世界最古のホテルは日本にある。旅番組やSNSでそう聞いて、意外に思ったことはないでしょうか。実はこの言い方、正確ではありません。ギネス世界記録の認定を受けているのは西洋式のホテルではなく、創業705年とされる山梨県の温泉旅館だからです。ホテルという言葉自体は、ラテン語で旅人や客を意味するホスペスから派生した宿泊所を表す言葉に由来し、日本では1868年に開業した築地ホテル館が最初期の西洋式ホテルとされています。
ホテルの歴史や種類を調べると、旅館との違いや法律上の区分が話題になりますが、法律上の呼び方と実際の営業スタイルは必ずしも一致しません。2018年の旅館業法改正で営業区分そのものが変わっているため、古い情報のまま理解していると実態とずれることがあります。
そこで本記事では、ホテルという言葉の由来から日本での始まり、旅館との法律上の違いまでを一次資料で確認しながら解説していきます。ホテルの歴史や種類を正確に知りたい方は、ぜひご参考にしてください。
この記事でわかること
- ホテルという呼び名がどの言語のどんな意味に由来し、病院を指す言葉と語源を共有していること
- 日本で最初期の西洋式の宿がいつどこに建てられ、なぜ短期間で姿を消したのか
- 世界最古の宿としてギネス世界記録に認定されているのがどの施設で、ホテルとどう違うのか
- 2018年の旅館業法改正で営業区分がどう変わり、現在の条文が何を定めているのか
ホテルという言葉と業態はどこから来たのか
ホテルとは、宿泊料を受けて人を宿泊させる施設のうち、洋式の構造と設備を中心とするものを指す言葉です。ただしこれは日常的な使い方であり、現在の法律上の区分とは一致しません。厚生労働省が所管する旅館業法第2条は、2018年6月15日施行の改正以降、旅館・ホテル営業を簡易宿所営業と下宿営業以外のものと定めており、洋式や和式という文言は条文に残っていません。呼び名の由来をたどると、中世ヨーロッパで巡礼者や旅人を教会が受け入れた施設に行き着きます。
語源はラテン語の宿泊所を表す言葉
宿泊業の教育機関が公開している用語解説によると、この単語は、旅人や客を意味するラテン語のホスペスから宿泊所を意味するホスピターレという言葉が生まれ、フランス語のオテルを経て英語のhotelになったと説明されています。同じ語源から、病院を意味するホスピタルという単語も枝分かれしました。手厚くもてなすという意味が語源に含まれている点は、この業態の性格をよく表しています。
近代的な宿泊施設の原型はアメリカで生まれたとされる
ボストン・マガジンが2015年10月15日に公開した記事によると、個室に鍵と洗面設備を備え、屋内トイレやベルによる呼び出しの仕組みを取り入れたトレモントハウスが、1829年にボストンで開業しました。近代的な宿泊施設の原型とされることが多い建物ですが、これは米国内の報道や資料で紹介されている評価であり、世界共通の公式な認定によるものではありません。この業態がどの施設をもって始まりとするかは、資料によって基準が異なる点に注意が必要です。
日本のホテルはどのように始まったのか
日本で最初期の本格的な西洋式の宿泊施設は、1868年に東京の築地に開業した築地ホテル館とされています。江戸開市にともなう外国人受け入れの必要から建てられた施設で、水洗トイレやシャワー、バーを備えていました。
築地ホテル館は外国人受け入れのために建てられた
清水建設のアーカイブ資料によると、築地ホテル館は、1868年1月の江戸開市を控え、外国人居留民の増加を見込んだイギリス公使の要請を受けて建てられました。2階建てを主体とし一部3階建てや塔屋を持つ本館と、平屋の別棟からなる構成で、客室数はおよそ100室あったとされています。多くの浮世絵に描かれるほどの話題を集めましたが、開業からおよそ4年後の1872年に銀座の大火で焼失し、営業期間は短いものでした。
洋式の宿は旅館の営業スタイルとは別に発展した
日本には古くから旅館という和式の宿泊施設の営業スタイルがあり、洋式の宿は外国人受け入れを主な目的として、これとは別に発展してきた経緯があります。1868年の築地ホテル館が外国人向けに建てられたことは、この分かれ方をよく示しています。
世界最古のホテルは日本にあるという説を検証する
世界最古のホテルは日本にあるという説明は、正確には世界最古のホテルではなく世界最古の宿を指しており、対象も西洋式の建物ではなく日本の温泉旅館です。両者を同じ意味で語ると誤解が生まれます。
ギネス認定は温泉旅館に対するもの
西山温泉慶雲館の公式サイトによると、山梨県にあるこの宿は創業を慶雲2年、西暦705年とし、世界最古の温泉旅館として2011年にギネス世界記録の認定を受けています。認定名も温泉旅館に対するものであり、洋式の構造を主とする業態への認定ではありません。慶雲館の前には、718年創業とされる石川県の粟津温泉法師が同種の記録を保持していたとも紹介されています。創業年で見れば、日本最初期の西洋式の宿である築地ホテル館の1868年より1100年以上前にさかのぼります。
ホテルと旅館は法律上いつから近づいたのか
ホテルと旅館は、2017年までの旅館業法では和式か洋式か、客室数がいくつ以上かという構造要件で区分されていました。厚生労働省が公表した2018年6月15日施行の改正旅館業法により、この区分は旅館・ホテル営業という一つの営業種別に統合され、最低客室数の基準も撤廃されています。世界最古のホテルという表現を使うのであれば、少なくとも現在の法律上の営業区分とは別の話として理解する必要があります。
ホテルの種類や旅館との違いをどう調べればよいか
ホテルの歴史や種類をさらに詳しく知りたい場合は、テーマごとに別の記事で掘り下げています。旅館とホテルの違いの変遷、海外と日本の宿泊文化の違い、高級ホテルやシティホテルといった分類の基準、料金や立地の決まり方まで、それぞれ一次資料をもとに整理しているので、ご参考になれば幸いです。
- ホテルはなぜ生まれたのか起源とヨーロッパから世界への広がり方:ホテルという業態がヨーロッパでどう成立したかを詳しく解説します。
- 海外と日本で異なるホテル文化、チェックインと支払い方法の違い:滞在スタイルの違いを具体的に取り上げます。
- 高級・シティホテル・リゾートホテルの分類は何で決まる?:分類の基準を整理します。
- ホテルの料金と立地と人気を左右している仕組みをわかりやすく解説:料金が変わる仕組みを解説します。
まとめ
- ホテルの語源はラテン語で宿泊所を意味する言葉で、フランス語のオテルを経て現在の呼び方になったとされています。
- 日本最初期の西洋式ホテルは1868年開業の築地ホテル館で、外国人受け入れを目的に建てられました。
- 世界最古のホテルという表現は誤解を招きやすく、ギネス認定の対象は西洋式の建物ではなく、創業705年とされる山梨県の西山温泉慶雲館です。
- ホテルと旅館の法律上の区分は2018年の旅館業法改正で旅館・ホテル営業に統合され、以前の区分とは異なります。
参考資料
- 厚生労働省『改正旅館業法に関する資料(2018年6月15日施行)』: 改正旅館業法に関する資料
- 西山温泉慶雲館『世界最古の宿としてギネス認定8周年(2019年公表)』: 世界最古の宿としてギネス認定8周年
- 清水建設NOVARE Archives『築地ホテル館(ヘリテージ)』: 築地ホテル館
- Boston Magazine『TBT: When the First Modern Hotel in America Opened in Boston(2015年10月15日)』: When the First Modern Hotel in America Opened in Boston
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