夏の暑さが続くころ、「暑気払い」という言葉を耳にすることがあります。
会社の飲み会や、ビアガーデンでの集まりを思い浮かべる人も多いかもしれません。けれども、暑気払いは本来、ただお酒を飲むための言葉ではありません。
暑気払いとは、夏の暑さで体にこもった熱や疲れを払い、元気に過ごすための習慣です。昔の人々は、冷たいものを口にしたり、体を整える飲み物を飲んだり、滋養のある食べ物を食べたりしながら、厳しい夏を乗り切ってきました。
この記事では、暑気払いの意味、由来、歴史、時期、納涼会との違い、食べ物や飲み物、海外の反応まで、わかりやすく解説します。
暑気払いとは?意味・由来をわかりやすく解説
暑気払いとは、夏の暑さによって体にたまった熱気や疲れを取り除き、体調を整えるための行いを指します。
現代では「暑気払いの飲み会」「会社の暑気払い」という使い方がよく見られますが、本来は飲み会だけを意味する言葉ではありません。食べ物、飲み物、薬湯、休養、人との集まりなど、暑い季節を元気に過ごすための工夫全体に関わる言葉です。
暑気払いの意味|暑さで弱った体を整える日本の習慣
「暑気」とは、夏の暑さや、暑さによって体にこもる熱気を指します。
暑気払いは、その暑気を払うことです。つまり、暑さで弱った体を整え、夏バテを防ぎ、気力を取り戻すための習慣と考えるとわかりやすいでしょう。
冷たいものを食べるだけではなく、栄養をとる、胃腸をいたわる、汗をかいて体をすっきりさせる、仲間と食事をして気分を変える。こうした行いも、広い意味では暑気払いにつながります。
暑気払いの読み方と使い方
暑気払いは「しょきばらい」と読みます。
日常では、次のように使われます。
- 暑気払いにうなぎを食べる
- 職場で暑気払いを開く
- 暑気払いを兼ねてビアガーデンに行く
- 夏の疲れを取るために暑気払いをする
このように、食事や飲み会だけでなく、夏の疲れを和らげる行動全般に使える言葉です。
現代では会社の飲み会を指すことも多い
現代の暑気払いは、会社や団体の夏の懇親会として行われることも多くなりました。
暑い時期に同僚や仲間と集まり、食事やお酒を楽しみながら、前半の疲れをねぎらい、これからの季節を乗り切ろうとする場です。
ただし、暑気払いを飲み会だけに限定してしまうと、本来の意味が狭くなります。暑気払いの中心にあるのは、夏の暑さに負けないように、体と気持ちを整えることです。
暑気払いはいつから?起源・歴史をたどる
暑気払いの考え方は、古くから日本の夏の暮らしと結びついてきました。
冷房のない時代、夏の暑さは今以上に切実な問題でした。人々は、氷、飲み物、薬、食べ物、涼しい場所などを通じて、体を守ろうとしてきました。
平安時代|氷室の氷や甘酒で暑さをしのいだ宮中文化
古い夏の涼み方としてよく知られているのが、氷室の氷です。
氷室とは、冬の氷を保存しておくための施設です。平安時代の貴族たちは、夏にその氷を取り出し、削った氷に甘い蜜をかけて食べることがありました。清少納言の『枕草子』にも、削り氷に甘葛をかけて食べる様子が出てきます。
もちろん、当時の氷は誰でも手に入れられるものではありません。特別な身分の人々が楽しめる贅沢でした。それでも、暑い季節に体を冷やし、気分を晴らすという感覚は、後の暑気払いの考え方とつながります。
甘酒も、現在では冬の飲み物と思われがちですが、俳句では夏の季語として扱われます。江戸時代には、夏の栄養補給として甘酒が親しまれていました。
江戸時代|麦湯・枇杷葉湯・定斎薬が夏の暑気払いになった
江戸時代になると、暑気払いは庶民の生活にも広がっていきます。
とくに興味深いのが、麦湯、枇杷葉湯、定斎薬といった暑気払いの飲み物や薬が町で売られていたことです。
麦湯は、現在の麦茶に近い飲み物です。江戸では、夏になると麦湯を出す店がにぎわい、夜には縁台や行灯を出して営業することもありました。人々は涼みながら麦湯を飲み、暑さをやわらげていたのです。
枇杷葉湯は、枇杷の葉などを使った薬湯で、暑気払いのために売り歩かれていました。暑さによる頭痛やめまい、体調不良を和らげるものとして受け止められていたようです。
定斎薬も、夏の暑さや体調不良に備える薬として知られていました。江戸の暑気払いは、単なる娯楽ではなく、体を整えるための生活の知恵だったことがわかります。
