ホテル・旅館で離職率の改善や定着率の向上につながった取り組みには、休日を大幅に増やす、客室単価を上げて賃金と休館日に回す、働く場所を社員が選べるようにする、一人ひとりと面談して将来像を一緒に描く、といった方法があります。この記事では、厚生労働省・観光庁・沖縄労働局の事例集と企業のプレスリリースに載っている4つの事例を、施策と成果に分けて紹介します。
| 施設 | 主な施策 | 公表されている成果 |
|---|---|---|
| ホテル末広(愛知県蒲郡市) | 週3日の休館日、年間休日150日以上 | 若手の応募が増え、従業員の約7割が20〜30代に |
| 欽山(兵庫県神戸市・有馬温泉) | 客室を統合する改修、賃金約30%アップ、週休館2日制 | 宿泊単価83.8%向上、離職率の減少 |
| グリーンズ(全国チェーン) | 勤務地を5段階から選べる人事制度 | 離職率16.34%→14.27%、内定辞退73%減 |
| ホテルランタナ那覇国際通り(沖縄県那覇市) | 「夢ノート」を使った1on1面談、メンター制度 | 外国人スタッフ約7割の環境で定着率が安定 |
宿泊業・飲食サービス業の離職率は2025年に23.7%で、産業別に見て最も高い水準です。数字の詳細は統計データで見るホテル業界の離職率で扱っています。
事例1:ホテル末広(愛知県蒲郡市)― 週3日休館で年間休日150日以上に
取り組み
愛知県蒲郡市の旅館「ホテル末広」(従業員33名)は、365日営業による従業員の疲弊と人手不足を受けて、2019年に需要の少ない火曜から木曜までを休館日にしました。年間休日は150日以上になります。
休館日を増やせば、売上は減ります。どう補うか。そこで導入前に収支のシミュレーションを行い、営業日数に合わせて宿泊単価を見直しました。あわせて業務を棚卸しし、フロント・接客と調理・施設管理をそれぞれ統合して、一人が複数の業務を担う体制に変えています。各部門にはリーダー職を2名ずつ置き、人の配置とフォローを任せました。変更にあたっては、総支配人が従業員一人ひとりと面談し、働き方と仕事内容がどう変わるかを説明しています。
成果
「休日が多い職場」として地域で知られるようになり、ライフイベントの多い20〜30代の応募が増えました。2023年の採用では、5名の募集枠に対して想定を上回る応募がありました。若手の定着率も向上し、現在は従業員の約7割を20〜30代が占めています。
ポイント
休館日を増やす前に、売上の減少を単価の見直しで補えるかを数字で確かめた点が要です。少人数で回すために業務の分け方とリーダーの配置を同時に見直しており、「休みを増やす」だけの施策にしていません。
事例2:欽山(兵庫県神戸市・有馬温泉)― 客室を減らして単価を上げ、賃金と休館日に回す
取り組み
有馬温泉の旅館「欽山」(客室31部屋)は、客室数が多い一方で、設備とスタッフが足りないという課題を抱えていました。そこで和室の客室を、リビング・ベッドルーム・露天風呂を備えた和洋室に統合する改修を行いました。客室数を減らすことで、スタッフの人手不足も解消しています。
上がった収益は、従業員にも回しました。給与水準を引き上げ、週休館2日制を設けて、計画的に休暇を取れるようにしています。
成果
2019年と2024年(10月末時点)を比べると、宿泊単価は83.8%上がり、客室稼働率は72.1%から82.5%に、宿泊客の満足度は92点から95点に上がりました。従業員の賃金は30.2%上がっています。観光庁の事例集は、賃金の引き上げや休館日の設定などの効果で、離職率の減少にも成功したと記しています。離職率の具体的な数値は公表されていません。
ポイント
人手が足りないなら、客室を減らす。そのうえで一室あたりの価値を上げた事例です。単価の上昇分を賃金と休館日に回し、売上と働きやすさを両立させています。
事例3:グリーンズ(全国チェーン)― 勤務地を選べる人事制度で離職率が約2ポイント低下
取り組み
