態を把握する基礎統計として公開されています。宿泊事業者にとっては、地域別・時期別の需要を見ながら、旅館型、ホテル型、貸切型のどこに投資余地があるかを検討する前提情報になります。
今回の発表で評価できる点は、老舗旅館のブランドを単に守るだけでなく、顧客の滞在目的に合わせて受け皿を増やそうとしている点です。箱根の地域資源を背景に、価格帯や過ごし方の選択肢を広げる姿勢は、観光地全体の宿泊機会を厚くする可能性があります。
Villa事業は単価向上と運営設計の両立が鍵
発表では、2026年4月から「ICHI VILLA CROSSROAD HAKONE」で米沢牛BBQプランや新たなスキンケアアメニティを導入したことにも触れられています。一棟貸しは、客室販売だけでなく、食、備品、体験、プライベート性を組み合わせて単価を設計しやすい業態です。
一方で、Villaは清掃、在庫管理、無人・省人チェックイン、緊急対応、近隣対応など、旅館とは異なる運営設計が必要です。高付加価値化を進めるほど、現場対応の属人化を防ぎ、品質基準を明文化することが重要になります。
ここで一の湯が掲げる本部体制の統合とノウハウ標準化は、単なる管理強化ではなく、複数業態を横断して品質を揃えるための土台といえます。宿泊事業者が新業態に進む際も、商品企画と同じ重みで運営ルールを設計する必要があります。
訪日需要を見据えるなら地域連携も重要
JNTO(日本政府観光局)は、月別・年別の訪日外客統計を公開しています。国籍別、目的別などの統計資料を継続的に確認できるため、宿泊施設は自社の客層変化を公的データと照らし合わせながら販売施策を見直せます。
箱根のような国際的な観光地では、個別施設の魅力だけでなく、地域内の交通、食、自然、文化体験との接続が滞在価値を左右します。観光庁(国土交通省)の「観光地域づくりのための」支援メニュー集でも、インバウンドの地方誘客や食関連消費の拡大、地域資源を活用した滞在促進が政策テーマとして整理されています。
一の湯がVillaやホテルへ展開する場合も、施設単体の販売だけでなく、箱根の地域体験とどう結びつけるかが成長余地になります。老舗として地域に根差してきた蓄積は、外部の新規参入者には簡単にまねしにくい強みです。
標準化は人手不足時代の成長基盤に
宿泊業では、接客品質を高めるほど現場の経験値に依存しやすくなります。しかし多店舗化や多業態化を進める局面では、現場ごとの工夫を残しながらも、予約、清掃、食事、会計、クレーム対応、設備点検などの基本動作を揃える必要があります。
一の湯が「リーズナブルな価格」と「お客様に喜ばれる価値」の両立を掲げてきた点は、運営効率と顧客満足を同時に追う宿泊業の本質に近い取り組みです。今回の100億宣言でも、単に施設数を増やすのではなく、ノウハウを標準化して再現性を高める方針を示している点は前向きに評価できます。
宿泊事業者にとっての示唆は、成長戦略を売上目標だけで終わらせず、現場で繰り返せる運営単位に落とし込むことです。標準化は個性を消す作業ではなく、地域性や接客の価値を安定して提供するための基盤になります。
まとめ
一の湯の100億宣言は、創業1630年の老舗旅館が、旅館の強みを残しながらホテルとVillaへ事業領域を広げる成長方針です。宿泊需要の多様化、人手不足、単価向上という課題に対し、業態ポートフォリオと運営標準化の両面から向き合う内容と整理できます。
日本の宿泊事業者にとって重要なのは、自社の歴史や地域性を守ることと、新しい需要に合わせて商品を変えることを対立させない姿勢です。一の湯の取り組みは、箱根の老舗が次の成長段階に進む事例として、今後の具体的な運営成果にも注目したい発表です。
企業情報
- 会社名:株式会社一の湯
- 代表者:代表取締役 小川 尊也
- 所在地:神奈川県足柄下郡箱根町塔ノ沢90
- 創業:1630年
- 資本金:11,000,000円
- 事業内容:箱根エリアでの温泉旅館、ホテル、Villa等の宿泊施設運営
- 公式サイト: https://www.ichinoyu.co.jp/
参考資料
- 観光庁『宿泊旅行統計調査(2026-03-31)』: 宿泊旅行統計調査
- JNTO(日本政府観光局)『訪日外客統計(最新公表ページ)』: 訪日外客統計
- 観光庁(国土交通省)『観光地域づくりのための(最新公表ページ)』: 観光地域づくりのための
- 観光庁(国土交通省)『ATWS2023を契機とした(公表資料)』: ATWS2023を契機とした