現代|飲み会やビアガーデンへ広がった暑気払い
現代の暑気払いは、食事会や飲み会として行われることが多くなりました。
これは本来の意味から外れたというより、時代に合わせて形が変わったと見るほうが自然です。昔は麦湯や薬湯で体を整え、現代では栄養のある食事や冷たい飲み物、仲間との会話で気力を回復する。
ビアガーデンも、現代の暑気払いと相性のよい場所です。冷たいビールを飲むだけでなく、屋外で食事をし、夏の夜の開放感を味わいながら英気を養うからです。
暑気払いはいつからいつまで?時期の目安
暑気払いを行う時期には、厳密な決まりがあるわけではありません。
ただし、一般には暑さが本格化するころから、暦の上で秋に入る前後までに行われることが多いです。地域や会社、集まりの目的によっても時期は変わります。
梅雨明けから立秋頃までが一つの目安
暑気払いの時期としてよく目安にされるのは、梅雨明けから立秋頃までです。
梅雨が明けると、気温も湿度も上がり、夏の疲れを感じやすくなります。そのため、7月から8月上旬にかけて暑気払いを行う会社や団体が多くなります。
ただし、近年は暑さが長引くことも多く、8月中旬以降に行われることもあります。大切なのは、暦だけでなく、その年の暑さや体調に合わせて考えることです。
立秋を過ぎると残暑払いと呼ばれることもある
立秋を過ぎると、暦の上では秋になります。
そのため、立秋以降の暑さに対しては「残暑払い」と呼ばれることがあります。暑気払いが夏の盛りの暑さに向かう言葉だとすれば、残暑払いは秋に入っても残る暑さを乗り切るための言葉です。
とはいえ、日常では厳密に使い分けられないこともあります。会社や地域の慣習では、8月後半の集まりも暑気払いと呼ぶ場合があります。
地域や会社によって時期がずれる理由
暑気払いの時期がずれる理由は、地域の気候や仕事の都合によって、暑さの感じ方が違うからです。
例えば、梅雨明けが早い地域と遅い地域では、暑さが本格化する時期が異なります。観光業や飲食業のように夏が繁忙期になる仕事では、少し落ち着いた時期に暑気払いを行うこともあります。
暑気払いは、暦に合わせる行事というより、夏の疲れを感じるころに体と気持ちを整える習慣と考えるとよいでしょう。
暑気払いには何をする?食べ物・飲み物・過ごし方
暑気払いには、いくつもの方法があります。
大きく分けると、食べて体力をつける、飲み物で体を整える、人と集まって気分を変える、という形があります。
ここで大切なのは、暑気払いと納涼を混同しすぎないことです。暑気払いは、暑さで弱った体や気力を整えることに重きがあります。一方、納涼は涼しさを感じて暑さを忘れることに重きがあります。
うなぎや豚肉などスタミナ料理を食べる
暑気払いの食べ物として、うなぎを思い浮かべる人は多いでしょう。
うなぎは栄養価が高く、夏の体力回復を助ける食べ物として親しまれてきました。土用の丑の日にうなぎを食べる習慣も、夏を乗り切る食文化として広く知られています。
日本人とうなぎの関係については、うなぎはなぜ日本人のごちそうになったのかでも詳しく紹介しています。
うなぎ以外にも、豚肉、焼肉、にんにくを使った料理、辛い料理などが暑気払いとして選ばれることがあります。汗をかきながら食べる辛い料理も、体をすっきりさせる夏の食べ方として受け止められています。
そうめん・夏野菜・甘酒で体を整える
暑い日に食べやすいものも、暑気払いの一つです。
そうめんは、食欲が落ちやすい夏でも口にしやすく、涼しげな見た目も夏らしさを感じさせます。日本でそうめんが夏の定番になった背景については、なぜ日本人は夏にそうめんを食べるのかでも紹介しています。
きゅうり、トマト、なす、ゴーヤなどの夏野菜も、暑い季節の体を支える食べ物です。水分が多く、さっぱり食べられるため、夏の食卓に向いています。
甘酒も、夏の暑気払いと関係があります。現在は冬の飲み物の印象がありますが、江戸時代には夏の栄養補給として親しまれ、俳句では夏の季語にもなっています。
麦湯・枇杷葉湯など江戸の暑気払いの飲み物
江戸時代の暑気払いを考えるうえで、麦湯と枇杷葉湯はとても重要です。
麦湯は、暑い時期に町で飲まれていた飲み物です。夜に涼みながら麦湯を飲む姿は、現代の感覚でいえば、夏の夜に外で飲み物を楽しむ文化にも近いものがあります。
