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日本のキノコの種類が多い理由|戦後栽培と食卓構造

日本の食卓にキノコの種類が多いのはなぜか。戦後の栽培技術や林業構造、海外との違いから、その理由をわかりやすく解説します。
CoCoRo編集部

日本の食卓はなぜキノコの種類が多いのか

──戦後の栽培技術が生んだ“当たり前すぎる多様性”

スーパーの野菜売り場に行くと、えのき、しめじ、舞茸、エリンギ、椎茸、なめこが当たり前のように並んでいます。
特別な売り場ではありません。ごく普通の日常の光景です。

しかし冷静に考えると、日常的にこれほど多くのキノコを使い分けている国は、世界的にはかなり珍しい存在です。
なぜ日本の食卓では、キノコの種類がここまで増えたのでしょうか。


日本のスーパーにはなぜこれほど多くのキノコが並ぶのか

日本のスーパーでは、複数のキノコが同時に、しかも比較的安価で販売されています。
用途別に選ぶことも珍しくありません。

・味噌汁にはえのき
・炒め物にはしめじ
・香りを出したいときは舞茸
・食感を出したいときはエリンギ
物には好きなキノコ(しめじ、椎茸が一般的)

このような使い分けは、日本人にとってはごくです。

しかし海外では、
「日常使いのキノコは1〜2種類程度」
という国がほとんどです。

この差は、味覚の優劣や好みの問題ではありません。
構造の違いによって生まれたものです。


日本でキノコが多いのは「自然が豊かだから」では説明できない

「日本は森林が多いからキノコも多い」
という説明は、一見もっともらしく聞こえます。

しかし、現在の食卓に並ぶキノコの多くは、
自然に生えているものをそのまま食べているわけではありません。

えのきやぶなしめじ、舞茸、エリンギは、
いずれも安定した栽培と流通が前提となって成立した食材です。

自然環境が豊かであることは一因ではありますが、
それだけで「日常的な多品種消費」は成立しません。


江戸時代の食卓に、今のようなキノコの多様性はなかった

日本では古くからキノコが食材として知られていました。
ただし、それは現在のような姿とは大きく異なります。

江戸時代以前のキノコ利用は、

・発生が不安定
・地域差が大きい
・常備食材ではない

という性格を持っており、
安定して流通する食材ではありませんでした。

そのため、身近に採取できる地域を除けば、
日常的に食卓に並ぶものではなく、
一部では嗜好性の高い食材として扱われることもありました。

松茸や原木椎茸などは知られていましたが、
年中安定して複数種類を選べる状態ではありません。

「昔から日本人は多様なキノコを日常的に食べていた」
というイメージは、現代の食卓を過去に投影したもの
と言えます。


日本のキノコが増えた本当の転換点は「戦後」にある

現在のキノコ多様性を語るうえで、
決定的に重要なのが戦後の変化です。

戦後日本では、

・住宅需要の急増
・林業の拡大
・食料供給体制の再構築

が同時に進みました。

この時期に、キノコは
「自然に頼る食材」から「安定供給される食材」へと性格を変えます。


戦後林業と菌床栽培がキノコを日常食に変えた

戦後の林業では、スギやヒノキを中心とした造林が進みました。
その過程で、大量の間伐材や端材、おが粉といった副産物が生まれます。

これらは建材としては使いにくいものの、
キノコ栽培には非常に適した素材でした。

さらに、菌床栽培技術の発展によって、

・山に行かなくても
・天候に左右されず
・倉庫や施設内で

キノコを作れるようになります。

この技術によって、キノコは
工業的に管理・生産できる食材へと変化しました。


えのき・しめじ・舞茸は「役割分担」で増えていった

菌床栽培が可能になると、
キノコは「1種類を大量に作る」だけでなく、
品種ごとの特性を活かす方向へ進みます。

えのきは軽さと量感、
しめじはクセの少なさ、
舞茸は香り、
椎茸は旨味、
なめこは粘り。

それぞれが競合せず、役割を分担できました。

日本の家庭は、
少量の食材を組み合わせて完成させる構造を持っています。

そのため、
複数種類が同時に成立する余地があったのです。


「かさまし文化」が原因だと思われがちな理由

キノコが増えた理由として、
「貧しかったから」「かさましのため」
という説明がされることがあります。

確かに、戦後しばらくの間、
肉や魚は高価で、キノコは便利な食材でした。

ただし、順序を整理すると、

・多品種を安定供給できる体制が先に整った
・その後、日常使いが広がった

という流れになります。

かさまし需要は原因というより、結果に近い位置づけです。


海外と比べると、日本のキノコ事情はどこが違うのか

海外のスーパーでは、

・日常用のキノコは1種類
・他は高級食材扱い

という構成が一般的です。

これは、
料理が主素材中心で、副素材に多様性を求めない構造と関係しています。

一方、日本の家庭料理は、

・少量
・組み合わせ
・調整

を前提としています。

この違いが、
キノコの多様性を必要とするかどうかを分けました。


日本のキノコの多様性は「産業と食卓」が噛み合った結果

ここまでを整理すると、日本のキノコ多様性は、

・戦後林業による原料供給
・菌床栽培という技術
・多品種を受け入れる料理構造

この三つが同時に成立した結果です。

自然賛美や伝統論だけでは説明できません。

産業と生活が噛み合った結果、生まれた食卓の姿です。


まとめ:日本のキノコは「戦後の食卓が生んだ文化」

えのきやしめじは、
「昔からある普通の食材」ではありません。

・高度に管理され
・安定供給され
・戦後に定着した

非常に現代的な食材です。

それが、当たり前のように複数並ぶ。
この状況自体が、日本の食卓の特徴と言えるでしょう。

次にスーパーでキノコ売り場を見たとき、
少し違った景色に見えるかもしれません。

CoCoRo編集部
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