ホテルの雑学

ホテルの客室の案内表示はなぜ多言語やピクトグラムで書かれているのか

ホテルの客室の案内表示はなぜ多言語やピクトグラムで書かれているのか
CoCoRo編集部

客室の案内表示が何か国語も並んでいるのを見て、必要なのか気になったことはないでしょうか。ホテルの客室で案内表示が多言語やピクトグラムになっているのは、外国人宿泊者にも避難経路などの安全情報を確実に伝えるための実務対応です。法律で義務づけられているのは避難経路図そのものの掲出であり、それを多言語やピクトグラムで表示すること自体を義務づけた条例はありません。

ただし条例の内容は自治体ごとに条文が異なり、多言語表示の充実度も施設ごとの判断に委ねられています。ある自治体の条例や特定のホテルの対応を、そのまま全国共通のルールとして一般化することはできません。

そこで本記事では、多言語表示が求められる背景を、安全情報の伝達という観点から解説していきます。表示の意味を知っておきたい方は、ぜひご参考にしてください。

この記事でわかること

  • 多言語表示が配慮なのか義務なのか
  • 避難経路図の掲出を定めている条例の内容
  • 外国人宿泊者の規模を示す統計
  • 表示が不十分な場合の確認方法

客室の案内表示に安全情報が含まれる理由

客室の案内表示に避難経路の情報が含まれているのは、火災などの緊急時に宿泊者が自力で屋外への経路を判断できるようにするためです。避難経路図とは、宿泊室から屋外へ通じる避難経路を明示した図のことで、火災予防条例にもとづいて掲出が義務づけられています。

東京都火災予防条例第52条は、旅館やホテルに対し、宿泊室の見やすい場所へ避難経路図を掲出することを義務づけています。観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2026年5月の外国人延べ宿泊者数は1451万人泊で、同月の全体5429万人泊のおよそ4分の1にあたります。日本語だけの表示では、この規模の宿泊者に緊急時の情報が届きません

避難経路図の掲出は火災予防条例上の義務

横浜市火災予防条例第64条は、、ホテルまたは宿泊所には、宿泊室の見やすい場所に、当該宿泊室から屋外へ通ずる避難経路を明示した避難経路図を掲出しなければならないと定めています。客室のドア裏などに避難経路図が貼られているのは、この種の条例にもとづく義務であり、施設が任意で行っている装飾ではありません。同様の規定は他の自治体の火災予防条例にも見られますが、条文の内容や適用範囲は自治体ごとに異なるため、この条文をもって全国一律の基準と一般化することはできません。

条例が定めているのは掲出そのもので、言語までは規定していない

横浜市火災予防条例第64条の条文を確認すると、避難経路図を掲出することは義務づけられていますが、どの言語で表記するか、ピクトグラムを併用するかまでは規定されていません。多言語表示やピクトグラムは、条例が求める掲出義務を、日本語が読めない宿泊者にも確実に果たすための施設側の工夫であり、条例そのものが多言語化を義務づけているわけではありません。この違いを混同すると、多言語表示がない施設は条例違反だという誤解につながるため、注意が必要です。

多言語対応は国の指針でどう位置づけられているか

多言語対応そのものは、法律ではなく観光庁の指針というかたちで国が推進してきた取り組みです。指針は事業者に取り組みを促す内容であり、罰則を伴う義務ではありません。

観光庁のガイドラインは義務ではなく任意の指針

観光庁は2014年3月、観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドラインを策定しました。観光庁自身がこのガイドラインについて、関係者に参考にしてもらい多言語対応に取り組んでもらうためのものと位置づけており、法的な義務ではなく任意の指針です。使用言語は英語を基本とし、禁止や案内、誘導を示す表示には英語の併記を基本とする考え方が示されています。

ピクトグラムは言葉の壁を越える手段として位置づけられている

ピクトグラムとは、文字を使わず図の形で意味を伝える視覚記号のことです。避難経路や禁煙、立ち入り禁止といった情報は、外国語を併記しなくてもピクトグラムだけで十分に伝わる場合があるという考え方が、多言語対応の議論のなかで紹介されています。客室の案内表示に文字と図の両方が使われているのは、読める言語が宿泊者ごとに異なることを前提にした、伝達の確実性を高める工夫といえます。

多言語表示は法律の義務という思い込みを検証する

客室の多言語表示を条例上の義務だと説明する情報を見かけますが、これは正確ではありません。義務づけられているのは避難経路図の掲出そのものであり、多言語やピクトグラムは義務を確実に果たすための実務対応という位置づけです。

対応言語の数や表示の充実度は施設ごとに異なる

多言語表示を義務づける条例がない以上、対応する言語の数や表示の充実度は施設ごとの判断に委ねられています。英語のみを併記する施設もあれば、複数言語やピクトグラムを組み合わせる施設もあり、どこまで対応しているかを一律に語ることはできません。外国人宿泊者の比率や客室のグレードによって、実務上の対応の厚みが変わると考えるのが実態に近い理解です。

義務と推奨を分けて理解すると誤解が減る

避難経路図の掲出という結果は条例で義務づけられていますが、その手段として多言語やピクトグラムを使うかどうかは施設の判断です。義務の部分と推奨の部分を分けて理解しておくと、表示が簡素な施設を見ても条例違反だと誤解せずに済みます。

宿泊時にこの違いをどう活かすか

案内表示の多言語対応に不安がある場合は、義務と推奨の違いを踏まえたうえで、予約時やチェックイン時に施設へ直接確認しておくのが確実です。

避難経路図は客室のドア裏や壁面など見やすい場所に掲出されているはずのものなので、言語が読めなくても図の位置と2方向以上の避難経路の絵柄だけは滞在の早い段階で確認しておくと安心です。多言語表示やピクトグラムがない客室でも、避難経路図そのものは掲出されているのが原則であることを覚えておくと、いざというときの初動が変わります。

まとめ

  • 客室の避難経路図の掲出は、横浜市火災予防条例第64条など火災予防条例にもとづく義務です。
  • 条例が義務づけているのは掲出そのものであり、多言語やピクトグラムでの表示は義務ではありません。
  • 多言語対応は観光庁が2014年に策定したガイドラインが推進する任意の取り組みで、英語併記とピクトグラムの活用が基本の考え方です。
  • 対応言語の数や表示の充実度は施設ごとに異なり、心配な場合は予約時やチェックイン時に確認するのが確実です。

参考資料

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