枇杷葉湯は、暑さによる体調不良を和らげるものとして売られていました。薬湯や薬の形で暑さに備えるという発想は、暑気払いが単なる娯楽ではなく、体を守る実用的な習慣だったことを示しています。
現代の麦茶にも、こうした夏の飲み物の記憶がどこかに残っているように感じられます。
ビアガーデンや宴会で英気を養う現代の暑気払い
現代では、暑気払いといえば飲み会を思い浮かべる人も多くなりました。
会社の同僚、友人、地域の仲間と集まり、食事をしながら夏を乗り切ろうとする。これは、体だけでなく気持ちを整える暑気払いです。
ビアガーデンは、その代表的な場所の一つです。冷たいビール、屋外の開放感、食事、人との会話が重なり、暑さを楽しみに変えてくれます。
ただし、お酒を飲まなければ暑気払いにならないわけではありません。食事だけの会、甘酒や麦茶を楽しむ時間、家族で栄養のある料理を食べることも、十分に暑気払いといえます。
暑気払いと納涼会・残暑払いの違い
暑気払いと似た言葉に、納涼会や残暑払いがあります。
どれも夏の暑さと関係しますが、目的や時期に違いがあります。この違いを整理すると、暑気払いの意味がよりはっきりします。
暑気払いと納涼会は目的が違う
暑気払いは、暑さで弱った体や気力を整えることが中心です。
一方、納涼会は、涼しさを楽しむための集まりです。川床、屋形船、風鈴、花火、夕涼みなどは、納涼の感覚に近いものです。
たとえば風鈴は、直接体力を回復させるものではありません。それでも、音によって涼しさを感じる日本らしい納涼文化として親しまれてきました。風鈴と日本の夏の関係については、風鈴はなぜ夏の風物詩になったのかでも詳しく紹介しています。
暑気払いは「暑さに負けない体を作る」、納涼は「暑さを忘れる涼を楽しむ」と考えると、違いがわかりやすくなります。
残暑払いとの違いと使い分け
残暑払いは、立秋を過ぎても続く暑さを乗り切るための言葉です。
暑気払いが夏の盛りに行われることが多いのに対し、残暑払いは秋に入っても残る暑さに向けて使われます。
ただし、実際の会話ではそこまで厳密に分けないこともあります。特に会社の行事では、8月後半や9月の集まりでも暑気払いと呼ばれることがあります。
言葉を丁寧に使い分けるなら、7月から立秋頃までは暑気払い、立秋後の暑さには残暑払いと考えるとよいでしょう。
ビアガーデンは暑気払いにも納涼にもなる
ビアガーデンは、暑気払いと納涼の両方にまたがる存在です。
屋外で夜風を感じ、夏の空気を楽しむ点では納涼です。一方で、食べたり飲んだりして英気を養い、仲間と夏を乗り切ろうとする点では暑気払いです。
この重なりが、ビアガーデンを夏の集まりとして定着させた理由の一つでしょう。
海外にも暑気払いはある?世界の夏を乗り切る文化
暑気払いという言葉は日本語ですが、暑い季節を食べ物や飲み物で乗り切ろうとする考え方は、海外にも見られます。
ただし、日本の暑気払いのように、食文化、体調管理、職場の集まり、季節の言葉が一つに重なる文化は、海外の人には少し説明が必要です。
韓国の参鶏湯に見る暑さを食で乗り切る考え方
韓国には、暑い時期に参鶏湯を食べる文化があります。
参鶏湯は、鶏の中にもち米や高麗人参などを入れて煮込んだ料理です。暑い日に温かい滋養食を食べ、体力をつけるという考え方は、日本で夏にうなぎを食べる感覚とも通じます。
暑いから冷たいものだけを食べるのではなく、あえて体を支えるものを食べる。こうした発想は、東アジアの夏の食文化に共通する部分があります。
中国やヨーロッパの夏の食文化との違い
中国にも、暑さを体の中から整えようとする食文化があります。
冷たいものをとるだけでなく、体にこもった熱を逃がすとされる食材や、夏に合う飲み物を取り入れる考え方があります。
ヨーロッパでは、暑い季節にテラスで飲み物を楽しんだり、冷たい料理や果物を食べたりする文化があります。ただし、日本の暑気払いのように「暑気を払う」という言葉で体調管理と集まりを結びつける感覚は、やや説明が必要です。
日本の暑気払いに対する海外の反応
海外の人に暑気払いを説明すると、まず「夏の飲み会」と受け止められることがあります。
とくに会社での暑気払いは、日本の飲み会文化の一部として見られやすいでしょう。上司や同僚との関係、参加の自由度、お酒を飲まない人への配慮などに関心を持つ人もいます。
