ホテル業界が「やめとけ」と言われる理由は、統計でも確かめられます。編集部では、主な理由を次の5つに整理しました。
- 所定労働時間が長く、休みが取りにくい
- シフトが不規則で、生活リズムが崩れやすい
- 給料が低く、上がる見通しが立ちにくい
- 体力とクレーム対応の負担が大きい
- 人間関係と教育が人任せになりやすい
宿泊業・飲食サービス業の離職率は2025年に23.7%で、産業別に見て最も高い数字でした。ただし、職場による差も見えています。宿泊業で働き続けている人に職場の満足点を聞くと、最も多かったのは「人間関係、コミュニケーション」でした。応募先を選ぶときは、有給休暇の取得日数、入社後の研修の有無、評価と昇給の基準が示されているかを確かめると、差を見分けやすくなります。
なお、厚生労働省と国税庁の数字は、宿泊業と飲食サービス業を合わせた区分のものです。宿泊業だけの数字は公表されていません。観光庁の調査は、宿泊業だけが対象です。
ホテル業界が「やめとけ」と言われる5つの理由
1. 所定労働時間が長く、休みが取りにくい
宿泊業・飲食サービス業の週所定労働時間(契約上の労働時間)は、1企業平均40時間02分で、産業別で最も長くなっています。年次有給休暇の取得率も50.7%で、産業別で最も低い数字です。付与された15.9日のうち、使われたのは8.0日。半分ほどです。
| 指標 | 宿泊業・飲食サービス業 | 全産業 |
|---|---|---|
| 週所定労働時間(1企業平均) | 40時間02分(産業別で最も長い) | 39時間24分 |
| 年次有給休暇の取得率(2024年) | 50.7%(産業別で最も低い) | 66.9% |
出典:厚生労働省.“令和7年就労条件総合調査の概況「労働時間制度」第1表 1日及び週所定労働時間、第5表 労働者1人平均年次有給休暇の取得状況”.厚生労働省公式サイト.2025年12月.https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/25/dl/gaikyou.pdf,(参照:2026年10月5日).
実際に職場にいる時間は、残業や中抜けがあれば、これより長くなります。ホテルは年中無休です。交代要員がいなければ休めません。人手に余裕がない職場ほど、休みを取りにくくなることが考えられます。
2. シフトが不規則で、生活リズムが崩れやすい
早番・遅番・夜勤を組み合わせたシフトが前提で、旅館では朝食と夕食の間に長い休憩を挟む「中抜けシフト」を組むところもあります。ナイトフロントでは、深夜の泊まり勤務もあります。週末や連休は忙しくなるため、土日にまとめて休むのは難しくなりがちです。
観光庁の調査では、宿泊業を辞めた人(300人)の8.7%が「シフト制・夜勤・休日勤務等の働き方が合わなかったから」を理由に挙げました。宿泊業の中で別の施設へ移った人(119人)では、15.1%が同じ理由を挙げています。
3. 給料が低く、上がる見通しが立ちにくい
一般労働者の所定内給与額は、宿泊業・飲食サービス業で月27万7,200円(2025年6月分)でした。全産業の34万600円を6万3,400円下回り、産業別で最も低い水準です。月に6万円以上の差です。国税庁の調査では、パートを含む1年間の平均給与も275万8千円で、業種別で最も低くなっています。
給料への不満は、同じ業界の中で職場を移る理由にもなっています。宿泊業の中で別の施設へ移った119人のうち、21.8%が「給料に不満があったから」を挙げ、「家庭の事情」(22.7%)に次ぐ2番目でした(出典:上記の観光庁報告書 図Q15)。小規模な施設が多い業界では、評価の基準や昇進の道筋が見えにくい職場もあると考えられます。
4. 体力とクレーム対応の負担が大きい
客室清掃は重いリネンを運ぶ立ち仕事が続き、フロントは笑顔を保ちながらクレームや急な問い合わせに応じます。人手が足りない施設では、一人が複数の持ち場を掛け持ちすることもあります。
観光庁が宿泊業を辞めた300人に理由を聞いた調査では、上位に次の項目が並びました(複数回答)。
| 宿泊業を辞めた理由(上位4項目) | 割合 |
|---|---|
| 自分のしたい業務ができなかったから | 20.0% |
| 立ち仕事や重労働が多く体力的に厳しかったから | 16.7% |
| クレーム対応が多く精神的にストレスだったから | 14.0% |
| 人手不足等により、1人当たりの業務量が多すぎたから | 14.0% |
出典:国土交通省観光庁.“令和6年度「宿泊業の人材確保・育成の状況に関する実態調査事業」報告書”図Q32 宿泊業離職理由.国土交通省公式サイト.2025年3月.https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001891438.pdf,(参照:2026年10月5日).
体力、気持ち、業務量の負担が2位から4位を占めました。最も多かった「自分のしたい業務ができなかった」は、希望と配属のずれが大きな理由になっていることを示しています。
5. 人間関係と教育が人任せになりやすい
新人教育を先輩のOJT(実際の業務を通じて教えるやり方)だけに頼ると、誰に教わるかで育ち方が変わることが考えられます。
観光庁の施設調査(離職率15%以上の143施設、15%未満の220施設)では、離職率が15%未満の施設のほうが、導入研修とコミュニケーションの研修を実施している割合が高い結果でした。
| 研修の実施状況 | 離職率15%以上の施設 | 離職率15%未満の施設 |
|---|---|---|
| 採用後すぐに実施される導入研修 | 38.5% | 50.0% |
| 従業員と経営層、従業員同士によるコミュニケーション活性化のための研修 | 15.4% | 21.8% |
出典:国土交通省観光庁.“令和6年度「宿泊業の人材確保・育成の状況に関する実態調査事業」報告書”図Q17 研修実施状況(離職率別).国土交通省公式サイト.2025年3月.https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001891438.pdf,(参照:2026年10月5日).
