ホテルの部屋はなぜ土足のままで良いのか、靴を脱ぐべきか迷ったことはないでしょうか。高級ホテルでも客室で靴を脱がないことがあるのは、欧米の多くの地域に、家の中でも靴を履いたまま過ごす生活文化があるためです。日本の旅館やホテルのように玄関で靴を脱ぐ習慣が前提になっていない建物では、客室も土足を想定した設計になっています。
ただし、これは海外のホテルすべてに当てはまる規則ではありません。国や地域、施設のグレードによって対応は分かれており、スリッパを常備する海外ホテルもあれば、靴を脱ぐ生活文化を持つ国も少なくありません。海外のホテルは土足が当たり前と一般化することはできません。
そこで本記事では、客室が土足を前提に設計されている理由と、施設ごとの違いを解説していきます。過ごし方に迷いたくない方は、ぜひご参考にしてください。
この記事でわかること
- 客室が土足を前提に設計されている背景
- 土足かどうかが法令で決まっているのかどうか
- スリッパが用意されている場合の使い分け
- 靴を脱いで過ごせる施設を探す方法
欧米で室内でも靴を履く文化がある理由
欧米の多くの地域で室内でも靴を履いたまま過ごすのは、床を屋外の延長として扱う生活文化があるためです。土足文化とは、家の中と屋外の境界を靴の着脱ではなく玄関の内外そのもので区切る生活様式のことです。
旅館業法施行令第1条第1項は、客室の床面積や換気、採光など8つの号で構造設備の基準を定めていますが、床の仕上げや土足の可否に関する規定はありません。靴を脱ぐかどうかは法令ではなく、各施設が想定する過ごし方によって決まります。
日本人の目には異文化として映る
国際日本文化研究センターの井上章一氏は、著書をもとにした連載のなかで、海外の病院でベッドに靴のまま横たわり、現地の医師から驚かれた自身の体験を紹介しています。井上氏は、日本人が寝床で靴を脱ぐことを当然と感じるのは、それだけ深く根づいた文化的な規範であるためだと述べています。逆に言えば、欧米では寝台の上でも靴を履いたままでいることが、特別なことではない場合があるということです。
住宅の作りと床への意識の違い
欧米の住宅は玄関まわりに一定の広さがある造りが多く、靴のまま入っても室内の奥まで汚れが持ち込まれにくいという環境の違いも背景にあります。床に座る習慣が薄く、椅子とベッドを中心に生活するため、床を素足で歩く場面自体が日本より少ないことも関係していると考えられます。ただし、これらは生活文化の傾向として語られているものであり、欧米の住宅すべてに共通する設計基準ではありません。
靴を脱ぐ文化圏と脱がない文化圏がある
世界の生活文化は、玄関で靴を脱ぐ文化圏と脱がない文化圏に大きく分かれます。どちらが世界の主流かを単純に決めることはできず、地域によって傾向が異なります。
靴を脱ぐ文化圏の例
日本のほか、韓国や、住宅の一部を床座で使う地域では、玄関で靴を脱ぐ習慣が広く見られます。畳や床に直接座る生活様式が、靴を脱ぐことを前提にした住空間を作ってきたと考えられています。
欧米でも一律ではない
同じ欧米圏でも、家庭によっては来客時に靴を脱いでもらう習慣を持つ家庭があり、地域や個人差が存在します。国全体の法律や規則で決まっている話ではなく、それぞれの家庭や施設の慣習として続いてきたものです。ホテルの客室が土足対応になっているかどうかも、この生活文化の延長にある施設ごとの設計判断です。
土足だから不衛生とは限らない
土足文化のホテルが衛生管理を軽視しているという見方は、実際の制度と一致しません。国内外を問わず、宿泊施設には清掃と衛生管理の基準が別に存在するためです。
日本国内にも衛生管理の基準がある
厚生労働省は旅館業法に基づき、旅館業における衛生等管理要領を定め、施設や客室を清潔に保つことを営業者に求めています。この要領は、換気や採光の基準とあわせて客室の衛生管理を規定していますが、土足か土足でないかで基準を分けているわけではありません。靴を脱ぐ習慣がない施設であっても、清掃と衛生管理の義務そのものは変わらないということです。
ベッドスローの由来は確定していない
海外文化圏の一部のホテルでは、ベッドの足元に細長い布をかけた設えが見られます。この布は、靴のまま横になる利用者を想定して寝具の汚れを防ぐためのものだと紹介されることがあります。ただし、この起源を裏づける一次資料は確認できておらず、統一された由来として断定することはできません。日本のホテルでこの布が見られる場合も、装飾や国際仕様への配慮として置かれている例があるという理解にとどめておくのが実態に近い書き方です。
高級ホテルほど双方向に配慮が進んでいる
国際的な宿泊客を受け入れる高級ホテルでは、土足でも快適に過ごせるカーペット素材を採用する例と、和の宿泊文化に配慮してスリッパを用意する例の両方が見られます。土足か靴を脱ぐかは、ホテルの格の高さと直接結びつくものではなく、想定する客層や立地に応じた設計上の判断です。
滞在時に気になる場合の対応
海外ホテルで土足の設えが気になる場合は、事前の確認とチェックイン時の一言で快適さを調整できます。
予約前にスリッパの有無を確認する
公式サイトの客室設備一覧やアメニティ表記に、スリッパの記載があるかどうかを確認しておくと安心です。記載がない場合は、フロントやチャットサポートに直接問い合わせて確認する方法もあります。
持参や貸し出しリクエストで対応する
使い捨てスリッパを持参する、またはフロントに貸し出しを依頼するという方法もあります。素足や靴下で過ごしたい場合は、床に敷くバスマットを増やしてもらえるか相談してみるのも一つの手です。ホテル側の対応可否は施設ごとに異なるため、確約されるものではない点は理解しておく必要があります。
まとめ
- 高級ホテルでも客室で靴を脱がないことがあるのは、欧米に室内でも靴を履いたまま過ごす生活文化があるためです。
- 靴を脱ぐ文化圏と脱がない文化圏は世界に併存しており、欧米はすべて土足と一般化することはできません。
- 厚生労働省の衛生等管理要領は客室の清潔を求めており、土足の施設だから衛生管理が緩いということにはなりません。
- 気になる場合はスリッパの有無を予約前に確認するか、フロントに貸し出しを依頼する方法があります。
参考資料
- 考える人(新潮社)『第1回 ベッドで靴をぬがないで 土足の限界 日本人はなぜ靴を脱ぐのか』(井上章一、連載掲載): 第1回 ベッドで靴をぬがないで
- 厚生労働省『旅館業における衛生等管理要領(令和7年4月1日改正)』: 旅館業のページ
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