「コンフォートホテル」などを全国に展開する株式会社グリーンズは、転勤を伴う働き方が離職の原因になっていることに注目しました。2020年10月に「社員がChoiceできる人事制度」を導入し、社員が希望する勤務エリアを選べるようにしています。
区分は、転居を伴わない「ローカルトリップ」から全国どこでも働く「グローバルジャーニー」まで、旅になぞらえた5段階です。地元で働きたい社員は転居の不安なく働け、全国で経験を積みたい社員にはその機会を用意しました。同社は20年以上前から、年2回・7日間の連休制度も続けています。
成果
離職率は、2020年6月期の16.34%から2021年6月期の14.27%へ下がりました。内定辞退者数は73%減り、同社の発表では応募者総数は175%増加しています。
ポイント
変えたのは給与でも休日でもありません。「どこで働くか」です。全国展開する会社ならではの転勤の悩みに、制度で応えています。
事例4:ホテルランタナ那覇国際通り(沖縄県那覇市)― 外国人スタッフ約7割の職場で1on1面談
取り組み
那覇市のホテルランタナ那覇国際通り(従業員約70名)は、スタッフの約7割を外国人が占めています。スタッフの間で意欲に差が出てきたことをきっかけに、沖縄労働局の支援を受けて、意識の把握と育成に取り組みました。
中心は「夢ノート」です。将来の夢や10年後のキャリアプランをスタッフに書いてもらい、それをもとに上司と1対1で面談します。面談を通じて、日本語検定に挑戦する人や、「沖縄で長く働き続けたい」と話す人が出てきました。
先輩スタッフが後輩の相談に乗る自主的な文化を生かし、経験のあるスタッフを正式なメンターとして育てる計画も立てています。2024年度の時点では、厚生労働省の宿泊業向けキャリアマップを活用し、評価基準と昇進・賃金を結びつけた新しい人事制度を2025年6月に導入することを目標に準備していました。
成果
事例集では、7割を外国人が占める環境で定着率が安定していると評価されています。離職率の具体的な数値は公表されていません。
ポイント
制度づくりの前に、一人ひとりの将来像を聞くところから始めた事例です。国籍に関係なく評価とキャリアを結びつけようとしている点も、外国人スタッフの定着を考える施設の参考になります。
4つの事例に共通すること
4つの施設の施策は、休日、賃金、勤務地、面談とそれぞれ違います。共通しているのは、従業員が何に困っているかを確かめたうえで、制度や経営の仕組みそのものを変えていることです。
休日と賃金を増やしたホテル末広と欽山は、どちらも宿泊単価を見直して原資をつくっています。グリーンズは転勤への不安、ホテルランタナ那覇国際通りは意欲の差という、自社で起きている課題を出発点にしました。他社の制度をそのまま持ち込む前に、自社で辞める理由を確かめる。4つの事例からは、その順番が読み取れます。
離職の原因と対策の全体像はホテル業界の離職率はなぜ高い?原因と対策で、対策ごとの進め方はホテル業界の離職率改善 5つの対策と進め方で解説しています。


参考資料
- 厚生労働省『地域で活躍する中小企業の採用と定着 成功事例集(令和5年度)』.厚生労働省公式サイト.2024年3月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:P.15 - 国土交通省観光庁『宿泊施設の高付加価値化改修による客室単価向上事例集』.国土交通省公式サイト.2025年3月.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:P.16 - 株式会社グリーンズ『「社員がChoiceできる人事制度」で離職率2%減少~ライフスタイルに合わせた勤務地を選べる新人事制度導入から1年~』.PR TIMES.2021年10月.(参照:2026年10月5日).
- 厚生労働省沖縄労働局『沖縄早期離職者定着支援事業 好事例集(ホテル・宿泊業)』.厚生労働省沖縄労働局公式サイト.(参照:2026年10月5日).
参照箇所:令和5年度版P.14-15、令和6年度版P.22-23
