大阪ガスマーケティング株式会社とグローバルベイス株式会社が共同運営する「MYRENO(マイリノ)」は、京都・鴨川沿いの宿泊施設「Shizuru鴨川」をリノベーションしました。これまで宿泊者に開放されていなかった2フロアを、1組限定のプライベートダイニング&キッチンと宿泊者専用ラウンジへ転換しています。観光地を巡る時間だけでなく、館内で過ごす時間にも京都らしい感覚や交流を織り込む取り組みです。
観光庁(国土交通省)『令和8年版観光白書(概要版)』では、観光白書・観光動向を考える際に、地域資源を単体で見せるだけでなく、受入環境や周辺事業者との連携まで含めて磨き上げる視点が示されています。今回の発表も、施設の魅力を地域での過ごし方や移動導線と結びつけて伝える点で、宿泊事業者が滞在価値を組み立てる参考になります。
本記事のポイント
- Shizuru鴨川の未活用だった2フロアが、食と交流を支える共用空間へ生まれ変わりました。
- 鴨川の流れや木屋町の風景を空間設計に取り込み、滞在中の音、香り、光、手触りまで意識した体験を提案しています。
- 既存建物の特徴を生かしながら館内滞在の選択肢を増やす手法は、宿泊単価だけに頼らない価値づくりの参考になります。
発表内容の整理

今回のリノベーションでは、MYRENOがコンセプト設計、空間デザイン、施工マネジメントを一貫して担当しました。対象となったのは、プライベートダイニング&キッチン「炎ころ hokoro」と、宿泊者専用ラウンジ「辻 tsuji」の2空間です。
「炎ころ hokoro」には、8人掛けのテーブル、冷蔵庫、IHヒーター、ビルトインオーブンレンジ、ワインセラー、プロジェクターなどを備えています。「辻 tsuji」は、待ち合わせや仕事、宿泊者同士の緩やかな交流など、利用者が目的に応じて過ごせるラウンジとして整えられました。
鴨川の静かな流れから着想した施設の世界観を、和紙による柔らかな光、木製家具、水紋を思わせる床材などへ落とし込んでいます。設備の追加にとどまらず、館内での過ごし方を具体的に描いてから設計へつなげた点に、丁寧な空間づくりがうかがえます。
出典:PR TIMES マイリノ、“五感に浸る滞在体験”をリノベーションで実現!京都鴨川沿いの宿泊施設「Shizuru鴨川」をリノベーション
五感を起点に館内滞在の価値を組み立てる
Shizuru鴨川の特徴は、視覚的な内装だけでなく、火が入る音、料理の香り、和紙を通した光、木製家具の手触りなど、滞在中に生じる感覚を一連の体験として設計していることです。施設名の由来である鴨川の情景と、館内で感じる静けさを結び付けることで、場所の記憶が残りやすい構成になっています。
観光庁の『世界的潮流を踏まえた魅力的な観光コンテンツ造成のための基礎調査事業 調査報告書』では、生活没入を観光コンテンツの潮流の一つとして整理しています。この視点を宿泊施設に置き換えると、地域らしさを装飾として見せるだけでなく、食事、会話、休息といった日常に近い行為を土地の空気の中で体験できるようにすることが重要です。Shizuru鴨川が木屋町の景観や鴨川の静けさを館内の過ごし方へつないだ設計は、地域性を滞在体験へ自然に織り込む実務上のヒントになります。
1組限定の食空間が滞在目的を広げる
「炎ころ hokoro」は、食事を提供する場所というだけでなく、宿泊者が料理を囲み、記念日や誕生日を祝い、木屋町の移ろう風景を眺めるための私的な居場所です。ワインセラーやオーブンレンジまで備えたキッチンは、少人数のグループや家族が館外へ移動せず、自分たちのペースで夜を過ごす選択肢を広げます。
宿泊施設の運営では、空間を設けるだけでなく、利用可能時間、調理器具の案内、清掃方法、食材の持ち込み、外部料理人との連携などを事前に整えることで、体験の質と現場負担を両立しやすくなります。設備と利用場面を一体で考えた今回の取り組みは、館内消費や連泊時の過ごし方を育てるうえでも参考になるものです。
ラウンジの余白が交流と休息を支える
宿泊者専用ラウンジ「辻 tsuji」は、木屋町通りの賑わいと対照的な静けさを意識しながら、待ち合わせ、仕事、会話、休息に対応する余白を持たせています。用途を一つに固定せず、宿泊者がその時々の気分で居場所を選べることは、小規模な宿泊施設でも滞在の奥行きを生み出します。
観光庁の令和8年版観光白書によると、2025年の外国人延べ宿泊者数は1億7,787万人泊で、前年比8.2%増の過去最高となりました。その約7割は京都を含む三大都市圏に集中しています。多様な生活習慣を持つ旅行者が行き交う環境では、客室外に落ち着いて過ごせる場所を用意し、利用方法を分かりやすく伝えることが受入環境の充実につながります。静かな休息と緩やかな交流の双方を許容するラウンジは、そのための柔軟な基盤として魅力的に映ります。
既存空間の再編集で持続的な京都滞在へ
令和8年版観光白書では、2025年の延べ宿泊者数が6億5,348万人泊となり、前年比0.8%減だったことも示されています。市場全体の宿泊量だけでなく、選ばれる理由や滞在中の満足を磨くことが、宿泊事業者にとって一段と大切になっています。
京都市の「京都観光振興計画2025」は、観光の質の向上と持続可能な観光の実現を掲げています。Shizuru鴨川が既存建物の未開放フロアを生かし、館内でゆっくり過ごせる機能へ転換したことは、著名な観光地への移動だけに頼らない滞在の提案につながります。地域の風景を楽しむ食空間や、時間を調整できるラウンジがあれば、宿泊者の行動を急かさず、京都での時間を穏やかに分散させる可能性もあります。
新築とは異なり、既存施設のリノベーションでは、現在の動線、景観、構造、運営体制を読み解きながら価値を足していく必要があります。コンセプトから施工管理までを一貫させ、施設の物語と具体的な利用場面を結び付けた今回の進め方は、改修後の運用を見据えた前向きな取り組みです。
まとめ
Shizuru鴨川のリノベーションは、使われていなかった2フロアを、食と交流、休息を支える滞在空間へ転換したものです。「炎ころ hokoro」と「辻 tsuji」は、鴨川や木屋町の情景を館内の光、音、香り、素材へつなぎ、京都で過ごす時間そのものを旅の目的に近づけています。
宿泊事業者にとっては、未活用空間を単に客室化するのではなく、想定客層の行動や感情から必要な機能を考えること、改修後の利用ルールまで含めて設計することが重要です。Shizuru鴨川の取り組みは、既存施設の個性を生かしながら滞在価値を深める一例として、現場でも参考になる取り組みです。
企業情報
- 大阪ガスマーケティング株式会社
- 所在地:大阪市中央区
- 事業上の役割:グローバルベイス株式会社と共同でオーダーリノベーションサービス「MYRENO(マイリノ)」を運営
- グローバルベイス株式会社
- 所在地:東京都渋谷区
- 事業上の役割:大阪ガスマーケティング株式会社と共同でオーダーリノベーションサービス「MYRENO(マイリノ)」を運営
参考資料
- 観光庁(国土交通省)『令和8年版観光白書(概要版)(2025年)』: 令和8年版観光白書(概要版)
- 京都市『京都観光振興計画2025(令和3年度〜令和7年度)』: 京都観光振興計画2025
- 観光庁(国土交通省)『世界的潮流を踏まえた魅力的な観光(公表資料)』: 世界的潮流を踏まえた魅力的な観光