差が大きいのはこの2項目で、報告書も「関連がある可能性がある」という表現にとどめています。研修と離職率の因果関係までは示されていません。
人間関係については、宿泊業の中で別の施設へ移った人の18.5%が「職場の人間関係が合わなかったから」を理由に挙げました。家庭の事情(22.7%)、給料(21.8%)に次ぐ水準で、スキルを活用する機会の不足と同率の3番目です。宿泊業そのものを離れた人に限ると、人間関係を理由にした人は8.7%でした(出典:上記の観光庁報告書 図Q15・図Q32)。
働き続けている人の満足点は「人間関係」が最多、「給料」は1割未満
観光庁は、宿泊業で働き続けている人(別の宿泊施設への転職経験がない337人)にも、今の職場で満足している点を聞いています。
| 今の職場で満足している点(複数回答。上位5項目と給料を抜粋) | 割合 |
|---|---|
| 人間関係、コミュニケーション | 41.2% |
| 学歴・性別・年齢・経験有無に関係なく活躍できること | 34.7% |
| 労働時間・休日等の労働条件 | 26.7% |
| 業務内容、配属・異動の制度 | 23.4% |
| 施設の内装や雰囲気、立地 | 18.1% |
| 給料 | 9.5% |
出典:国土交通省観光庁.“令和6年度「宿泊業の人材確保・育成の状況に関する実態調査事業」報告書”図Q25 現在の職場の満足している点.国土交通省公式サイト.2025年3月.https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001891438.pdf,(参照:2026年10月5日).
給料に満足している人は、1割に届きません。それでも働き続けている人は、人間関係、誰でも活躍できること、労働時間や休日を満足点に挙げました。これは勤め続けている人だけの回答で、「該当なし」も14.5%ありました。それでも、「やめとけ」と言われる理由のうち、人間関係、休みの取りやすさ、業務の割り振りは、施設ごとの運営の工夫で改善できる余地がある部分と考えられます。
離職率は下がってきているが、まだ全産業を10ポイント上回る
宿泊業・飲食サービス業の離職率は2025年に23.7%で、全産業の13.7%を10ポイント上回ります。2019年の33.6%からは10ポイント近く下がり、2009年以降で最も低い水準になりました。ただ、この数字だけでは、労働環境が良くなったのかどうかまではわかりません。
推移や他業種との比較は、統計データで見るホテル業界の離職率で詳しく扱っています。

「やめとけ」と言われない職場にするために、支配人・リーダーができること
ここからは、採用や定着に悩む支配人・現場リーダー向けに、5つの理由への打ち手を整理します。
| 「やめとけ」の理由 | 支配人・現場リーダーができること |
|---|---|
| 1. 所定労働時間が長く、休みが取りにくい | 有給休暇の取得日数を部署ごとに把握する。閑散期に会社が日を決めて取らせる「計画年休」を設ける |
| 2. シフトが不規則 | 月ごとに希望休を受け付ける。夜勤明けの翌日は遅番にする。中抜けシフトは朝食と夕食の担当を分けて減らす |
| 3. 給料が低く、上がる見通しが立たない | 評価の基準と昇給・昇格の条件を書面で示す。夜勤や語学など、負担やスキルに応じた手当を見直す |
| 4. 体力とクレームの負担が大きい | 自動チェックイン機や清掃ロボットなど省力化への投資で業務量を減らす。クレームを一人で抱えさせない対応ルールを決める |
| 5. 人間関係と教育が人任せ | 導入研修とマニュアルを整え、最初の1か月は現場に一人で立たせない。定期的な面談で悩みを早めに拾う |
いずれも、働き続けている人が満足している「人間関係」「誰でも活躍できること」「休日」を増やす方向の取り組みです。シフトの組み方や面談のように費用をかけずに始められるものから、省力化への投資のように準備が要るものまであります。
離職の原因と対策の全体像はホテル業界の離職率はなぜ高い?原因と対策で解説しています。教育と評価の見直し方はホテルの教育・評価制度を再設計する方法にまとめました。


まとめ:給料は基準から、休みと人間関係は運営から見直せる
「やめとけ」と言われる5つの理由のうち、所定労働時間、有給休暇、賃金は、いずれも産業別で最も厳しい水準でした。一方、働き続けている人の満足点は人間関係が最多です。給料は評価と昇給の基準を示すところから、休みと人間関係は職場の運営から見直せます。
参考資料
- 厚生労働省『令和7年就労条件総合調査の概況』.厚生労働省公式サイト.2025年12月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:「労働時間制度」第1表 1日及び週所定労働時間、第5表 労働者1人平均年次有給休暇の取得状況 - 国土交通省観光庁『令和6年度「宿泊業の人材確保・育成の状況に関する実態調査事業」報告書』.国土交通省公式サイト.2025年3月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:図Q32 宿泊業離職理由、図Q15 異なる宿泊施設への転職理由/図Q32 宿泊業離職理由/図Q17 研修実施状況(離職率別)/図Q25 現在の職場の満足している点 - 厚生労働省『令和7年賃金構造基本統計調査の概況』.厚生労働省公式サイト.2026年3月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:第1表 性別賃金、対前年増減率及び男女間賃金格差の推移、第5-1表 産業、年齢階級別賃金及び対前年増減率 - 国税庁企画課データ活用推進室『令和7年分民間給与実態統計調査結果について』.国税庁公式サイト.2026年9月.(参照:2026年10月5日).
- 厚生労働省『令和7年雇用動向調査結果の概況』.厚生労働省公式サイト.2026年8月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:「産業別の入職と離職」表4-2 産業、就業形態別入職率・離職率・入職超過率
