エッセイ

山の日とは?なぜ8月11日なのか|由来・制定理由と海外との違い

山の日はなぜ8月11日なのでしょうか。祝日の意味、1961年から55年をかけた制定の歴史、山の恩恵、日本人の山岳信仰、海の日や国際山の日との違いを解説します。
CoCoRo編集部

8月11日は、国民の祝日「山の日」です。

名前だけを見ると、登山やハイキングを楽しむための休日に思えるかもしれません。しかし、法律に定められた山の日の趣旨は、「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ことです。

ここでいう山の恩恵には、美しい景色や登山の楽しさだけでなく、森林が蓄える水、木材、山菜やきのこ、災害を防ぐ働き、そして山とともに暮らしてきた林業や山村の営みまで含まれます。

山の日は2016年に始まった新しい祝日ですが、その構想は1961年まで遡ります。実現までに半世紀以上を要した背景をたどると、日本人がなぜ山を祝日の対象にしたのかが見えてきます。

この記事の目次
  1. 山の日とは?8月11日に制定された国民の祝日
  2. 山の日は50年以上かけて実現した祝日だった
  3. 山の日は「登山の日」ではない|山の恩恵とは何か
  4. なぜ日本人は山を大切にしてきたのか
  5. 海の日と山の日を比べると日本人の自然観が見える
  6. 海外にも山の日はある?日本の祝日との違い
  7. 山の日は山とのつながりを見つめ直す日
  8. 山の日についてよくある質問

山の日とは?8月11日に制定された国民の祝日

山の日は、毎年8月11日です。2014年に「国民の祝日に関する法律」が改正され、2016年1月1日に施行されました。

まず、基本情報を整理します。

項目内容
祝日の名称山の日
日付毎年8月11日
法律上の趣旨山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する
法律成立2014年
施行2016年
特徴林野庁が「世界で初めての『山』に関する祝日」と説明

山の日は何をする日?

山の日だからといって、山へ登らなければならないわけではありません。

法律が示しているのは、「山に親しむ機会」と「山の恩恵への感謝」です。登山、ハイキング、キャンプ、森林散策などは山に親しむ方法の一つですが、身近な森を歩くことや、山から届く水や木材について考えることも趣旨に合います。自然の中で過ごす習慣が日本でどのように広がったのかは、日本人はなぜキャンプをするのかでも詳しく紹介しています。

登山や本格的なキャンプは難しくても、設備の整った施設で自然を体験する方法もあります。グランピングとは何かを知ると、山や森林との現代的な親しみ方が広がっていることも分かります。

「登山の日」ではなく「山の日」と名付けられたところに、登山者だけの祝日ではないという広がりがあります。

なぜ8月11日になったの?

林野庁が山の日の施行時に発行した資料では、子どもや家族が山に親しむことのできる時期であり、多くの人が休めるお盆前の8月11日が選ばれたと説明されています。

「8を漢字で書いた八が山の形に見え、11が木に見えるから」という説明を目にすることもあります。しかし、これは日付を覚えやすくする語呂や見立てとして広まったもので、法律や林野庁資料が示す中心的な制定理由ではありません。

2020年と2021年には、東京オリンピック・パラリンピックに伴う特例で日付が移動しましたが、通常の山の日は8月11日です。

法律に込められた「山の恩恵」とは

国民の祝日に関する法律は、山の日の趣旨を「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」と定めています。

山は人間から離れた自然ではありません。山に降った雨や雪は森林や土壌に蓄えられ、川となって農地や都市へ流れます。森林は木材を供給し、山地の土砂流出や洪水を和らげ、多くの生き物が暮らす場所にもなります。

山の恩恵に感謝するとは、きれいな風景を眺めることだけではなく、毎日の生活が山の働きに支えられていると気づくことなのです。

山の日は50年以上かけて実現した祝日だった

山の日は、2014年に突然生まれたわけではありません。「山の日をつくろう」という提案は、少なくとも1961年まで遡ります。

全国山の日協議会が公開している記録をもとに、制定までの流れを整理すると次のようになります。

主な出来事制定への意味
1961年富山県立山の登山大集会で「山の日をつくろう」と決議確認できる初期の提案。読売新聞でも報じられた
1997年以降山梨県など各地で独自の「山の日」の取り組みが広がる地域単位で山に親しむ日が生まれた
2002年国連の国際山岳年。富士山エコ・フォーラムなどで山の日制定を提案山岳環境や山村文化を含む全国的な議論につながった
2009年日本山岳会が山の日制定プロジェクトを開始組織的な制定運動が本格化した
2010年山岳5団体が「山の日」制定協議会を発足複数団体による全国的な働きかけへ発展した
2013年超党派「山の日」制定議員連盟が発足国民の祝日とするための議論が具体化した
2014年祝日法改正案が衆参両院で可決8月11日を山の日とすることが決まった
2016年国民の祝日「山の日」を施行第1回記念全国大会が上高地で開催された