一方で、暑気払いを「暑さを乗り切るために食べ物や飲み物を工夫する文化」と説明すると、理解されやすくなります。冷たいビールだけでなく、うなぎ、そうめん、甘酒、麦茶、夏野菜なども含めて紹介すると、日本の夏の暮らし方として伝わります。
日本の飲み会文化そのものについては、外国人が居酒屋に惹かれる理由でも紹介しています。
なぜ日本人は暑気払いを大切にしてきたのか
暑気払いが長く残ってきた背景には、日本の夏の厳しさがあります。
日本の夏は、気温だけでなく湿度も高く、体力を奪われやすい季節です。冷房がなかった時代には、暑さをどう乗り切るかは生活に直結する問題でした。
高温多湿の夏が生んだ生活の知恵
暑気払いは、高温多湿の夏を生きるための知恵でした。
水分をとる、栄養をとる、胃腸にやさしいものを食べる、薬湯を飲む、仲間と集まって気分を変える。どれも、暑さを正面から我慢するのではなく、体と暮らしを少しずつ調整する方法です。
江戸時代に麦湯や枇杷葉湯が売られていたことも、暑気払いが庶民の暮らしに根づいていたことを示しています。
暑さを我慢するのではなく、食べて整える文化
暑気払いの面白さは、暑さをただ避けるのではなく、食べ物や飲み物で体を整えようとするところにあります。
うなぎを食べる、そうめんを食べる、甘酒を飲む、麦茶を飲む、夏野菜を取り入れる。こうした行いは、暑さを敵として遠ざけるだけではなく、暑い季節に合った体の使い方を探る文化でもあります。
日本の夏の食文化には、暑さと共に暮らすための細かな工夫が重なっています。
夏の食文化や行事に残る暑気払いの考え方
現代の暮らしでは、暑気払いという言葉を使わなくても、その考え方は残っています。
暑い日に冷たい麺を食べる。夏バテしそうなときに栄養のあるものを選ぶ。仲間とビアガーデンに行く。甘酒や麦茶を飲む。どれも、夏を乗り切るための小さな暑気払いです。
暑気払いは、特別な儀式というより、夏の体と気持ちを整えるための生活文化です。形を変えながら、今も日本の夏の中に息づいています。
まとめ|暑気払いは日本人が夏を乗り切るための生活文化
暑気払いとは、夏の暑さで体にこもった熱気や疲れを払い、元気に過ごすための日本の習慣です。
現代では会社の飲み会として使われることも多い言葉ですが、本来はそれだけではありません。平安時代の氷や甘酒、江戸時代の麦湯・枇杷葉湯・定斎薬、現代のうなぎ、そうめん、ビアガーデンまで、暑気払いはさまざまな形で受け継がれてきました。
納涼が「涼しさを楽しむ文化」だとすれば、暑気払いは「暑さに負けない体と気持ちを整える文化」です。両者は近い関係にありますが、目的は少し違います。
日本人は、暑さをただ我慢するのではなく、食べ物や飲み物、人との時間を通じて、夏を乗り切る工夫を重ねてきました。暑気払いは、その知恵が今も残る言葉なのです。
FAQ
暑気払いとは何ですか?
暑気払いとは、夏の暑さで体にこもった熱気や疲れを取り除き、元気に過ごすための習慣です。現代では飲み会を指すこともありますが、本来は食べ物や飲み物で体を整える行いも含みます。
暑気払いはいつ行いますか?
一般には、梅雨明けから立秋頃までに行われることが多いです。ただし、地域や会社の都合によって時期は変わります。立秋を過ぎると、残暑払いと呼ばれることもあります。
暑気払いと納涼会の違いは何ですか?
暑気払いは、暑さで弱った体や気力を整えることが中心です。納涼会は、涼しさを感じて暑さを忘れるための集まりです。ビアガーデンのように、両方の要素を持つものもあります。
暑気払いでは何を食べますか?
うなぎ、豚肉、そうめん、夏野菜、甘酒などが暑気払いに関係する食べ物として挙げられます。栄養をとる、食欲が落ちたときでも食べやすいものを選ぶ、体を整えることが大切です。
暑気払いは飲み会のことですか?
飲み会として行われることもありますが、暑気払いは飲み会だけを意味する言葉ではありません。暑さを乗り切るための食事、飲み物、休養、気分転換も暑気払いに含まれます。
海外にも暑気払いはありますか?
暑気払いという言葉そのものは日本語ですが、暑い季節に滋養のあるものを食べたり、飲み物で体を整えたりする文化は海外にもあります。韓国の参鶏湯のように、暑い時期に体力をつける料理を食べる例もあります。