出典:全国山の日協議会「『山の日』制定の歩み」

1961年、立山で「山の日をつくろう」と提案された

全国山の日協議会によると、「山の日をつくろう」という呼びかけがメディアに現れた確認可能な初期の例は、1961年7月27日の読売新聞です。

富山県立山で開かれた登山大集会の閉会式で、「山国である日本に山の日がない」として、山を愛し、安全登山を目指す山の日を制定しようという提案が決議されました。

ただし、この提案から現在の祝日まで運動が途切れず続いたわけではありません。その後の具体的な活動が確認できない時期もあり、各地の取り組みや別の団体による提案が重なりながら、後年の全国運動へつながりました。

2002年の国際山岳年が山を考え直す契機になった

2002年は、国連が定めた国際山岳年でした。世界各地で、山岳環境、山で暮らす人々の生活、持続可能な開発などを考える活動が行われました。

日本でも登山団体、研究者、有識者らが活動し、富士山エコ・フォーラムでは山の自然を守り、山に生きる人々の生活文化を尊重するために「山の日」をつくろうという提案が発信されました。

この時点でもすぐに祝日化したわけではありません。しかし、山の日を単なる登山愛好家の記念日ではなく、環境や山村文化を社会全体で考える日とする発想が明確になりました。

山岳団体から超党派議員連盟へ運動が広がった

2009年に日本山岳会が制定プロジェクトを始め、翌年には五つの山岳団体による制定協議会が発足しました。地域の行事や自治体とも連携し、国会議員や関係機関への働きかけが進められます。

2013年には超党派の議員連盟が発足。2014年3月に法案が提出され、同年5月に成立しました。そして2016年、最初の山の日を迎えました。

1961年の提案から数えると、実現まで55年です。山の日は、長い年月のなかで山の意味を「登る場所」から「暮らしと環境を支える場所」へ広げながら成立した祝日といえます。

山の日は「登山の日」ではない|山の恩恵とは何か

山の日に山へ登ることは、祝日の楽しみ方の一つです。しかし、山の日の対象は登山者だけではありません。

林野庁の説明では、森林が果たす山地災害の防止、洪水の緩和、生物の生息・生育、木材生産などの働きも「山の恩恵」と捉えています。

水を蓄え、平地と海へ届ける

山に降った雨や雪は、そのまま一度に川へ流れ込むのではありません。森林の樹木や地表、土壌を通り、時間をかけて川へ流れます。

その水は、飲み水、農業、工業などに使われ、やがて海へ注ぎます。海から遠い都市で暮らしていても、私たちは山の水循環のなかで生活しています。

木材・燃料・山菜などを与えてきた

日本人は長く、山から木材や燃料を得てきました。住宅や家具、紙などに使われる木材だけでなく、かつては薪や炭も日々の暮らしに欠かせませんでした。

山菜、きのこ、木の実などの山の幸も、季節の食文化を育ててきました。山は眺める自然であると同時に、人が生きるための資源を得る場所だったのです。

洪水や土砂災害を和らげ、生き物を守る

森林には、雨水を一時的に蓄え、急激な流出を抑える働きがあります。樹木の根や森林土壌は山地を守り、土砂の流出を抑える役割も果たします。

また、山の森林は多様な植物や動物のすみかです。人の生活を守ることと、生態系を守ることは別々ではありません。森林が健全に保たれることで、山の多面的な機能が続きます。

山の恩恵を支えてきた林業と山村

森林の働きは、何もしなくても永遠に続くわけではありません。特に人が植えた人工林では、植栽、下刈り、間伐などの手入れが必要です。

そうした仕事を担ってきたのが林業と山村に暮らす人々です。山の日を自然だけに感謝する日として描くと、山を守り、利用し、次の世代へつないできた人の営みが見えなくなります。

山の日は、山へ遊びに行くきっかけであると同時に、その景観や水、森林を支えている仕事へ目を向ける日でもあります。

なぜ日本人は山を大切にしてきたのか

日本は国土の多くを山地が占めます。集落や農地の背後には山があり、人々は水や木材を得る一方、崩落や洪水など山の脅威とも向き合ってきました。

恵みを与え、ときに人の力を超えた姿を見せる山は、生活の場であるだけでなく、信仰の対象にもなりました。

山には神が宿ると考えられてきた

日本各地には、山そのものを神聖な存在とみなしたり、神が山に宿ると考えたりする信仰があります。

農耕を営む地域では、山の神が春に里へ下りて田の神となり、収穫後に山へ帰るという伝承も見られます。山から流れる水が田畑を潤す暮らしのなかで、山への感謝と畏れが育まれました。

現在も、元日に山頂や高台から初日の出を拝む人がいます。山、太陽、新年の祈りが重なる習慣については、日本の正月文化と年神信仰でも紹介しています。

自然を一方的に美しいものとして眺めるのではなく、恵みと脅威の両方を持つ存在として向き合ってきたことが、日本人の山への感覚を形づくっています。

修験道では山が祈りと修行の場になった

山岳信仰は、仏教や神道などが重なり合う修験道へもつながりました。修験者は山へ入り、険しい道を歩き、滝に打たれるなどの修行を行います。

大峰山、熊野、出羽三山などは、現在も山岳信仰や修験道と深く結びつく土地です。山は人里から離れた場所であると同時に、日常から離れて心身を整える場所でもありました。

富士山は自然と信仰が重なった象徴

富士山は日本一高い山であり、美しい景観で知られています。しかし、その価値は高さや形だけではありません。

噴火する山への畏れ、山頂を目指す信仰登山、遠くから富士山を拝む遥拝など、長い信仰の歴史があります。富士山が世界文化遺産として登録されたのも、単なる自然景観ではなく「信仰の対象と芸術の源泉」としての価値が認められたからです。

山を自然、暮らし、信仰、文化に分けず、重なり合う存在として捉えてきたことが、山の日の背景にもあります。

海の日と山の日を比べると日本人の自然観が見える

日本には山の日だけでなく、海の日もあります。自然環境を名前に掲げた二つの祝日を比べると、それぞれの性格が分かります。

比較項目海の日山の日
日付7月の第3月曜日8月11日
法律上の趣旨海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する
祝日として施行1996年2016年
背景にある関係交通、交易、漁業、食、海洋国家としての発展水、森林、木材、防災、信仰、山村の暮らし

海の日は海洋国としての繁栄を願う

海の日には、海の恩恵への感謝に加えて、「海洋国日本の繁栄を願う」という言葉があります。

海に囲まれた日本は、漁業や食だけでなく、船による交通や貿易を通じて発展してきました。海の日の意味や成立の背景は、海の日はなぜあるのかで詳しく紹介しています。

山の日は山に親しみ、恩恵へ感謝する

山の日には、海の日のような「国の繁栄」という言葉はありません。まず山に親しむ機会を得て、その恩恵に感謝することが示されています。

海と山は対立する自然ではありません。山の森林に蓄えられた水は川を通じて海へ届き、海から生じた水蒸気は雨や雪となって山へ戻ります。二つの祝日は、海と山に挟まれた日本の暮らしが自然の循環に支えられていることを思い出させます。

海外にも山の日はある?日本の祝日との違い

山を大切にする文化は日本だけのものではありません。ヒマラヤ、アルプス、ロッキーなどの山岳地域では、山が信仰、、農業、牧畜、水資源と深く結びついています。

一方、林野庁は日本の山の日を「世界で初めての『山』に関する祝日」と説明しています。山岳文化を持つ国が多いことと、山そのものを国民の祝日にすることは別なのです。

国連の「国際山の日」は12月11日

国連には、12月11日の「国際山の日(International Mountain Day)」があります。2002年の国際山岳年を受けて設けられ、持続可能な山岳地域の発展や、山で暮らす人々、環境、水、食料などの課題へ関心を高める日です。

ただし、国際山の日は世界共通の国民の休日ではありません。各国や団体が啓発活動を行う国際デーです。

日本の山の日は法律で定められた国民の祝日で、多くの学校や職場が休みになります。国連の国際デーと日本の祝日は、名前が似ていても制度上の位置づけが異なります。

日本の山の日は暮らしに近い言葉で定められている

国際山の日は、山岳地域の持続可能性という世界規模の課題を扱います。一方、日本の祝日法は「山に親しむ」「山の恩恵に感謝する」という、生活者に近い言葉を使っています。

山へ出かけてもよい。近くの森を歩いてもよい。水や木材がどこから来るのかを考えてもよい。具体的な行動を一つに決めず、山との関係をそれぞれの暮らしから見直せるのが、日本の山の日の特徴です。

山の日は山とのつながりを見つめ直す日

山の日は、登山へ出かける人だけの祝日ではありません。

山の水を飲み、木材を使い、森林が災害を和らげる働きに支えられている以上、都市で暮らす人も山の恩恵を受けています。その恩恵を守るためには、森林の手入れや山村の営みも欠かせません。

1961年に「山の日をつくろう」という声が新聞に現れてから、国民の祝日になるまで55年かかりました。その間に山の日の意味は、安全登山を願う日から、森林、環境、山村文化まで含めて山との関係を考える日へ広がっていきました。

8月11日には、山へ登るかどうかだけでなく、蛇口から出る水、木で作られた家や家具、山から海へ続く川にも目を向けてみてください。普段の暮らしのなかにも、山とのつながりが見つかるはずです。

山の日についてよくある質問

山の日はいつですか?

山の日は毎年8月11日です。2020年と2021年は東京オリンピック・パラリンピックに伴う特例で移動しましたが、通常は8月11日です。

山の日はなぜ8月11日なのですか?

林野庁資料では、子どもや家族が山に親しみやすい時期であり、多くの人が休めるお盆前であることが理由として説明されています。「八が山、11が木に見える」という説は、公式な中心理由ではありません。

山の日はいつから始まりましたか?

2014年に法律が成立し、2016年から国民の祝日として施行されました。山の日をつくろうという提案自体は、少なくとも1961年まで遡ります。

山の日には何をすればよいですか?

決められた行事はありません。登山や森林散策を楽しむほか、水、木材、防災など山が暮らしを支える働きや、森林を守る林業・山村について考えることも山の日の趣旨に合います。

海外にも山の日はありますか?

国連には12月11日の国際山の日がありますが、世界共通の休日ではありません。林野庁は、日本の山の日を世界で初めての「山」に関する祝日と説明しています。

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